《中国のiCloud暗雲 アップル、中国企業に運営移管》(朝日新聞):中国のIT政策も知らずに記事を書くマスメディアの危うさ

《中国のiCloud暗雲 アップル、中国企業に運営移管》(朝日新聞)

アップルが中国でのiCloud運営を今年から中国国営企業に移管するというニュースはもう1週間くらい前に出たのに、なんでこれを今頃出すんだろうの? ただ、一報が出たあとで自社で検証したという意味で時間がかかったんだろうということで、そこは問うまい。とはいえ、内容を読むと、もし専任の記者ならこの程度その日のうちに書ける程度の量と内容だった。

しかし、記事にはひどい間違いと誤解を生む表記があって、記事レベルとして時間をかけたわりには酷いし、デスクがいるのならこのまま出しちゃいけないレベルのものだ。

まずは、ここ。

これによって、iCloudの設定で、利用国を「中国」にしている人のデータは、すべて中国国内に保存される。

iPhoneなどアップル製品を中国で使っている、あるいは出張などで使う予定の人もこれだけ読むと、ちょっと慌ててしまうような書き方である。これは表記ミスなのか、それとも調べ方が足りないのか。

実際はiCloudアカウント登録時にユーザー当人の「所属国」を中国として登録した場合、今回の話題となっている中国側サーバーに個人情報が登録される。ユーザーが機器を使う「利用国」は関係ない。

つまり、日本人がアカウント登録の際に自分の所属国を「日本」にしておけば、中国で日本から持ち込んだiPhoneを使おうと、あるいは中国であらたにアップル製品を買って、それを既存のiCloudアカウントに登録して利用したとしても、今後中国の国有企業に移行される中国のiCloudサーバーに情報が登録されることはない。つまり、この報道で懸念されている問題とは無関係でいられる。

中国が外国のIT企業に抱く警戒は根強い。その根底にあるのは、13年のエドワード・スノーデン元米中央情報局(CIA)職員の内部告発の影響だ。

これはもう開いた口が塞がらない。社内の年長のIT記者、あるいは中国担当記者やデスクはなぜここをチェックしなかったのか。

もし「中国が外国IT企業に対する警戒のきっかけ」が2013年のスノーデン事件なら、2010年初めにグーグルが中国を撤退するほど受けた嫌がらせは一体何だったのか? さらに遡ってグーグルが本格的に中国入りした際に、わざとグーグルにアクセス不能にしてユーザーを百度に誘導したのはなぜだったのか? 

中国政府の外国IT企業に対する疑心暗鬼が2013年のスノーデン事件に始まるなんて、だれがいいだしたのか? 正確に言えば、あの事件に中国政府は「小躍り」した。だって、世界的にスノーデンの暴露が報じられて、中国政府は「そらみろ、個人情報の盗聴なんてどこの国でもやってるんだ。オレたちだけじゃない」という錦の御旗にできたのだから。

朝日新聞の記者たちは、中国と外国が長年丁丁発止で戦ってきた諜報合戦のことを全く知らないのだろうか? あまりにも中国を知らないか、歴史を知らないか、それとも中国共産党性善説に凝り固まっているのか? 中国がどれだけ海外に対する情報流出に神経使ってきたことを知らない記者が、いま北京に駐在しているのだろうか? 朝日の社内教育っていったいどうなってるの?

朝日新聞は一体なに考えてるんでしょうか? 中国の対外国IT企業締め付けはスノーデンの暴露のせいなんて、そんなことだから中共寄りって言われるんだよ?

こんなフェイクニュースをマスメディアが恥ずかしげもなく堂々と流して、知らん顔していられるのが、日本マスメディアの呑気さである。だからわたしは「マスメディアこそフェイクニュースを流している」ということを検証してほしい、と常々言っているのだが。

追記:
朝日新聞はよく指摘を受けてあとからしれっと記事を更新して訂正を出さないので、念のため参考にした記事タイトルとバージョン部分のキャプチャ貼っておきます。


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