【ぶんぶくちゃいな】ある汚職事件の偽証記録:事実は小説より奇なり

先週末、中国のSNSでシェアされ、注目を浴びた林小楠・元福建省福安市長の汚職容疑取り調べにまつわる告発手記は、一旦週明けに当初のサイトから削除されたにもかかわらず、新たにその中身を転載したサイトが次々現れている。

わたしも友人がシェアしていたのを拾って読みかけていたときに手記が消えてしまい慌てたが、なぜか再度出現した手記は現在にいたるもそのまま残っており、つまり人々に静かに読まれ続けている。

林小楠はなぜ捕まったのか? 記事を見るに、たぶん政治的な問題だろう。もちろん、記事に描かれていることがすべて正しいかどうか、真相は歴史によって検証されるはずだ。しかし、記事が削除されずに残っている以上、このことを討論してもよいということを意味している。

この手記を転送したあるサイトの主が付け加えたコメントである。さらに別の転載サイトにも、そのサイト主がこう書き加えている。

文学は現実を源とするが、現実よりも高尚だといわれるが、ある出版関係者はこう言った。「人の世の曲折は、我われの想像を遠く超えている」

ここで説明するまでもないが、中国国内ではテレビ、映画、小説、報道、ゲーム、動画、あるいはブログや個人のSNSの発言にいたるまで、政府による、いや政府という名の下の中国共産党による検閲の対象にされる。脚本などの過程における検閲に合格して出来上がったはずのテレビ番組や映画作品でも、完成後や放映後に放映/放送や再放送/放映が禁じられることもある。

そうなると、大量の資金と時間、人力を使って製作した側は大損を被る。だから、映画やテレビ番組、ゲームや動画の製作会社は慎重に、政治の風向きを見ながら作品を製作することになる。「大ヒット「後宮」ドラマ『延禧攻略』鑑賞記」でご紹介した、昨年大人気を博した時代劇『延禧攻略』も『如懿伝』もこの1月に、「きらびやかな皇族生活が流行するのは、社会主義の核心価値観にふさわしくない」と批判されて中国国内で再放送がすべて中止されているという。

(なお、『延禧攻略』はこの2月から『瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』というタイトルで日本での放送が決まっている。詳細はこちら。)

社会主義国の中国では、ふと思い出したように前述のような「イデオロギー」が頭をもたげて、「一網打尽」的にその時の流行を叩き潰すというパターンが繰り返されてきた。夢や華やかさを売る時代劇が叩かれると、社会正義や親子の情を謳う現代劇が作られる。だが現代劇が競争の中で題材を求めてあまり手を広げすぎるとがつんとやられるし、リアルに退屈した視聴者を捕まえようとまた華やかな時代劇がまたぞろ出現する。その繰り返しである。

時代劇(朝廷ドラマ)が人気なのはその王朝絵巻らしい絢爛豪華さだけではない。中国の時代劇では「暴力」「ぜいたく」「官僚の悪」「退廃ムード」「遅れた社会」…などが思いっきり描かれているからだ。社会主義下では王朝時代は「悪しき旧体制」と定義されており、官僚の不正や汚職が横行し、王族の暮らしは乱れきっていたと形容されてきた。なので、王朝時代をテーマにすればさまざまな「悪」を描くことができる。製作者たちはそこにたくさんの夢を詰め込み、お金をかけて豪華絢爛(共産党は、ぜいたくは「腐敗」「退廃」を意味すると見なす)にすれば、共産党の教えはどこへやら、視聴者は大喜びだ。今回出た「禁令」はそのぜいたくさが視聴者の間で話題になりすぎたことに対する冷却措置だったといえる。

一方の中国共産党下の社会を描く現代劇は、軍隊も警察も公安も官僚も悪く描いてはならず、主人公は政治的に正しくなければならず、宗教などで人の心を「惑わせ」てはならず、アル中やヘビースモーカーなどの「悪習」を強調してはならず、法律、法規に反するストーリーであってはならない。学生の恋愛ものも禁止、不倫なんてとんでもなく、賭博や麻薬、殺人などの刺激的なシーンはご法度。幽霊もダメで、社会の暗い面を描いてはならない、自殺も基本的にダメでそれでも自殺を描く場合は社会問題を理由にしてはならない…よくもまぁ、これでドラマが作れるなぁ、と思うほどだ。

そこにどーんと、リアルな官僚の汚職をめぐる暗い一面が暴露されたのである。そして、それが堂々と公開され続けていること自体、刺激的だった。

●19万字からなる偽証告発

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