【読んでみました中国本】今の日本を愛するなら忘れてはならない、日本の歴史の一部を担った人たちの足跡:野嶋剛『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』

◎『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』野嶋剛(小学館)

先日、以前の取材原稿を引っ張り出して調べ物をする必要があり、そのとき久しぶりにこの言葉を目にした。

「中国語がわたしのパスポートなんです」

拙著『中国新声代』に収録した台湾の作家、龍應台さんが、中国で行われた会合で「中国の作家」と紹介されたときの言葉だ。中国の政治制度に巻き込まれるのを拒絶し、紹介の言葉を「わたしは中国の作家ではなくて中国語の作家です」と訂正した。

またやはり同書に収めた中国に進出した台湾企業協会の当時会長だった林清發氏も「お金の話になると我われは外国人で、政治の話になると我われは中国人になる」と言っていた。

わたしが見ていても、台湾人は常に歴史や社会認知のギャップにさらされながら生きている人たちだと思う。しかし、彼らはその間をするりとくぐり抜け、「うまく」生きていく術を身をつけているとも感じている。アイデンティティという言葉はときとしてとても深刻な意味をもつが、現代の台湾人たちは目の前に突きつけられた現実に戸惑いながらも、すぐにそれをうまくすり抜けてけろりとするための術を身に着けている、そんなイメージを抱いてきた。

だからだろうか、わたしは海外で中国人や香港人、そして日本人が固まっているのを見かけると、「まーたーかー」と決して好意的ではない気分が湧いてくるのだが、台湾人の集まりはなぜかイラッとしない。彼らの置かれた特殊な身分を彼らがうまく乗り越えて行くには、たぶん外野のわたしたちには分からない思いを分かち合える相手が必要なんだろうと感じられるからだ。

本書は日本との間(はざま)で大事を成し遂げたそんな台湾人たちに目をつけた本だ。

著者は蓮舫参議院議員のいわゆる「二重国籍」問題をきっかけに、日本において台湾人の置かれ続けてきた歴史を考え始めた。そしてそれをこう形容する。

彼らは故郷を何度となく失った。祖国に終われ、祖国に裏切られ、祖国に捨てられた。しかし、生きることを諦めずに、多くのことを成し遂げた。

●孫顔負けのたくましい祖母

ここから先は

3,152字

¥ 300

この記事が参加している募集

推薦図書

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。