見出し画像

ネットメディア「立場新聞」取締りで思うこと(追記あり)

香港のネットメディア「立場新聞」が消えた。わたしが毎日ニュースチェックしているメディアの一つだった。ちょうど今月からニュースチェックの手法を変えたので、記録上では記事タイトルとURLは残っているけれども、内容のほとんどが消えてしまったことになる。

29日早朝6時に「立場新聞」の取材主任である陳朗昇・副編集長の自宅を捜査員が訪れ、同副編集長を拘束すると同時に自宅から資料やコンピュータなどを押収した。そしてそれとほぼ同じ時刻に、今年6月まで「立場新聞」の董事(取締役)を務めていた4人、さらにこの11月に辞職した元編集長、そして現在の担当編集長もそれぞれの自宅で拘束され、連行された。うち、陳氏だけは事情聴取だけで釈放されている。

関係者拘束のニュースは9時頃には香港中に流れ、「立場新聞」のSNSオフィシャルサイトもそれを簡潔に伝えて、ウェブサイトやSNSの更新をストップすると通知。同時に「近いうち」のサイト閉鎖を匂わせていた。午後に警察の国家安全処が会見を開き、そこで容疑について(一方的に)説明。

午後4時過ぎに再び「立場新聞」のSNSアカウントが編集部解散を宣言、11時にサイトを閉鎖してすべての内容を削除すると告知。そして、11時、サイトがからっぽになった。

香港では今年6月に「蘋果日報」(アップル・デイリー)とそれを運営していた「壱伝媒」(ネクスト・デジタル)が、やはり警察の介入で閉鎖に追い込まれている。だが、あのときは6月18日にガサ入れが入って、トップが拘束されたものの、すぐ二人を除いて保釈されて社内に戻れている。そして、約1週間弱、アップル・デイリーは発行されたが、最終的に6月23日を最後に廃刊となった。

だが、今回は早朝の逮捕の直後からサイトの更新が止まり、閉鎖までわずか15時間しか猶予はなかった。

アップルも立場も「予想」はあった。だから、立場新聞関係者拘束のニュースにほとんどの人は「来たか」と感じたものの、ここまで速くすべてが進むとは思っていなかったと多くの人たちが感想を漏らしている。

いろいろ評論を見聞きしながらわたしが感じているのは、アップル・デイリーとネクストメディアの取締りは「国家マター」であり、立場新聞の方は香港警察マターらしい、という違い。

アップル・デイリーは長年、中国政府にとっての目の上のたんこぶで有り続けた。1990年代にはすでにバッグに忍ばせて中国に持ち込むことは出来ない新聞になっていた。国家安全法が施行されると、いの一番に標的にされたメディアとして名前も上がっていた。そして実際に、施行後わずか1ヶ月あまりで実質所有者のジミー・ライ氏が逮捕された。逮捕時の容疑は別件だったのだけれども。

今回の立場新聞取締りは、警察の記者会見の内容を何度読み返してみても、「警察を侮辱した」「警察の非を指摘する報道を行った」「警察を非難する評論(証言)を掲載した」ことがその取締り理由として挙げられていることから、間違いなく「香港警察の怨嗟」だ。

だから、すべてのスピードが速かった。お上の指示を待ちながら処置を決めたアップル・デイリーとは違い、今回は警察が独自に指揮権を握っているのだから。そして、立場新聞の銀行口座を凍結させた警察は関係者に言ったという。

「今回の凍結額は過去最大だ。なぜ、有料購読システムも取っていないお前たちがこんなにお金を集めているんだ? 海外から資金をもらっているんだろう?」

警察は口が裂けても、それが香港市民の期待感を集めたクラウドファンディングだとは信じたくないらしい。

追記)

今回の取締りが中国政府の意図よりも香港警察の意志によって行われているという印象は、香港のニュースを追っているわけではない方にはわかりにくいだろうから、以下、「香港警察 vs 立場新聞」の例を挙げてみる。

今年5月、3月に行われたベトナムマッサージパーラーへの突撃捜査で、客の一人として蔡展鵬・香港警察国家安全処長がいたことを報道。警察は「やましいことはなかった」と内部調査報告を発表したものの、蔡元処長はその後閑職に異動している。

12月にも、昨年9月の中秋節シーズンに香港の税関当局者3人が中国の不動産グループ「恒大集団」の香港事務所の関係者から贈答品を受け取っていたと映像付きで報道。当人らはその後「恒大の関係者は昔からの知り合いであり、業務上の付き合いはない」と弁明したが、元汚職取締局捜査官だった法廷弁護士は「完全な汚職」と明言。しかし、3人はいまだに起訴されていない。

税関は、警察とともに刑務所・拘置所の運営を担当する懲教署、消防・救急などと一律「紀律部隊」とされて、保安局長のもとに置かれる「兄弟」部署。なお、3月には4人を超える会食を禁止する集会禁止令下で、税関局長、入境処長、保安局副局長らがやはり恒大集団の関係者との会食に応じていたことが「明報」の報道で明らかになっており、大騒ぎになったばかり。この件でも保安局は「3人は罰金を払い、謝罪した」として不問に付している(その後、税関局長は異動)。







このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。