【ぶんぶくちゃいな】不動産業界のレジェンド「SOHO中国」売却、創業者夫婦が目指す新天地

香港では今週、「白手興家」(ゼロから叩き上げ)の富豪黎智英(ジミー・ライ)氏が一手に育て上げたメディアグループ「壱伝媒」(ネクストメディア)と傘下の新聞「蘋果日報」(アップル・デイリー)の経営陣5人が逮捕されるという事件が起き、社会は騒然となった。

同時に同グループ社屋の家宅捜索が行われ、取材資料を含む文書やコンピューター44台が押収され、同社関連の銀行口座3つが凍結された。ネクストメディア側によると、凍結された口座の総額は約1800万香港ドル(約2億6000万円)で、他の口座には数億ドルの資金が残されており、しばらく運営には大きな影響はないという。

当局は昨年6月30日の香港国家安全維持法(以下、国家安全法)施行以降、同法を適用してライ氏の逮捕と家宅捜索を行い、そして一旦は保釈された同氏を昨年末からは再収監し、法廷に出るたびにその手や腰に手錠やチェーンを巻かれた様子を敢えてメディアに報道させる手法を取っている。先月にはライ氏所有の3銀行口座を凍結、ネクストメディアは同氏の個人資産凍結が同社の運営に与える影響は少ないとし、同業者や読者、支援者の声援を受けたばかりだった。

今回の家宅捜索翌日も、権力による圧力に負けじと同紙はそのニュースを中心に一大特集を組み、いつもよりも印刷部数を増やして発刊。街では朝イチで一人何部も買い求める人たちが殺到、増刷分も含めて同紙はあっという間に売り切れたらしい。ネットには分厚い同紙を何部もまとめて小脇に抱えて街を行き交う女性やビジネスマンの写真、そして人が集まりそうなところに買い集めた同紙を「ご自由にどうぞ」と無料配布する様子もアップされていた。

今年に入って特に頻繁に、また派手に、さらには中国の香港事務担当者の威嚇発言に伴って行われる逮捕劇を繰り返し目にするようになり、市民にはいかに「合法的に反撃、抵抗するか」を考える余裕が生まれてきたようだ。

人々が手に手にろうそくをもって街角に佇んだ天安門事件周年の夜しかり、10ヶ月の服役を終えて出所した周庭さんを見守る姿しかり、そしてアップル・デイリー爆買いしかり。前代未聞の容疑をかけられて早朝に自宅から連行され、法廷に立たされる人たちの姿を目にするたびに、市民はそれを心の中の抵抗の炎にエネルギーを吹きかけるスイッチととらえているようでもある。

これを「小さな抵抗」とみなすべきなのか否か。もちろん、権力者はそんな抵抗など潰してしまおうとするだろう。力ではかなわない。それをいかにくぐり抜けるかが市民の知恵の見せどころといえる。

香港でそんなことが起こっている一方で、中国では「ぶんぶくニュースクリップ」でもとりあげたように、北京のトップ不動産デベロッパー「SOHO中国」が売却され、その経営権が米国系私募ファンド「ブランクストーン・グループ」(黒石集団)に移った。

この売却話もまた、表立っては語られないがやはり政治の圧力を無視して語れない「結果」である。アップル・デイリー話は《【ぶんぶくちゃいな】「アップル・デイリー」攻略の先に透ける、中国政府の次の「標的」》で触れたので、今回はSOHO中国の「あれこれ」について書いていく。

●大型農作物市場そばの未来ビル


ここから先は

6,056字

¥ 300

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。