【ぶんぶくちゃいな】すり替えられる「一国二制度」、香港メディア王の運命は…?

2022年12月30日、北京で開かれていた全国人民代表大会常務委員会会議で、香港の李家超・行政長官から要請が出ていた、「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)の法解釈が行われた。

法解釈とは、文章で書かれた法律を、現実の施行における具体的案件においてその条文の意味をいかに判断すべきべきかを明確化する作業のこと。国家安全法は香港で施行されている法律だが、制定したのは中国の最高議決機関である全国人民代表大会(全人代)であるため、法解釈も現場の香港ではできず、全人代に求めるしかない。

さらに、全国から3000人近い人民代表が集まる全人代全体会議は1年に1回(3月)にしか開かれないので、その他の期間中は175人の常務委員が集まって開かれる常務委員会が「代理」で議事決定する。最終議決権は全体会議にあるものの、その構成から察されるとおり常務委員会は「政治エリート」の集まりで、実質的に全人代の議決内容を左右している存在である。

李行政長官が法解釈を要請するに至った経緯は、「『メディア王を討て!』、司法で負けて中国政府頼みする香港政府」にまとめたとおりだ。国家安全法違反で起訴されたメディア王、黎智英(ジミー・ライ)氏が自身の弁護に雇用したイギリス人御用法廷弁護士をめぐり、香港律政司(法務省に相当)が待ったをかけようと法廷で争ったものの3回敗訴し、最終法院でも原審支持の判定が下ったためだった。

早い話、香港政府は足下の司法で負け、中国政府に泣きついたわけだ。

行政長官による中国政府への法解釈要請にすぐさま、中国政府直轄機関で香港行政を監督する立場の国務院香港マカオ弁公室(以下、「香港マカオ弁」)、さらに中央政府駐香港連絡弁公室(以下、「中連弁」)も支持を表明した。

ただ、12月中旬になって月末に開かれる全人代常務委会議の議題が公開されると、法解釈が議題に上がっていないことも明らかになった。それを受けて一部親中派議員から、「法解釈は必ずしも行われない」といった発言も飛び出すなどし、法解釈をめぐる香港政府と中国政府の思惑は一枚岩ではない様子も見られた。

それも当然だろう。

ご存知のとおり、中国は12月10日にここ3年来厳格化する一方だった対コロナ措置を突然、ほぼ全面的に解除したばかりだ。そして、この3年間でボロボロになった経済の立て直しが昨秋の党大会以降の喫緊の課題となっており、この常務委会議もまた経済回復策がなによりも重要な議題だった。それに比べれば、すでにほとんどのターゲットをお縄にしてしまった状態の香港における「国家安全」など、優先順位は低かった。

だが、香港マカオ弁や中連弁などの出張機関担当者が常務委関係者の説得に回ったらしい。というのも、中国政府の香港担当者は皆、この仕事で成績を上げて中央政府に返り咲かねばならない立場にある。このチャンスを逃してもし、今後香港行政で「ケチ」がつくことになれば、彼らの中央凱旋どころか地位の維持も危うくなる。だからこそ、自分の将来をかけ、彼らは必死に中央政府に向けて法解釈の重要性について根回しを続けたようである。

そうして、議題にはなかった「香港国家安全法解釈」がようやく12月30日、こうした官僚たちの提出した意見書に基づいて行われた。

●「良きに計らえ」

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