【読んでみましたアジア本】「知っている」からこそもっと「丁寧に知る」:野嶋剛『台湾の本音』(光文社新書)

日本社会にはあまりインパクトを与えるニュースではなかったものの、華人社会ではここ2年ほど注目の的になってきた台湾総統選挙と立法院議員選挙が終わった。
特に総統選挙はこれまでさまざまな紆余曲折を経て、一時は野党・中国国民党(国民党)が有利とも言われたけれども、とうとう与党・民主進歩党(民進党)が政権3期目入りに成功した。

1996年に始まって4年毎に行なわれてきた総統選挙では、これまで国民党と民進党が2期8年の政権を維持することはできても、3期目へと維持できないという「2期のジレンマ」を超えることができずにいた。今回初めて、それも現職の蔡英文氏ではなく、新たに擁立された頼清徳氏が当選を果たした。

その一方で、台湾の国会議員にあたる立法委員選挙では民進党は過半数を取れず、今後の政府は日本語的にいえば「ねじれ」に直面することになった。これもまた現行の立法委員選挙制度が施行された2008年以来、ずっと「総統選を制した党が立法院を制する」形が続いていたものが初めてその歴史を書き換えた。もちろん、これはこれで今後さまざまな混乱や衝突も予想されるが、一方では政府は立法院に対して説明責任を果たしていく必要性がこれまで以上に高まるわけで、ある意味「政府の議会中心運営」にさらに一歩近づけたといえるだろう。

但し、選挙戦では相変わらずの「台湾っぽさ」があった。たとえば、民進党の頼氏優位のムードを破ろうと、一時は国民党の侯友誼・総統候補と、民衆党の柯文哲・総統候補が手を組み、連合候補として出馬するという機運が高まり、両党の政党カラーから「藍白合」(「合」は「手を組む」の意味だが、発音的に「青い百合」にも通じ、新鮮なイメージがあった)と呼ばれて注目された。

だが、メディアの注目を受けて派手に話し合いを続けてきたのに、昨年11月にそれが破綻、さらにその理由として柯氏側が「侯候補がカネと引き換えにわたしに副総統職をおしつけようとした」と暴露したことが話題になった。その直前まで「藍白合」の立候補宣言もうすぐ!と多くの人たちが思っていたのに、この「破局」の仕方はなかなかドラマチックだった。

さらに、そこに中国で大規模にアップルなどの組立工場を展開する鴻海精密機器グループ(中国での企業名は「富士康 FoxConn」)の創業者、郭台銘氏も政党背景をもたない独立の総統立候補として名乗りを上げていたが「藍白合」の破綻後、自らの立候補を見送るとする声明を発表。最終的に、民進党の頼候補、国民党の侯候補、民衆党の柯候補の3人が選挙戦に出馬、最終的に頼氏が勝利した。


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