《ドゥテルテ氏、習近平氏と会談へ 南シナ海問題棚上げか》(朝日新聞)


http://digital.asahi.com/articles/ASJBM7RLTJBMUHBI02B.html

南シナ海調停以降、中国は口では日米を牽制するようなことを言っているが、実際にはASEANに頭こそ下げないが低調な姿勢で対応している。一方、麻薬マフィアに対する手荒い取り締まりがアメリカから激しく避難されているドゥテルテ大統領としては、この際そんなアメリカにしがみついてガミガミ言われるより、中国からお金を引き出した方がずっと良い、という判断はありだろう。でも、たぶん今後ASEANと中国の間では同様の外交が展開されることを想定しておいたほうが良い。

もちろん、その選択が「正しい」かどうかはここで、日本人である我々が論じても仕方がない。というのも結局は我われの論は「日本の利益」に経って展開するからだ。実際に南シナ海問題は歴史上の責任は別にして、日本が直接口出す話ではない。だが、そこに日本が口を出すのは、

1)中国の覇権を警戒
2)南シナ海の航行権への影響を心配
3)東シナ海(尖閣)に有利な文言の形成
4)中国に反発する/不安を感じる(だろう)ASEANに恩を売って優位に立ちたい

という思惑があるからだ。

わたしは日本が日本の利益を考えて行動することは間違っていないと思うので、これが悪いことだとは思わない。だが、日本で展開されている南シナ海問題の討論は「あくまでも日本の利益に従って行われている」ということはきちんと理解しておくべきだ。その上でこのドゥテルテ大統領の選択が正しいかどうかは、最終的にはフィリピン国民がその利益から歴史を振り返って判断することなのである。

また、南シナ海問題に関して安倍ちん政権が振り回す「法の支配」云々は一見耳に入りやすいが、日本が盾にするアメリカが今回の中国と同じように仲裁裁判所の判定を無視した例があるのだから、あまり強いことは言えない。言うならアメリカにも言ってみろ、ということになる。実際、中国の政府系メディアでは南シナ海判定直後にたびたびこの米国の例を取り上げて論じており、中国がその前例に「倣った」ことは間違いない。

一方で、日本の「法の支配」云々の呼びかけに、南シナ海周辺の権利当事者であるASEANはどう応じたか。7月の判決以降何度か会合が開かれ、声明が協議されてきたが、実際には中国を名指しで批判する結果にはならなかった。

もちろん、そのウラには中国のカネ、技術、そして経済交流といった「利益」がちらついているのは事実だ。ASEANの小国は、ドラえもんの出演キャラの一人「ジャイアン」みたいな中国と長年付き合ってきたし、さまざまな影響を受けてきた。ジャイアンの向こう側にいる日本が時々思い出したように「法の支配」を振りかざしても、ASEANにとって、目の前のジャイアンに立ち向かうだけのパワーにはなりえないし、いまだかつてなったという前例すらないのである。

だが、ASEANには長年陸続き、そして民族の血統続きという、中国が中国と呼ばれる前からの付き合いが蓄積されている。中国とは海で隔てられている日本とは違い、彼らは日常において常に中国と触れ合ってきた。その経験が蓄積されている。

ASEANの一見「腰砕け」に見える声明も実はその経験からくるものだと考えれば、無視できるものではない。小柄でまだ貧しいアジアの国々が生き残っていくためには、いかに現代のスーパーパワーを利用するかが第一になる。そのために彼らはあの手この手で自国の利益を考えているのである。

中国とは、日本と同じように海で隔てられているフィリピンもまた同じ状況だ。ここでむやみに近隣と一発触発の状況を作って自国を追い詰めるより、使えるものは使って自国をまず潤わせることを考える――それが時の施政者に求められているのだ。

わたしはそういう意味で、日本はもっとASEAN諸国の対中姿勢に学びつつ中国との付き合い方を考えるべきだと思っている。それを前提に考えるならば、我々はどの程度ASEAN諸国のことを知っているのか? まず日本は自分の利益を押し付ける前にそこから始めるべきだろう。

#私的NC

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