【ぶんぶくちゃいな】ポスト中国現代美術バブルを巡る「剽窃か創作か」

中国ではまだ「豬年」(ブタ歳)が開けて1ヶ月しか経っていないが、中国ではもう最初の「年度漢字」候補が出現した感じだ。

「抄襲」、剽窃という意味である。こんな事を言うのは何だが、剽窃自体はそれほど珍しいことではない。昨年も突然、若い大学助教授の論文が論文サイトから消え、大騒ぎになったと思ったら剽窃を理由にその学者は学位を剥奪され葬られた。学術の世界では「またかー」という感じで呆れられつつも、驚くべきは若く、年長の学者に比べて情報手段に長けたはずの人たちがするりとやってのけることだ。もっと驚くべきことにその助教授は詰めかけてメディアに「学術の世界がどれほど大変かわかってるの?」と逆ギレしたことも話題になった。

この春節直後に若手俳優、霍天臨氏が昨年、北京電影学院(大学に相当)に提出した博士論文に他者がすでに発表した論文から丸パクリ、つまり剽窃があったことが明らかになった。この霍さん、春節前夜(つまり大晦日)に放送された中央電視台の「春節晩会」で小話の出し物にも出演しており、若手俳優のホープの一人だった。

霍氏の写真を見たところ、がっしりした骨格を持ち、太い眉ながら甘いマスクのいかにも80年代生まれの中国北部(山東省)出身の俳優だ。オンラインの百科サイトで経歴を見ると、親戚が日本にいる関係で、中学、高校時代は日本で過ごしたらしい。

その彼が出演した「春節晩会」は国民的お正月番組といわれ、今でこそ若者たちはオンラインで好きなストリーミングを楽しむことに慣れきっているが、それでも中国のほとんどの家庭で大晦日の晩には正月を迎えるための儀式のように見られている。バエラエティー的な要素が強いが、日本人にとっての紅白歌合戦に匹敵する。「春節晩会」に出演できるのはそれなりの有名人かその有名人が中心のグループに限られるのだが、そこにチョイ役ででも出してもらうことで、芸能界での地位は大きく違ってくる。

そんな、中国テレビ界トップに君臨する中央電視台の覚えめでたかったはずの霍さんが博士論文で剽窃したようだという騒ぎは、正月ボケからまだ世の中が目覚めておらず大したニュースもなかったために、毎日のようにメディアに大きく取り上げられ、大事件のように報道された。

「だいたい、俳優に博士課程が必要なのか?」という声も飛び出したが、実際には今の中国は俳優に限らず、「都会で石を投げれば大卒に当たる。もうなんの意味もない。家にカネがあればネコも杓子も修士さま博士さまを目指す」とよく言われており、そんな教育課程批判にも飛び火した。

その後、霍氏は剽窃を認めて謝罪、博士課程を返上し、さらに籍を置いていた北京大学の商工管理学博士課程も辞退。現在は蟄居状態にあるようで、その後の消息は流れてこなくなった。霍氏はわずか1ヶ月で天国と地獄のローラーコースターを味わった。

そして、その霍氏の進退や処分が決まり、その話題も落ち着きつつあった時、次の「剽窃騒ぎ」が出現した。驚いたことに、その剽窃の指摘を受けたのはわたしも面識のある人物だった。

●27億円作品を生み出した芸術家が「盗んだもの」

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