【ぶんぶくちゃいな】植民地の亡霊を呼び醒ました香港「覆面禁止法」

10月4日、政府への抗議デモが続く香港で「覆面禁止法」が緊急措置によって公布され、5日午前0時から施行されることになった。

同法によると、今後、違法集会、認可を得ていない集会などの活動に参加する人物がその身分を分別するのを避けようと顔を覆う物品をつけてはならないとしている。さらに、記者会見した保安局長の解説によると、合法的(つまり、警察に正式に申請してその「不反対通知」を受けた)集会に参加する場合にも適用されるそうである。

一方で、職業上の必要性/医療従事者/疾病/宗教などの理由がある場合はその対象とはならないとされており、つまり警官らのマスク着用は「職業上」の理由により認められるということになっている。

これに対して、記者会見では激しい意見が飛んだ。というのも、警官にはもともと公務執行時には求めに応じて「委任状」(警官ID)を見せることが義務付けられている。だが、デモが始まって以来の取り締まり、あるいはデモ以外の場合でも突然警官に取り囲まれたり、身体検査を受けた場合にそのID提示を求めても無視される、あるいは逆に凄まれるという出来事が数え切れないほど起きている。

保安局長は、「警官は公務を執行しているだけであり、このためもしその行為に不適切なところがあれば、いつでもクレームを受け入れる」と述べた。だが、実際に制服警官ならば必ず一人ひとりが持っている警官番号バッジもつけていないケースがほぼ、蔓延している。「それでどうやって警官一人ひとりを認識してクレームを届けることができるのか」という質問に対しては、「さまざまな識別方法がある」と言うばかりで正面から答えなかった。

こうした、公務執行における警官のルール無視、そして不作為はすでに公然の事実であり、もちろん逆にデモ隊や抗議者、あるいは一般の市民がその点を激しく攻撃、抗議することでさらなる衝突や逮捕劇へと発展するケースも枚挙にいとまがない。

そんな悪循環に市民は不満と怒りをつのらせ、その一方で警官側はそんな市民の要求にはなにがなんでも応えまいとする姿が対立を生んでいる。今や市民と警察の間には、不満と不信感しか横たわっていない状態で、政府や警察は引き続き警官隊側の引き締めや不祥事にはまったく触れようとしないし、認めようとしない。

その上での「覆面禁止法」制定であるから、金曜日のランチタイムから市民がデモや抗議を始めたのは当たり前だった。

香港大学法律学部の張達明教授は、「覆面禁止法の制定はある意味、逃亡犯条例改定案よりも深刻な問題をはらんでいる」とまで言い切っている。それを制定するために超法規的な「緊急法」が引用されたからだ。

今回はこうした、香港の法律体系、さらには行政を大きく揺さぶることになりつつある「覆面禁止法」の制定にまつわる話題を取り上げる。

●警官隊に殴打された「黄色い物体」とは

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