【読んでみましたアジア本】香港と上海、南京条約で生まれた「双子都市」の「その後」/榎本泰子『上海 多国籍都市の百年』(中公新書)

いつも香港を訪れた際に必ず声をかけて会う友人たちがいる。香港時代からの友人、その後知り合った香港人、さらに香港に暮らす日本人、そして北京出身香港居住者のほかに、いつの間にか気付かないうちに、「上海出身の香港人」というグループが増えていることに気がついた。

自分でも不思議だった。香港人や日本人はともかく、なんで上海に暮らしたこともないわたしのそばに上海出身者たち?

わたしは、上海は独特の文化を持ち、経済力もあり、さらに近年は中国国内では非常に親日的なおしゃれな都市だなぁとは思っている。だが、2001年に香港を離れて中国に移ろうとしたとき、北京を選んだ。まぁ、北京はわたしにとって短いながらも初の中国生活をした場所、という関係もあったが、なによりも当時多くの香港人が目指していた上海に行くことが、わざわざ離れようとしているにもかかわらず「香港の続き」を引きずってしまいそうだったからだ。

だから、上海は外国人にとって住みよいし、北京に比べてお上品だし、日本人にも優しいという評判をその後何度も耳にしたが、それでも上海に引っ越そうかな、という思いを抱いたことは一度もなかった。わたしには、上海よりもっとごっつい中国北方文化を味わえる北京のほうが似合っていると思っていた。そして間違いなく、香港とはまったく違う北京で十何年間中国を眺めたことは、その後の中国の政治ムードを見るには大きく役立った。実際にビジネスのために暮らし向きが楽な上海に移住して、そこでの生活を「これが中国だ」と語る多くの日本人在住者の発言を聞くたびに、「いやいやいや……」と首を振らざるを得なかった。そして、今も然り、だ。

アンチでは決してないつもりだが、「上海イコール中国」という見方はとても危険で中国を見誤る可能性がある。もちろん、それが「北京イコール中国」でも同じなのだが、少なくとも「上海イコール」の声が日本語の世界にこだまするたびに、「いやそれは違う」と声を上げることができた。もちろん、それにさらに「それも違う」と誰かに言われることを期待するというおまけもついた。たくさんの死角がある、それでこそ中国なのだ。

中国は広い。外国人に優しい「ショーケース」の上海だけ見たところで、なにもわからない。


●上海と香港、双子の国際都市

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