【ぶんぶくちゃいな】ジャーナリズムを学ぶ中国人留学生たち@香港パブティスト大学の教室から

9月中旬から始まった、2カ月間の香港バプティスト大学(HKBU)ジャーナリズムフェローシップも、今週ちょうど1カ月の折返し点を迎えた。

これまでジャーナリスト教育というものを一切受けてこなかった野良犬ライターのわたしにとって、今回の体験はなかなか新鮮である。

学術と関係のない世界の人には、「フェローシップ」などといわれてもなんのことやらピンと来ないかもしれない。

フェローシップというのは、大学や学究機関がその研究分野における人的ネットワーク作りを目的に、外部の事業関係者や学術関係者に滞在費用を提供し、一定期間共同で研究を行ったり、学術交流をすることだ。

ジャーナリズムの世界で有名なのは、米ハーバード大学のニーマンフェローである。アメリカの地方新聞の社主が亡くなった後、その夫人が優秀なジャーナリストの育成のためにと100万ドルをハーバード大学に寄贈したことから始まった。

そのお金をもとにできた財団が毎年、世界中から中堅どころのジャーナリストたち20数名(そのうち半数が米国のジャーナリストのはず)を選抜してハーバード大学に集め、生活費を含む奨学金を提供して、1年間ハーバード大学で日常行われている授業を自由に選んで聴講しつつ、研究活動やイベントをこなしながら1年間過ごす。

ニーマンフェローのすごいところは、ハーバード大学が受け皿になっているというだけではなく、選ばれたジャーナリスト当人の配偶者及び子どもたちもともにハーバードで暮らせることだ。さらに配偶者にも学内施設の利用や授業聴講などの面でジャーナリスト当人と同じ権利が与えられ、ゆったりと1年間、家族全員で学術の真髄に触れて自分を磨くことができるのだ。

世界中の優秀なジャーナリストと共同で研究や討論を進めることで世界レベルの報道ジャンルを超えた交流が深まり、ジャーナリスト自身がその関心や知識の世界を広げられ、他国の、また他分野のジャーナリストから新たに学ぶこともできる。

だからこそ、特に英語ジャーナリズムの世界においては高く評価されている。残念ながら日本では英語能力の壁、及び英語ジャーナリズムへの関心の低さもあって、メディア人でも同フェロー制度の存在すら知らない人が多くいる。そのため日本からのニーマンフェロー参加者は数年に1回という状況だが、中国からはここ10年以上、ほぼ毎年必ず中国人ジャーナリストが参加している。

まぁ、日本人の職業ジャーナリストの場合、言葉だけではなく、いちいち仕事を1年間も休んでいられるか、(ニーマンフェロー期間中は日常の仕事を離れることが求められる)…となってしまうのだろう。だが、世界中からさまざまな報道経験を持つ同業者たちが集まり、その熱気に当てられることで、一旦自身の立場や姿勢をも見直すことができる機会はそのまんま職業ジャーナリストを続けていてもそれほどないはずだ。

今回わたしが参加したHKBUのフェローシップは、このニーマンフェロー体験者の教授が中心になり、今年初めて募集が行われたものだから、制度的にもまた規模や名声からしても、当然ながらニーマンフェローの足元にも及ばない。だが、それでもこれまでまったく生活環境も、関心テーマも、またその経験すらも違うメンバー9人が日々顔を突き合わせて暮らしながら学究生活を送るという体験は大変刺激的なものとなった。

また同時に、香港でも有数の歴史あるジャーナリズム学院を有するHKBUにこうした形で招かれたことで、現代香港における高等教育事情を垣間見ることができたのもわたしにとって収穫だった。フェローシップそのものについては改めて落ち着いてからチャンスを見て書きたいが、今回はそんなHKBUを舞台にした、香港における高等教育、特にジャーナリズム教育について感じたことをまとめてみる。

●院生の90%が中国からの留学生

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