【ぶんぶくちゃいな】中国ヒップホップは死なず

最近、日本メディアの中国報道がなにやらおかしい。ばらばらっと西洋著名メディア複数が記事にした後、だいたい翌日になって中国に記者を置いている日本のメディアから報道が出てくる。まるで西洋メディアの後追いをするような記事が増えた気がするのだ。

もちろん、メディアや記者によって得意分野や日常の注目テーマが違うこともあるだろう。それは今に始まったことではなくて、中国駐在記者だけの話でもない。しかし、最近の中国報道では明らかに、「これは英語記事が出たのを読んで、慌てて情報かき集めて書いているな」とよく感じるようになった。

ネットが(やっと日本メディア関係者にも)普及して、瞬時に海外で出版、配信された記事を手軽に目にできるようになったのも一因かもしれない。それでも「中国専任の担当記者がいるのだから、この程度の話題にはすぐに気がついてもいいだろうに」と思うような記事が西洋メディアの後追いで出てくるのが不思議でならないのだ。

たとえば、わたしのnoteで無料公開しているこの話。このときは出遅れた日本語メディアのほとんどが、西洋メディアの報道に気がついて元記事を探し始めたときにはそれは掲載されていたサイトから削除され、残っていた別の香港メディア記事を引用した。

だが、問題は、最初の記事は明らかに中国政府当局の介入で削除されたのに、残っていたのはどう考えても当局にとって削除要請する必要のない、つまり「忖度された」記事だったことだ。メディアがそれに気づかず引用したのは致命的だった。つまり、初動の遅れはそのまま「ニュースバリュー」のない記事を垂れ流すに至ってしまった(詳細はリンク先でご確認を)。

同じパターンが今週に入ってすぐ英語メディアでばらばらと流れた「中国国家新聞出版広電総局がヒップホップを禁止」のニュースでも起こった。日本メディアでは23日頃から、やはり1日遅れで流れ始めている。もっとも早く日本語で流れた記事はAFPなど西洋メディアの翻訳記事のようだ。noteで取り上げた話のように「忖度記事」こそ掴まされなかったが、タイミング的に英語で大量に流れた後に慌てて腰を上げたというのは、情けないことこの上ない。

「怠けているわけではない。いろいろ仕事があって忙しいのだ」という言い訳もあるだろうが、西洋メディアだって忙しくないわけがない。英語メディアを見て初めて中国社会の動向に気づくのなら、中国にいる駐在記者は一体なにを見て仕事しているのだろう?

さらに、共同通信の記事はわずか数行の記事の中に、「体制批判に結びつきやすいヒップホップ文化が大衆に浸透することを警戒したとみられる」と書き方をしている。

だが、先行する海外記事やわたしが目にした香港・台湾を含む中国語記事で情報を収集しても、中国ヒップホップの「体制批判」に触れた記事は一つもなかった。逆に、中国では昨年夏に製作されたヒップホップ番組が一大ブームを巻き起こしたという背景が紹介されていた。

共同通信の記者は中国ヒップホップ事情を知らなかったのかもしれないが、ちょっと調べればすぐわかるはずである。「禁止令」が出たことが焦点の報道だからと、事の次第も理解せず単純に「反体制」に落とし込んでしまったのではないか、という思いが拭えない。

はっきり言うと、この「ヒップホップ禁止令」は「体制批判」や「反体制」とは直接関係はない。なのに、メディアのこうした「ぶっちゃけ」仕事がそのまま読む側の「(正しく)知る権利」を損害している。このことを、「第四の権力」であるメディア関係者はもっときちんと意識すべきではないか。

●始まりは芸能スキャンダル…

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