タリバンを用いた中国の間接的な戦争

■タリバンによるアフガニスタン支配
 アメリカのバイデン大統領は7月8日、アフガニスタンから今年の8月31日までに撤収することを発表した。これは2001年の911テロを基点とする、20年間続く戦争の終わりを意味していた。

 アメリカ軍がアフガニスタンから撤退する可能性は以前から知られていたので、バイデン大統領になって実行されたことになる。だが実際に撤退が開始されると、タリバンは攻勢に出た。8月13日にはアフガニスタンの大半を制圧。

「戦争は終わった」 タリバン、全国民の恩赦発表(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3362110

 さらに8月18日になると、タリバンの報道官は、「戦争は終わった。(最高指導者が)全ての人に恩赦を与えた」と公言。だがタリバンによる報復が開始されており、恩赦など無いことが明らかになっている。

 だがタリバンの勝利は明らかであり、アフガニスタン政府とアフガニスタン軍が、11日間で崩壊することはアメリカ軍にも予想外であった。それに対して中国は、以前からタリバンとの友好関係を築いていたので、タリバンの政府承認を検討する動きを見せている。

■驚きの弱さ
 アメリカ軍がアフガニスタンから撤退すれば、タリバンが活発化するのは明らか。だがアフガニスタン政府と軍隊が、11日間で崩壊するのは驚き。アメリカ軍は長年アフガニスタン軍を育成。だが1機23億円とされるAT-29(スーパーツカノ)軽攻撃機16機がタリバンに鹵獲されたらしい。

 国外へ脱出した機体も有るらしいが、アフガニスタン軍は全体的に戦闘を回避。国外逃亡か降伏する弱さに驚き。AT-29(スーパーツカノ)軽攻撃機は、対テロ・対ゲリラ戦を目的として使われる。アフガニスタン軍に最適な機体として採用されたのだが、「豚に真珠」の言葉が相応しい現実になった。

 アメリカ軍トップはアフガニスタン軍の弱さに驚いているが、私も戦わないアフガニスタン軍に驚いている。20年近くの歳月を用いて訓練を行えば、それなりの戦力になる。さらに外国軍からの支援を受けたのだから、装備としても良いものになっている。アフガニスタン軍に装備と金を与えても、組織が腐敗していると、タリバンと戦闘になれば敵前逃亡を選ぶのだろう。

■間接的な戦争
 中国は以前からタリバンと友好関係に有ることは知られている。しかもタリバンが仮想敵国アメリカと対立するなら、タリバンを用いて間接的な戦争を行うことは自然の流れ。さらに欧米は中国への軍事的な圧力を強め、イギリス空母打撃群までアジアに到着。今後フランス軍のアジア派遣も決定しているから、中国との戦争すら予測される。そうなれば、中国は別の場所に戦場を作る必要に迫られる。

 そんな時にアフガニスタンは選ばれた戦場。仮想敵国と対立する国・組織を支援して、仮想敵国と戦わせるのは間接的な戦争と言われる。過去の戦例であれば、日本と戦闘していた蒋介石へのアメリカ軍による支援。

 中国はタリバンを支援してアメリカと間接的な戦争をしていた。間接的な戦争の利点は、実行しても証拠として採用されないことにある。だから各国は、間接的な戦争を使って国防を行うことが基本。

 国際社会は自国の軍隊を用いて戦争を開始すれば、今の平和を否定する行為と見なされる。ならば間接的な戦争で、自国の防衛が有利になるようにする。今回の中国は、危機的な状況から脱するために、タリバンを用いている。

 目の前に敵軍が集まり攻撃準備をしている。そんな時に、別の場所に任意に戦場を設定できるのか?戦争史を見ると、第二次世界大戦のイギリス軍による北アフリカ戦線が該当する。

 第二次世界大戦のドイツ軍はイギリス本土上陸作戦を計画した。ドイツ軍はイギリス本土上陸作戦を開始するために、フランスに戦力を集めた。イギリスは危機感を感じ、本土防衛ではなく、ドイツ軍の攻勢軸をイギリス本土から別の場所にすることを選んだ。それは後に有名になる北アフリカ戦線。

 イギリスは空軍で防御を選び、陸軍・海軍は北アフリカで攻勢を行なった。ドイツ軍としては、北アフリカ戦線は無関心だった。何故ならドイツの国防では無意味であり、イタリアの覇権拡大に巻き込まれてしまった。

 イタリア軍の予想外の弱さに驚かされ、ドイツとしては不本意な軍隊派遣になった。ドイツ軍の目的はイギリス本土上陸だから、北アフリカ戦線は迷惑なお荷物。政治的な問題でドイツ軍を北アフリカ戦線に派遣したが、名将ロンメル将軍が予想外の快進撃。

 皮肉なことに、後に砂漠の狐と呼ばれるロンメル将軍が、ドイツ軍の攻撃軸をイギリスから北アフリカ戦線に変えた可能性が有る。次第にイギリス本土への戦力が北アフリカ戦線に向けられ、バトル・オブ・ブリテンの敗北。さらにドイツ軍はソ連に侵攻し東部戦線が作られ、イギリス本土への上陸作戦を諦めたのは事実。

■二匹目のドジョウ
 中国も第二次世界大戦のイギリスに似た状況。仮想敵国の戦力がアジアに集まり、中国への先制攻撃も想定される。ならば、中国ではなくアフガニスタンに攻撃軸を変えさせれば、中国防衛は成功する。

 アメリカ軍がアフガニスタンから撤退を開始したので、タリバンが攻勢に出た。実行すると、アフガニスタン政府・軍隊は11日間で崩壊。予想外の速さで、中国が望む結果が生まれている。

 タリバンがアフガニスタンを征服したのであれば、欧米軍がタリバンを目標とした空爆を実行するには明らか。そうでなければ、アフガニスタンに残された自国民・外国人・アメリカ軍協力者を助けられない。

 これで欧米軍の戦力がインド洋・インドに集まれば、欧米軍の攻撃軸は中国からアフガニスタンに変わる。こうなれば中国は、二匹目のドジョウを得ることになる。だがアメリカ軍の攻撃軸が中国に固定され、アフガニスタンを脇役にする可能性は有る。タリバンへの空爆を行うが、自国民・外国人・アメリカ軍協力者を助けるまでだったら?この場合は、米中戦争開始を遅らせただけになる。

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