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中国の接近阻止戦略には欠点が有る

■接近阻止戦略
 中国の軍事戦略は基本的に接近阻止。これは中国本土に接近するアメリカ空母艦隊を段階的に攻撃して撃破する戦略。中国は長射程の対艦ミサイルを開発し、アメリカ空母艦隊の射程外からアウトレンジする様にした。

 中国は従来の対艦ミサイルだけではなく、弾道ミサイルを用いた超長射程の対艦ミサイルまで保有。これで中国本土からグアムまで射程圏内に収めることができた。

■基本概念
 中国は仮想敵国を上回る射程距離から敵軍を攻撃する軍事思想を使っている。これは基本的に大砲の砲撃戦。中国は第一次世界大戦で使われた大砲の砲撃戦と沿岸砲の概念を対艦ミサイルに置き換えた。だから対艦ミサイルの運用も火力主義になっている。

戦闘の5機能
1:発見
2:拘束(火力攻撃・遠距離)
3:撹乱・制圧(火力攻撃・遠距離)
4:機動
5:打撃・占領(接近戦・近距離)

 大砲の砲撃戦は基本的に1km辺りの大砲密度は30から35門が基本。攻撃と防御は、この大砲密度で敵陣地を砲撃して敵兵を拘束する。そして砲撃で敵陣形や指揮命令系統を混乱させる。敵が混乱している間に自軍部隊の機動部隊が敵陣地まで機動し、敵陣地を打撃することで完成する。

機動の目的論
「敵を窮地に陥れるように戦術的に運動すること」
「敵の弱点に向かって運動することによって、敵の作戦計画を崩壊させ、敵指揮官や敵部隊の神経を麻痺させること」

機能論
「戦場において打撃手段を有する部隊の運動を戦術的に操作すること」

 中国のロケット軍は大砲を用いた砲撃戦の基本概念を対艦ミサイルに置き換えている。だから中国の接近阻止戦略は陸戦思想を海戦に適用していると言える。

■防御戦闘
 中国の接近阻止は大砲を用いた防御戦闘の対艦ミサイル版。敵歩兵を長射程の大砲で砲撃して消耗させる。さらに接近する敵歩兵を中射程の大砲で砲撃。さらに接近する敵歩兵を短射程の大砲で砲撃する。さらに接近した敵歩兵を短射程の大砲とマシンガンで消耗させる。

 中国空母艦隊とアメリカ空母艦隊の戦いになると質・量でアメリカ空母艦隊が上回る。中国海軍の艦隊はアメリカ海軍の艦隊には勝てない。そこで中国は陸戦思想でアメリカ海軍に挑んだと思われる。

 アメリカ海軍を上回る対艦ミサイルの量で圧倒することで、中国空母艦隊を火力支援する。仮に空母艦隊同士の戦闘になったとしても、中国本土から飛来する弾道ミサイル型対艦ミサイルで火力を補うことができる。

 中国は弾道ミサイル型対艦ミサイルでアメリカ海軍に損害を与え、さらに接近したアメリカ空母艦隊を、中国空母艦隊と対艦ミサイルで迎撃する思想と言える。

■作戦原則
 3000年の海戦史を見ると艦隊を攻勢的に使えば勝利するが、防御的に使うと敗北する傾向が有る。これは海戦が可能性の世界であり陸戦の必要性の世界とは異なるからだ。陸戦では燃料が尽きてもその場に留まれる。その場に留まることは持久戦と決戦の組み合わせになる。

 それに対して海戦では燃料が尽きると漂流する。そのため海戦ではその場に留まれない。海戦では基地と戦場を何度も往復することで制海権を獲得する。このため海戦は大小の決戦の連続で制海権を獲得している。つまり海戦では決戦しか発生しないのが原則。

 中国は対艦ミサイルでアメリカ海軍を圧倒しているが、陸戦と海戦は別物であることに気付いていない。だから作戦原則を無視した戦略になっている。この作戦原則を無視して勝利した戦例は無い。これは中国の接近阻止戦略に欠点が有ることを意味している。

■忘れられた対潜水艦作戦
 中国の接近阻止戦略は長射程の対艦ミサイルを用いてアメリカ空母艦隊を攻撃する。だから射程圏内であればアメリカ空母艦隊を攻撃可能。しかもアメリカ空母艦隊の射程に入る前に、中国軍は何度も対艦ミサイルで攻撃できる。中国の接近阻止はアメリカ空母艦隊を徹底的に目の敵にしているが、アメリカ原子力潜水艦対策が欠落している。これは接近阻止戦略の致命的な欠点になっている。

 公にされている接近阻止戦略と中国軍の装備から見ると、アメリカ空母艦隊の備えは有るがアメリカ原子力潜水艦への備えが無い。中国海軍の質・量ではアメリカ原子力潜水艦を殲滅することはできない。それなのに備えが無い接近阻止戦略では、アメリカ原子力潜水艦の中国本土接近を容易に許してしまう。

 しかもアメリカ原子力潜水艦は対地攻撃用の巡航ミサイル・トマホークを装備している。アメリカ海軍が複数のアメリカ原子力潜水艦を中国本土まで接近させ、巡航ミサイルで中国の対艦ミサイルを攻撃すれば?

 完全撃破は不可能でも、発見された中国の対艦ミサイルはアメリカ海軍の巡航ミサイルで破壊されてしまう。そうなればアメリカ空母艦隊を攻撃する対艦ミサイルの数は、段階的に減ることを意味する。

■アメリカ海軍には対抗策が有る
 アメリカ軍は作戦原則に従い戦う伝統を受け継いでいる。それは敵軍の手段を破壊することで戦略を破壊する原則を貫いている。さらに艦隊を攻勢的に使う作戦原則を貫いている。

 アメリカ海軍の潜水艦運用は、第二次世界大戦時の対日本戦で飛躍的に向上した。この時のノウハウは容易には理解されない。中国は目の前で発生した出来事を理解せぬまま接近阻止戦略を採用。これはアメリカ海軍には好都合で、中国には悪夢が約束されている。

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