近江演劇祭〜滋賀里劇場〜

関西で演劇する場所といえば、やはり大阪だろうか。学生の街・京都もあるだろう。京都劇場が減ってきているとはいえ、学生劇団が大小様々あるため、まだまだ演劇の土壌はある。神戸も最近、シアターエートーという小劇場が三宮駅前にできたし、いまやそこはかなり勢いのある小劇場だ。劇場のイメージがないのは、奈良と滋賀、和歌山くらいだろうか。

そんな3県のうち、滋賀県は滋賀里という場所に一つの劇場が2019年3月31日にプレオープンした。

その名も「滋賀里劇場」

もともとは、とある住宅関連会社の建屋だったそうだが、滋賀県のとある高校演劇部顧問の方が買い取り劇場として再活用したんだそう。現在は東京にある演劇企画制作会社のエクイステージさんが委託管理者として管理されている。

内装は小劇場と侮るなかれ。設備はしっかりしているし、楽屋というか演者が自炊して簡易で泊まれるような設備もある(これは周辺に宿泊施設がないための苦肉の策だそうだ)

そんな新しい劇場で、去る5月18日、19日に「近江演劇祭」というイベントがあったので、18日に通しで観劇してきた。

参加団体は、以下の団体(敬称略)

劇団道草/スピカ/演劇ユニットグリム/朗読の会「言野原」/只今/劇団ここから屋/演劇集団ビワボスゴリラ/劇団さあもん/劇団月光斜TeamBKC/冷夢睡眠/雨思考/劇団テフノロG/

以上、滋賀県内外の12団体。

結論から言うと、どれも本当に力のある劇団、ユニットばかりで滋賀演劇の力を感じた1日だった。演劇祭の実行委員会の人たちも丁寧な運営でとても好感の持てる運営だった。SNS の運営もツイッター、フェイスブックともにしっかりと力を入れていて劇団紹介のミニ動画も面白く紹介されていてそれもよかった。

1日通して全団体を見たわけだが、私個人の私見として特にいいな、これから伸びるなと思った劇団は3組ある。

一つは、演劇集団ビワボスゴリラ。これはまずネーミングセンスに惹かれた。女の子たちがメインのユニットなのに、ゴリラだ。これは直感的に面白いと感じた。やはり名は体を表すと言うが、ある程度インパクトのある劇団名である必要があるなあとこの劇団を見て感じた瞬間である。見てみると、ストーリーがしっかりしている中に俳優たちのアドリブっぽさ(多分台本通りではあるが)が含有されていて自由度の高そうな雰囲気が伺えた。同じ高校の演劇部の卒業生で構成されているようで、同じ滋賀県内の劇団であるプラネットカンパニーの存在であるが、今後が楽しみな劇団の一つだ。

 2組目は、劇団ここから屋。これも女の子の劇団であるが、こちらは女性二人によるユニットのような構成。今回はコントにも似たがっつりコメディ要素のある芝居だったが、ロミオとジュリエットを関西弁でやるという奇想天外な物語。タイトル通り本当にロミオとジュリエットをそのまま関西弁に移してやるだけなら大して面白くなかったであろうが(おそらく2人という制限もあるのだろうが)基本ストーリーとして大学の演劇部の設定で大学生のキャラクターとロミジュリのお芝居の緩急のつけ方がとても上手かった。とにかくこの二人のキャラクターのインパクトが絶大で記憶に残りやすい俳優だった。

 3組目はスピカ。こちらは残念ながら、途中からの観劇となってしまったが、途中からでも十分に楽しめた。こちらは男一人、女二人の三人組であるが、今回は女性の一人芝居だった。演目は、こちらも「ロミオとジュリエット」一人多役で物語が進み、ナレーションもその俳優が行う。一人なのに一人芝居に見えないそんな芝居だった。今回は一人芝居だったが、次の公演があれば三人での芝居もみてみたい。

 今回、演劇祭が二日間行われたわけだが、この演劇祭をもって、滋賀里劇場の「プレオープン期間」は終了となる。現在の運営元によると、それ以降の運営はまだ不透明だそうだ。非常にそれはもったいないと思う。ここまでの団体が滋賀にいるのに、設備も整えているのに、これで終わらすのは忍びない。資金面での問題もあるのであろうが、なんとかクリアにして正式オープンに漕ぎ着つけてもらいたいものである。

 滋賀里といういわば「なにもない」土地柄に劇場というスポットができることで、そこに人の流れ、渦ができ、新しい文化の発信地となる。それが、また新しい生活の礎になればより滋賀が盛り上がることになるのではないだろうか。

 今、京都の太秦にシアターウルという劇場があるが、こちらも滋賀里同様、人通りが激しいところではない。それでもシアターウルも「劇場」という場所をまちづくりの起点にすべく、今動き出している。

 将来的にこの二つの「地の利の悪い劇場」が力を合わせたまちづくりを仕掛けていくことができれば、大阪、神戸に負けない街が構築できる気がする。

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