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「スシ食いねェ!」と「輝彦」【都市対抗野球へ、ようこそ!2019】

6月6日午後7時の神宮球場1塁側観客席は、悲壮感に包まれていた。

仕事と夕食の買い出しを追えてスタジアムに辿り着いたとき、ゲームは3回表の攻撃中だった。予想以上に試合が動いていない? スコアを見て納得した。この回、明治安田生命はセガサミー先発の東、そして後を継いだ陶久を打ち崩し、4点を奪ったのだ。初回の先制点も含め、5点のリードである。セガサミーはこの回の途中でキャッチャーも変えており、そのショックの大きさは計り知れないものがあったのだろう。

前置きを忘れてしまったが、この試合は都市対抗野球・東京都2次予選の第4代表決定戦である。もっと簡単に言うならば、都市対抗へ東京都代表として出場できる最後のイスを競う試合である。
明治安田生命はあまり良い流れでこの試合を迎えた訳ではない。NTT東日本との第2代表決定戦では大竹投手にノーヒットノーランを食らい、JR東日本との第3代表決定戦は逆転負け。後がない状況である。
一方でセガサミーも後がない状況を潜り抜けて、この試合に辿り着いた。第4代表決定戦・1回戦の東京ガス戦、先制を許す苦しい展開も、8回表に同点に追いつき、9回表に逆転。そこから中5日でこの日を迎えており、準備は万端だと思ったのだが……。

   ◆

押し出しのフォアボールで、明治安田生命にさらに点が加わる。そのとき、僕は気がついた。3塁側の明治安田生命応援席からテンポの良いメロディーが聞こえてくる。はて、これは何の曲だったっけ? 耳をすませる……。

「スシ食いねェ!」だ!

この曲をスポーツの現場で聞くというのは、非常に新鮮な感じがする。
なにより、意外とこの曲がマッチしているのも予想外の発見だった。小気味よく繰り返される「ヘイ、ラッシャイ!」でノリを掴み、「ウチの打線は日本一!」で一呼吸置いてからの「打ちまくれ!」でテンションは最高潮を迎える。シブがき隊における最大のヒット曲が、まさかこのようなかたちで生き残るとは。

この曲の後押しがあるか無いかは知らないが、3回以降も明治安田生命のペースで進む。先発の大久保は毎回ヒットで出塁を許していたが、セガサミーの拙攻と守備陣のファインプレーもあり、スコアボードに0の表示を並べていった。

   ◆

大久保は我慢の投球を続けながら、遂に9回裏2アウトまで辿り着いた。あとアウト1つで、久々に明治安田生命が東京ドームに帰ってくる。
そんなことを考えていたとき、1塁側の応援席から聞き馴染みのあるメロディーが流れてきた。

「輝彦」だ!

「輝彦」とはセガサミーのサウンドディレクターを務めている中川輝彦氏が作曲したチャンステーマである。人名が曲名というのも不思議ではあるが、下手に名づけるよりかはしっくりするというべきか。
なにはともあれ、「輝彦」もまた素晴らしい1曲である。Aメロ・Bメロで観客に声を出させてスタンドを暖める、そしてサビの転調と「オーオーオーオー」の掛け声でより大きな一体感が生み出される。この3部構成が非常に巧みであり、どんなファンでも盛り上がりやすい。

何より、この曲は相手サイドから聞くと「怖い」曲なのである。
都市対抗野球のチャンステーマには2つのパターンがあると考えている。一つは「攻撃を盛り上げる曲」だ。先に挙げた「スシ食いねェ!」はもちろん、他にもHondaグループの「全開Honda」や東芝の「LOVE&JOY」もこれに含まれるだろう。
もう一つは「相手を不安させる曲」だ。「輝彦」は底抜けに明るい曲というわけではない。むしろ、掛け声もメロディーも「底から湧き上がる」ような感覚がある。その調和は聞いている側からすると、「怖さ」や「不安」に繋がるのだ。同じ系統の曲にJR東日本の「JRファイヤー」も含まれるだろう。

それ故に、流れているときのスタジアムの雰囲気は、とても6点ビハインドだとは思えなかった。多少やけくそになっていたのかもしれない。いや、それを差し引いても、「怖さ」は十分に伝わってきた。
偉大なるチャンステーマは、どの場面で流しても輝きを放つものである。

盛大な応援は約5分程度続いた。フォアボールとヒットで2アウトランナー1・2塁のチャンスをつくったが、最後はサードゴロでゲームセット。3塁側応援席から紙テープが放たれる。逆サイドではブラスバンドの音色がピタッと止まった。でも、大半の観客の頭の中では、まだ「輝彦」のメロディーが流れているかのような、錯覚が続いていた

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7月13日より90回目の都市対抗野球大会が東京ドームで開催されます。
今大会も「都市対抗野球へ、ようこそ!」というかたちで、皆様に夏の野球の面白さを伝えていければと考えております。
なお、昨年度の大会は下記の通り本にしてまとめております。ご一読頂ければ幸いです


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