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大衆を支配するオーラ (ダン・カーターのトップリーグデビュー戦に関する個人的雑感)

今日は特定の選手に注目する記事を書きたいので、試合の話は手短に先に済ませる。試合は36ー20で神戸製鋼がサントリーを破った。サントリーは噛ませ犬ではなく、去年のチャンピオンチームなのに、殆ど手も足も出なかった。
敗因を挙げれば、当初想定したゲームプラン通りに進められなかったことに尽きるだろう。機動力ある選手で固めたものの、相手FWの圧力にやられてターンオーバーを繰り返し、そのまま失点に結び付いてしまう。攻撃は素早いパス回しで揺さぶるも、相手はしっかりディフェンスラインを敷いていた。ゲインが全くできない。
前半途中でギタウを投入したり、後半も途中出場のウィーラーやルーカスの活躍もあって試合は落ち着いた。神戸製鋼に負傷者が相次いだことで、手薄になった守備からトライも奪えた。しかし、全ての点においてサントリーは見劣りしていた。この試合のダメージを引きずらないためにも、攻撃のバリエーションは見直す必要があるだろう。3試合連続の苦戦は、各チームのサントリー対策の本気さを示している。

   ◆

さあ、本題に入ろう。
かつて、日本ラグビーには様々な大物外国人選手がやってきた。もちろん、「オールブラックス」という肩書きを有した選手も多数いる。そういう選手が出ていることは、もはや日本のラグビーファンにとって日常の一部と化しているきらいすらあった。

でも、この日の秩父宮ラグビー場の空気は異様だった。マア・ノヌーやソニー・ビル・ウィリアムズと初めて接したときよりも、遥かに異様な空気が流れていた。
その理由は、神戸製鋼コベルコスティーラーズの背番号10にある。ダン・カーター。オールブラックスの生ける伝説。2度のワールドカップ優勝に貢献。そして、3度のワールドラグビー年間最優秀選手受賞。リッチー・マコウと肩を並べる、2010年代最強のラガーマン……。
肩書きや異名を並べようと思えば、いくらでも並べられる。それくらいすごい選手が、極東の片隅にあるラグビーゲームに現れたのだ。

そんなプレーヤーがいるもんだから、ラグビー場の空気は異様だった。
相手のサントリーは関東圏ではとても人気のあるチームだ。なのに、西から来た神戸製鋼の応援席が早く埋まった。
ファーストプレー、普通のロングキックでどよめきが起きた。この時点で大半の観客は「飲まれていた」。いわんや、ピッチ上のプレーヤーも。

神戸製鋼にはこの試合、活躍した選手は多数いる。日和佐のスピード感は古巣の面々を後悔させる出来映えだったし、バックマンとアシュリークーパーのCTBは攻守に渡り良い圧力をかけた。FWもセットプレーで負けていなかった。前半中盤のサントリーの猛攻も、丁寧にダブルタックルで止めてテンポアップさせなかった。これが勝敗の分かれ目になったと思う。また、試合中は負傷者が相次いだが、被害を最低限に抑える規律があった。

このように良いことをたくさん並べても、みんなの結論は同じなのだ。
「ダン・カーターのプレー、すごかったねえ」。

負傷明けからの復帰戦。必ずしも本調子ではなかったかもしれない。プレースキックも外した。分かりやすいインパクトあるプレーがあったかと言われると、この試合に限って言えばそうでもないかもしれない。
でも、ありとあらゆる大物選手のデビュー戦とは異なるポイント。それは「オーラの強さがハンパなかった」ことだ。おいおい、こんな非科学的な言葉は勘弁してくれ、という批判はごもっともだと思う。
でも、それ以外の概念で、説明することが僕にはできないのだ。ラグビーファン歴12年の天の邪鬼な男ですら、ただただそのオーラに支配されてしまったのだ。

適切な補強、整備された戦術。しっかり底上げされた神戸製鋼に埋め込まれた、あまりにも強力なラストピース。神戸製鋼は今年こそ、本気でチャンピオンを狙えるのではないか?
そして、この神戸製鋼をいかに各チームは倒しにかかるのか。そのためにまず取りかからなければならぬことは、ダン・カーターを「普通の人間」にすることである。それくらいの普通じゃないラガーマンが、ワールドカップ前年の日本にいることに、我々は大いに感謝せねばならぬのだ

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