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「つまらない」を知ることについて

大阪のお笑いと言えば吉本興業を思い浮かべる方が多いと思われる。確かに、なんばグランド花月で漫才を見に行くのは、ベタな観光である。
しかし、僕は敢えて別の道を選んだ。道頓堀角座。松竹芸能が運営している小さなお笑い劇場だ。

この劇場は以前も訪ねたことがある。道頓堀で夕飯を食べたついでに、ふらっとお笑いを見に行けないかなあ…と考えていた時、この劇場を発見した。
そのときは新人のネタ見せバトルをやっていた。15組くらい見たのだが面白かったのは残念なことに半分にも満たなかった。
僕はこのとき初めて、真の意味での「つまらない」を体感した。予め断っておくが、多くの芸人たちは基本的なスキルを有している。台詞が聞こえないとか、噛みまくりとか、そういうことはない。養成所のカリキュラム成果と言えるだろう。
そういうことと、笑いが起こるというのは別物だったのだ。彼らは一生懸命しゃべり、演じ、ネタを遂行する。しかし、それらが僕らの感情を動かさない。僕が行っている執筆活動で例えるならば、「文章を書く」ことと「物語で感動させる」ことの間には、大きな差があるということだ。
これが「つまらない」という概念なのだろうか。

そんなわけで、久々に訪ねた角座では、800円で寄席を行っていた。会場に入る。観客は20人にも満たなかった。
今日はキャリアの長い芸人が揃っていた。手品師と、漫才師と、漫談師の3組だった。それなりに面白かったが、大きな笑いを生み出したかと言われると…。

その中では、漫談師の話が最も面白かったと思う。彼はいわゆる「キレ芸」の持ち主で、大阪の観光客の不満をポツポツとぶちまけていた。
テーマを変えて、彼は観客いじりを始めた。質問を投げる。

この中で、今日旅行でココに来た人!
そんな投げかけに、僕も手を挙げる。7人くらい手を挙げていた。

じゃあ、大阪のいろんなとこ、午後から見に行くんですかね。通天閣に行く人! 
誰も手を挙げない。

えーっ、大阪の旅行の思い出はココでええの? まあ、じゃあ、USJに行く人! 
誰も手を挙げない。

彼は語りかける。

そう、旅はそうじゃなくちゃあきませんよ!
旅ってもんはね、パンフレットやガイドの内容を確認して終わりにしちゃいかんのですよ!

共感できる一言だった。
そうだな、旅を「確実でおもしろいもの」を確認する作業にしてはいけない。パンフレットに載っていないモノは、ある意味「つまらないモノ」なのかもしれない。でも、未知数な世界であるからこそ、結果は「つまらないモノ」でも、醍醐味として消化できるのではないだろうか。
それ故に僕は、この道頓堀角座という場所に再び足を踏み入れてしまったのである。

ちなみに、この漫談のオチは「僕はUSJが大好きで、かつ売れないから暇すぎるので、年間パスポートを買ってしまった」というものだった。「年間200回も足を運ぶと、USJのマスコットたちが僕を見つける度に会釈するんですよ!」。そう語る漫談師の顔は、この時間内で最も輝いていた。

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こちらの記事は2016年1月20日に当方のブログにて発表したものに、一部加筆・修正を加えたものです


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