赤い空の向こうに

 到着したのは、4時半を過ぎたあたりだった。入場門をくぐり、まずはコースを覗いてみようと思った。
「小さい!」。それがこの競馬場の第一印象だった。

 北海道旅行の最終にして最大に目的地、帯広競馬場。世界で唯一の「ばん馬によるレース」が行われている。体重1トンを越える馬たちが、最大1トンのそりを引く迫力満点の競走。サラブレッドの競馬とはどう違うのだろう? そんな思いを抱いて、ここに足を踏み入れた。

 この日、僕がはじめて見たレースは模擬レースだった。そして、そりの上には見覚えのある、中央競馬の騎手たちがいた。「JRAジョッキーデー」と銘打たれた企画が行われていた。17時と19時に模擬レースが行われるだけでなく、トークショーやプレゼントの配布など、様々な催しでファンを喜ばせていた。
 最初に見たレースが模擬で良かった。映像では何回かばんえい競馬を見たことがあったが、予想をするには実際の空気感というのがとても大事だからだ。

 勝浦正樹が制したこの模擬レースを見て思ったのは、「馬場をどう読むかが大事」ということだった。この日、砂道の水分含有率は0.7%。雨がさっぱり降らない影響で、相当低い数値になっている。故に、この重い砂道を颯爽と駆け抜けられるようなヤツが良い。そして、前走で上位クラスに挑戦して、大敗した馬も人気の盲点になりそうだ。この観点から狙っていこう。
 第6レースは17時35分。記念すべき初めての投票だ。スタンドに腰かけて、専門紙「ばんえいキンタロー」に赤ペンで目印を入れる。悩んだ末に、まずはホンインボウの複勝1点で勝負をした。新聞の印もまあまあ良い。

 全長200メートルのコース。そこには2つの坂道があり、「第一障害」「第二障害」と呼ばれている。僕はこの2つの障害のちょうど真ん中あたりに陣取り、カメラを構えた。
 ばんえい競馬は「馬と共にゴールを目指せる競馬」でもある。コースは先にも述べたとおり、わずか200メートル。この距離を数分かけて、ゆっくりと駆け抜ける。沿道にいるファンたちは、思い思いの声を馬に投げ掛けて、一緒にゴールを目指していく。
 その感覚は、一体どのようなものなのだろうか? それが気になって仕方がなかった。

 ファンファーレが鳴り止み、少しの間を置いてゲートが開く。9頭のばん馬が、キリキリと響くそりの音と共に、砂ぼこりをあげながら近づいてくる。
 あっけに取られてしまった。すごい、こんな競馬が、この場所にあったのか! 何回もシャッターを切る。ゆっくりと走ってくれるお陰で、様々な角度から撮影ができる。

 第一障害を越え、このコース最大の難所を目指そうとする。僕も、坂を駆け抜ける馬を撮りたい。ゴール方向を目刺し、僕も行こう。体の向きを変えた。

 真っ赤に燃える夕焼けが、僕の目に入ってきた。十勝の澄んだ空気をたくさん含んだ、奇麗な夕焼けだった。
 見とれているうちに、馬が僕の横を通り過ぎていった。
 赤い夕焼けに向かって、馬と人々が走り抜けていく。

 太陽と馬が走る方向が、ここまでピッタリとハマる競馬場は初めて見た。これもまた、ばんえい競馬の魅力だと、多くの人に伝えないといけない。

 9頭の馬が無事に走り終えると、競馬場の喧騒が少し和らいだ。でも、太陽は少し濃い目の橙色で、この街の片隅を照らし続けている。僕はその太陽と競馬を、いつまでも眺めて続けたい気持ちに掻き立てられていた。

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本稿は2017年12月に発売した「ウマをめぐる旅」内に収録されているものです。「旅と競馬」をテーマに、心温まるエッセイを集めました。こちらもお買求め頂ければ幸いです

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和良 拓馬

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