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いいお店の、その条件。

そこは古き良き昭和の立ち食いそば屋のような風貌の、カウンター8席ほどの小さなお店。40代半ばくらいのご主人が、ひとりで切り盛りしています。

そばうどんはもちろん、とんこつラーメン、つけ麺、油そば、チャーハン、麻婆飯など、とにかくメニューが豊富。たぶん50種類くらいあります。そしてすべてのメニューが、予約なしでパッとテイクアウトできるのです。そのオペレーションの凄さはもちろん、ご主人の心意気が半端ないわけです。

はじめてチャーハンをテイクアウトした時、「ブラックペッパー減らしましょうか?」とご主人。ぼくが何か言ったわけではなく、外で待つ娘の存在を察知して、お子さんも食べるなら辛くない方がいいよね?という心遣いでした。つい先日は「これくらいでどう?」と、小皿にチャーハンをひと口よそって、ぼくに味見をさせてくれました。帰り際に「これ貰い物なんだけど、もしよかったらお子さんに」と言って、小さなケーキをさっと手渡してくれたことも。

もうファンになっちゃいますよね。

昨年末、年越し蕎麦を買いに言った時は、「あっ、今日はなくなっちゃった」と、どこかうれしそうに言うのです。それは、申し訳ないという気持ちと、来てくれてありがとね、という気持ちなんです。きっと。その「ごめん」と「ありがとう」のころ合いがすごくいいんです。こっちも「残念。でもまた今度来ます!」と答えるわけです。ぼくの後ろに並んでたお客さんとも、同じようなやりとりをしていました。ご主人は日々、何度もそういうやりとりを繰り返しているんだろうなぁと思うと、やっぱりファンになっちゃいます。

人と人がお互いに思いやる姿を見るのって、自分は関係なくても、そういう場に居合わせるだけでうれしいものです。もちろん料理もおいしいですが、正直、他と比べて特別に「うまい!」というほどではないんです。それでも通ってしまうのは、なんかいいお店だからなんです。その「なんかいい」の正体は「うれしさ」です。このお店には確たる「うれしさ」があって、お客さんはそれを体感しに来てるんじゃないかなと思うんです。少なくともぼくがそうなのです。

そしてその「うれしさ」を生み出しているのは、ご主人の姿勢なんじゃないかと。一見、ぞんざいにやっているように見えるんですが、ほんとうは違う。大真面目に一生懸命にお店を大事にしているのが伝わってくるんです。子育てや家族なんかと似てる気がします。ぞんざいに扱っているようで、ほんとうは愛情たっぷり、みたいなところ。

いいお店もいい会社も、世の中にある「いい〇〇」には、そういう姿勢がちゃんとあるんですよね。

(小林)


【今月の一言】
本気になれる時間の総量が、人生の総幸福量かもしれないよ。(ほぼ日『今日のダーリン』)

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