意味が分かると怖い話「チャンス」

「……逃げろ、神崎ッ!」

 冬の寒さが感じられる公園にて、俺は友達の神崎に向かって叫んだ。「奴」突如として現れた。包丁を持った、この平和な景色にそぐわない物騒な男。

「……はァ」

 奴は血迷った目で俺を刺した。

「…グァホッ! あ”あ”あ”……」

 恐ろしいまでの腹痛。冬の寒さとは違う寒気が、俺の体を蝕んでいった。何とか意識は飛んでないが、痛みが俺に訴えかけている。「もう限界だ」「死んでしまう」と。 
 そんなこと解ってる。でも、神崎はまだやられていない。神崎は血塗れの俺を見て、逃げるかどうか躊躇している。神崎位は助けてやらねえと。奴が、ぐらりと神崎の方を見やった。滲んで今にも消えそうな意思を総出して俺は叫んだ。

「いいから、逃げろッ!」

 神崎は、弾かれたように走り出した。ああ、これで多分神崎は救われる……。安心した俺は、永い永い眠りについた。



「起きろ!」

 遠くで、俺を呼ぶ声が聞こえた。体が動かない。何も、考えられない。俺は持てる力を総動員して動こうとした。それも失敗に終わる。

「華佳!」

 その声が俺の耳に届いたとたん、重かった体が嘘のように軽くなった。今の声は……

「神崎!? お前……」
「ああ、華佳。やっと起きた」

 そこに立っていたのは、神崎だった。

「ここ……どこだ? 俺……どうなったんだ」
「僕にも分からない。ただ、病院じゃないことは確かだね」

 まさにその通り。俺は今、古風な繁華街のような場所に寝ていた。今は大体、午後十一時くらいだろうか。時計を持っていないので正確な数値は分からないが、空の暗さから推測できた。ダイアモンドをちりばめた星空。一つ一つが、命の輝きを放っている。

「君達は『死んだのか』?」

 突然耳元で、恐ろしい質問が聞こえた。俺の声じゃないし、かといって神崎の声でもない。全く聞き覚えの無い、しわがれた声だった。

「どういう意味ですか?」

 まだぼやっとしている俺の代わりに神崎が答えた。浴衣のような服を羽織ったその老人は、真っすぐ神崎の方を向いている。

「ここは死者の町じゃ。行き場の無い死人達の魂がここに集まっておる。生者はここを天国…もしくは地獄というそうな」

 俺は面食らった。『死者の町』?『天国』?はっきり言って馬鹿馬鹿しい。だが神崎は本気にとった。

「じゃあ僕たちは死んだという事ですか?」
「そうなるのじゃろうな。何かしら、思い当たる節があるじゃろう?」

 血色が悪くなった気がした。見ると、神崎の唇にも生気が宿っていない。

「ほっほっほ、やはりあるようじゃな」
「なんでわかったんですか?」
「いったじゃろ? ここは『死者の町』。生者が来れる訳が無い」

 なんだよソレ、滅茶苦茶困るんだけど。

「ハァ? 俺達まだ二十代なんですけどぉー。そんな早くに死ぬわけがないですよ」
「華佳……」
「それが人は簡単に死ぬんじゃよ」
「俺はまだ生き足りないッ!」

 俺は大声で叫んだ。今まで『死』は抽象的な物だと思っていた。俺が死ぬのは何十年も先の事、考えていても意味が無いと……でもやっぱり死ぬのは怖かったんだ。
 突然の大声に神崎は驚いていたが、やがて何か感じ取った様子で老人に尋ねた。

「生き返る方法は無いんですか?」
「あるにはあるが……やめた方が良い。あの方法では……」
「……教えろ」

 神崎の声が、過去にないほど低くなった。命令口調何て、普通使わない彼だが、今回は例外だったらしい。正直「ありがとおぉぉぉぉッ!」って叫びそうになったがやめておいた。

「うう……この町を南に抜けると、三途の川がある。それを東へ上るのじゃ」

 彼は、実に残念そうだった。口調も湿り気を帯びている。杖が、カタカタと震えていた。

「ありがとう、おじいさん」
「今ならまだ間に合う! ここでの暮らしに不自由はない! 考え直せ、少年。消えてしまうぞ」

 さっきの神崎に負けず劣らずな勢いだった。そこまでして何故止めたいんだと疑問に思ってしまうほどの雄弁さだった。でもこれではいはいと引き下がる俺達ではない。

「僕には華佳が、華佳には僕がいる」
「だから任せとけって!」
「どうなっても知らんぞ、ワシは。急ぎなさい」
「ありがとー」



 それから俺達は、三途の川とやらに向かった。その道中で分かったことは沢山ある。ここでは食事が必要ないという事。イメージすれば向こう(生者の世界)の様子が見えるという事。俺は実際に自分の葬式を見た。自分の体が燃やされるのを見るのは少々来るものがあるが、何のこれしき。

「ハァ……ハァ……」

 それから数日後、神崎が肩で息をし始めた。聞いたところ、自分の葬式を見ているらしい。俺より遅い葬式、歩きながら見ているのがなんとも不気味である。

「オイオイ、大丈夫か?」
「大丈夫……だと思う」

 安心できないが、俺より博学な神崎のことだ、身の危険を感じたら自分で言ってくるだろう。
 街を抜け、林を抜け、さらには祭り真っ最中の寺を抜け……俺達はとうとう三途の川に辿り着いた。ここまで来るのに丸々一か月。道中で苦戦するようなことは無かったが、それでも達成感は十分にあった。

 がしかし、船が無い。三途の川自体は普通の川で、流れも緩やかだったが、船が無ければ「上る」なんてことは出来ない。俺達は手分けして船の材料を集めることにした。互いに持ち場を決めて、

「ここからは別行動、船が見つかり次第出発」

 と神崎が定めた。結果として俺は上等な船を手に入れることが出来た。がしかし、神崎の姿が見当たらない。周辺に人がいた痕跡すら見受けられなかった。 
 最初こそは

「神崎、大丈夫かな……」

 と心配したのだが「船が見つかり次第出発」という言葉を思い出して俺は自分の船で三途の川を上ることにした。



 遠くで、俺を呼ぶ声が聞こえたう。体が動かない。何も、考えられない。
 俺はもう二度と、動けなかった。

≪解説≫
 まずは話の流れを大雑把にまとめます。

 華佳and神崎死亡→生き返ろうと三途の川へ→神崎と別れる→一人で生き返る

 ですね。これだけならハッピーエンドです。次に要点

①老人曰く、生き返りは出来る限りしないほうが良い
②華佳と神崎の体は今、燃えて骨だけになっている
③華佳は神崎を博学と評している
④華佳と神崎は最後に分かれている(神崎が見当たらなかった)
⑤生き返った華佳は動けなかった

 問題なのは①。生き返るための手段ってあんまり難しくなかったですよね。だから老人が危惧していたことは別にあると考えられます。

 生き返るのに成功します。んで、どの状態で生き返るんですかね。②の状態で生き返るのだとしたらそれこそ最悪ですが、もっと最悪な事に⑤がそれを裏付けています。普通に生き返ったなら周りの様子も普通に分かりますよね。

 そして問題な点はもう一つあります(④)。それは博学な神崎(③)が先程述べたことに気づいていたのではないかという事です。華佳を先に生き返らせて自分が生き返っても大丈夫か確認する魂胆。
 これを肯定する材料は少ないですが、普通「先に生き返っておいて」なんて言うでしょうか?

 そして最後に。「普通に生き返れた」として、それはハッピーエンドな訳がありません。だって、生き返った死者の為の居場所何て、ありませんから。

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コンパス

小説の投稿が主。現在は「二刀を巡る黙示録」を投稿中。文章中におかしなところがあればコメントにてご指摘を。本編と関係ない物も(主に意味が分かると怖い話)沢山書いています。時々見ていただけるだけでもうれしいです。

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