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二刀を巡る黙示録9~断ち切る鎖編(二)~

「よし、お前らに仕事をやる」
「突然だなオイ」

 波乱の予感しかしなかった次の日、意外と普通にシンが話しかけてきた。コイツに限ってアレを(ロナの失言の件だ)全て忘れるわけが無いのだが、ふれないでいてくれるならそれに越したことは無い。

「えーっと、仕事ってなんだ?」

 昨日のトラウマもあってか、お陰様でロナが中途半端な敬語を使うようになってしまった。俺やシンはともかく、ザナは驚愕の表情で双子の片割れを見つめている。

「平たく言えば、ここにいる奴らの管理だ。俺とエルセアルはしばらくここを空けるから、その間こいつらを見てやって欲しい」

 俺は正直エルセアルが苦手だったの思わず笑ってしまった。シンの前なので出来るだけ慎んだつもりなのだが、恐らく見抜かれているだろう。

「空ける……? ど、どこに行くんですか?」
「他の階級エリアだ。滞在は精々二日程度、それが四エリア分だから大体一週間」

 一週間……やはりシンは、階級が高いからと言って優遇したりはしないらしい。シンはそこら辺がしっかりとしている。恐らく人望も厚いのだろう。

「その訪問ってどれくらいの頻度で行っているんだ?」
「毎日だ。俺は毎日いろんな場所を転々としている」

 不思議な事に、俺は全くと言っていいほど驚かなかった。ただ、シンなら普通にやってのけそうだな……と思っただけ。

 どうやらそれは双子にとっても同じらしく、魅せられたようにコクコクと頷いていた。

「そ、それじゃあ私たちは何をすればいいんですか? 料理とか、家事とか全然出来ませんが……」
「安心しろ。家事万能のドロシーを置いていく。お前たちはドロシーの手伝いをしてほしい。遊びがてら、アレクたちとの戦闘も」
 
 ドロシーを置いて行くと聞いた時、明らかにザナの表情が明るくなった。俺の記憶が正しければ俺達とドロシーは殆どかかわりが無いはずだが。しいて言うならエルセアルと同じくらい。

「わかった」

 俺が一言、返事をした時には既にシンの姿は消えていた。全く持って神出鬼没ないけ好かない奴である。

「どうするよ、兄ちゃん。ドロシーの所に行く?」
「まずはそうするのが正解だろうな。ドロシーの部屋、覚えてるか?」
「わ、私は覚えてます……。案内しますか?」
「じゃあ、お願い」

 俺が頼むとザナは、自信満々といった様子で歩き出した。彼女らしくもなく、鼻歌を歌っている。

 ザナってもしかして、俺の知らないところでドロシーと交流しているのか!?

 そう疑わざる負えない程、ザナの歩調に迷いはなかった。そして事実、迷わずにドロシーの部屋に着いた。

「入ってもいい?」
「いいよ、ザナ」

 はたから見れば友人同士の会話のように思えるだろう。すごく楽しそうだ。だがドロシーが俺達の存在を感知すると、その雰囲気はぶち壊れた。前に見た時と同じような、『私は人見知りデスッ!』と露呈するような話し方に変化する。

「……何しに来たんですか」
「い、いやあ、シンからドロシーさんの事を手伝えって……そうだよな、兄ちゃん?」

 なんでお前はドロシーに「さん付け」なんだよ。まあドロシーが俺達の名前にさんを付けているから当然か。

「……ああ。何をすればいいか、指示をしてくれ」
「とりあえず、ザナは私の手伝い。お兄さん方はアレクから塩と石炭を持ってきてください」
「また移動かよ……」

 ロナがやれやれといった様子で首を振る。が、ドロシーがロナの方に顔を向けると手のひらを返したように「喜んでやらせていただきます」と堂々宣言した。

「あ、そうでした。くれぐれも必要のない場所にはいかないように、だそうです。あまり『知られたくない場所』もあるので」

 意味深長なセリフを抜かした彼女は、ザナと何やら会話し始めた。エプロン等を作り出しているあたり、恐らく料理をするのだろう。
 
 ザ・女子向けの仕事だなこれは。
 
 そう判断した俺はとっととロナを連れて部屋を出て行った。そんな便利な能力があるなら塩と石炭位自分で作り出せ! と思ったのだがあくまでこれらは幻影である。イメージが強ければ実際に創造することも可能らしいが、塩に対する強いイメージとは失笑である。

 俺はとっとと通路に出ると、迷わずアレクの部屋に向かった。

「兄ちゃん、方向分かってんの?」
「もう覚えたわ!」
「まじでぇ? 俺まだ全然おぼえらんないんだけど」
「方向音痴の鑑だな」

 無論これは皮肉である。が、ロナの足りない脳ミソでは理解できなかったらしく、嬉しそうに頭をかくと

「ありがと」

 と呟き出した。

「塩と石炭……? いいよ……」

 アレクはおずおずと頷き、手からボウルに入った食塩を生成した。俺がそれを受け取ると、今度は石炭を生成する。

「ねえ兄ちゃん、この生成って限りはあるのかな?」
「さあ……」
「多分無いと思うよ……? 僕は個体を生成できて、エレクは液体を生成できる。その範囲内なら……?」

 本物のチート能力じゃねえか。考え方によってはシンより便利な能力にもなりえるぞこれは。

「すごいな……じゃあ、リクエストしてもいい?」
「いいよ……?」
「ナトリウム五十グラム!」

 少し難しい話になるが。マグネシウムは水と反応して黄色い炎を発生させる。ほんの少しの水でも反応するのでかなり危険な物質である。

 ちなみに俺がこれをリクエストしたのは、つい最近ナトリウムの存在を知ったのを自慢したかったからだ。

 しかし、アレクは全く迷わずに銀色の物質を生成した。俺は慌てて受け取り、ロナに無理矢理押し付けた。

「……これで……いい?」
「うっわ……これっていつ爆発するかわからない爆弾って事だよな?」
「どういうことだよ、兄ちゃん」

 ロナお前、少し位勉強しろ(←つい最近ナトリウムを知った知った俺の発言)。

「ナトリウムって空気中の水蒸気と混ざって炎を出すんだ。だからいつそうなってもおかしくない」

 ロナは感心したように(多分何も分かってない)頷いたまさにその時、ナトリウムが炎を出して燃え始めた。ロナの手の中で燃えている。がしかし、炎使いのロナは容赦なく消してしまったが。
 
 今回は量が少なかったのでまだ良かったが、物によっては『断ち切る鎖』全体が火事になるだろう。

 そういう意味ではほっとした。

「ザナ、あのリョウ? はあなたのお兄さんなの?」
「私のお兄ちゃんだけど……でも、私もお兄ちゃんも捨て子だから実際は兄弟じゃないと思う」
「……複雑なんだね」

 ドロシーは私の前ではマスクを外していてくれる。その傷だらけで美しい顔に、私は思わず魅入ってしった。女同士だけどね。

「でも、私たちは兄弟だよっ!」
「……私には、よくわからないかな。友情とか。愛情とか……」
「大丈夫、今から学んでいけばいいと思うよ」

 私はドロシーの紫色の瞳を見据えて言った。愛情とか友情とか、私もよくわからないけど、これが友情なのだと私は思う。この不幸な友達に、私自身もよく分かっていない感情を教えてあげたいと思った。

「ありがと」

 コンコン

 軽快なノックが、部屋に響く。

「あ、お兄ちゃんたちが来たみたい」

 ドロシーは急いでマスクを被りなおした。と同時によく見知った顔が部屋に入ってくる。

「おかえりー、兄ちゃん。アレクはどうだったの?」
「別にどうもこうもないけど。ほらドロシー、持ってきた」
「ありがとうございます。それでは取り掛かるとしましょう……」

 受け取るべきものを受け取ったドロシーは、さっき生成したエプロンを身にまとった。エプロンというか、黒っぽい和服というほうが当たってる気がするけど。

 そして私の新しい友達はこういった。

「今日のメニューは……」

おまけ≪ドロシーの能力について≫
 特徴①幻覚を、規模を問わずに操れる
 特徴②術者が良く知る物体を時間をかけてなら生成できる
 特徴③精神異常系なら大体できるチート能力

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嬉しすぎて昇天してしまいそう……
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小説の投稿が主。現在は「二刀を巡る黙示録」を投稿中。文章中におかしなところがあればコメントにてご指摘を。本編と関係ない物も(主に意味が分かると怖い話)沢山書いています。時々見ていただけるだけでもうれしいです。

二刀を巡る黙示録

誰もが一本の武器を持つ世界。そこに現れた『例外』を巡るバトル・ファンタジー!
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