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二刀を巡る黙示録8~断ち切る鎖編(一) ~

「単刀直入に言おう、お前は合格じゃない」
 
 ザナとロナとシン、そしてドロシー(初めて見たけどやっぱりペストマスクを被っていた)が一挙大集合している中、シンに淡々と告げられた。これ見よがしにコーヒーを口に含んでいるその姿が、なんとも気に食わない。
 俺は勿論、理由を問いだした。

「はぁ!? なんでだよ! 俺は精神テストを完璧にこなしたはずだ! それこそ、前のテストを補って余るくらいな!」
「まあ落ち着け」
「これが落ち着いていられるかってんだ!」

 これで俺が不合格だとしたら、衣食住の確保は一気に難しくなるだろう。双子は心配そうな目で俺を見ていた。
 なおさら俺は引き下がれなくなった。続けて減らず口を叩く。

「納得いかねェ! タイマン(一対一の勝負)だ!」

 刀を引き抜き、シンに向けて大きく振りかざす。視界の隅で双子が静止するのが見えたし、俺も勝てるとは思っていなかったが、最早そんな事は思考の外にあった。シンは本気にしていないようで、コーヒーのカップから口を離した。

「……はぁ」

 シンは只、俺の目を見つめていた。その絶望のどん底のような黒い目で俺を見つめる。
 途端に俺は動けなくなった。

「くっそ……ひ……き……ょう……だ……!」

 すぐに何をされたのかわかった。能力を使って俺を無力化したのだ。
 それでも尚、俺は刀を振り下ろそうと足掻いた。

「最後まで聞け。お前は確かに合格ではない」

 最後って、一応最後までは聞いたはずなんだが!?

「だから言った……」
「大合格だ」
「……だい……ごうかく?」

 言葉を覚えようとする二歳児のように、俺はその言葉を繰り返した。途端に俺の行動を縛っていた物が消える。

「……一体全体、どういうことだ? 一部始終を説明してくれ」

  俺は再び問いだした。シンは面倒くさそうに首を振り、顎でドロシーに合図する。「説明してやれ」という意味だろう。

「リョクは及第点堂々突破の合格……って事ですよね、シン?」
「ああ、そうだ」

 本来狂喜乱舞すべき場面なのだろう。でもさっきまで「不合格」の領域に立っていたせいで、なかなか納得できなかった。

「待て待て待て、確かに俺は精神テストを見事に突破した。でもその前は? アレクに対してさんざんやられてただろ!」

 まさに正論の集合体。論理的なシンの事だから、これで閉口するかと思っていたが実際は違った。

「……お前は他の二人とは少し違った目的でテストを受けてもらったんだ」

 あー、もう理解不能。俺はあたかも理解しているかのように頷き(実際は何も分かっていない)、発言は必要最低限にとどめた。

「なんで」
「こちらも人手不足なのでな。俺達には精神面に特化した人が必要だったんだ。それがお前」
「……要約すると、こういう事か?」

 高ぶる胸をなだめる様に一拍、息を吸ってから俺は確かめた。

「強化版精神力テストを俺に受けさせたら完璧だった、だから実践関係なく採用!って訳か?」
「そうだ。ちなみにザナとロナの許可はとってある」

 俺の脳内に「何の許可だよ……」という疑問が湧き出てきた。がしかし気にせず次に移る。実際の所確かに双子はノーリアクションだった。

「つまり……」
「衣食住は確保されたって事です、お兄ちゃん!」

 シンの発言に割り込むほどザナって肝が据わっていたっけ? ずっと話したくてうずうずしていたのは知っていたが、ここまで大胆にやるとは思わなかった。

「そういう事だ。何だ、嬉しくないのか?」

 嬉しいのは事実だけど。今の俺の脳内の大半は、様々な質問で埋め尽くされていた。

「いくつか気になる点があるんだ。いいか?」
「いいぞ」
「まず、俺達三人には別々の部屋が与えられるのか?」

 聞きたいことは山ほどあったが、取り敢えずこれを聞いておいた。ここでのルール等は、生活していくうちに分かるだろうし、なかなか賢い選択だったと思う。

「それが良いならそうする。一緒の部屋が良いならそれでもいいだろう」
「兄ちゃん、俺らこの場所で絶対に迷うよ! 一緒の方が良いと思う」

 極力小声にしたつもりだろう。が、彼はたった今、自分の方向音痴っぷりを大声で露呈した。聞こえてまずいかと聞かれればそうでもない、複雑な心境だった。

「ザナは? どう?」
「一緒の方が安心します」

 実際、俺も相部屋の方が良いと感じていた。帰宅する手立てを整えるにも、その方が好都合だ。

「んじゃあ、三人一緒の部屋で」

 シンは飲みかけのコーヒーを一気に飲みきってから返事をした。

「了解。それでは、ギルド『断ち切る鎖』最上位メンバーの一人として、お前たちを認める!」

 断ち切る鎖とは、恐らくこのギルド(要は組合)の名称だろう。リュミエール(故郷)ではあまり見かけないギルドだが、俺達は何の違和感も無く受け入れられた。
 ……一人を除いて。

「おいおい、ちょっと待て。『最上位メンバー』ってのはどういうことだ?」

 ギルドによっては『ランク付け』という制度が適用されている。実力に応じて「最下位」「下位」「中位」「上位」「最上位」が定められる。
 もしかしたら数分前のテストは、入団よりランクを審査するテストだったのかもしれないと、今更ながらに感じた。

「『断ち切る鎖』には才能に応じて区別される。無論、最上位がいるなら下位メンバーも居るわけだ。扱いはここと一緒なので、特にランクを気にすることは無いが」
「じゃ、じゃあ、ランク付けの意味はどうなるんですか? 私にはちょっとわかりません」

 少々あきれた様子……じゃなくて純粋な好奇心でザナが尋ねた。何と、礼儀正しく手を挙げてから発言している。

「実力差の大きいものと一緒にいても、何も生まれない」
「でも、才能の無い最下位メンバーなんてかくまう必要ないんじゃ……」
『ガチャリ』

 ロナが呟いた刹那、シンの表情に明らかな変化が見られた。コーヒーカップがシンの手のひらから抜け落ちた。表情の変化とは対照的に、部屋の温度は数度下がった気がした。

「……」

 ……沈黙。この場にいる全員が沈黙を貫いている。それはロナも例外ではなく、ただただシンの顔を見守っていた。それが永遠の物かと感じられたまさにその時、満を持してシンが重い口を開けた。

「最下位だからなんだ?」
『ビュン』

 ロナが返事するよりも先に、小さな風切り音が聞こえた。気が付けばシンは移動してロナの首筋に刀を突きつけている。短く、それでいて鋭利な刀。ロナの唇がみるみるうちに青くなる。

「シン……落ち着いてください。ロナは無知なのです」

 フォローするようにドロシーが諭した。その口調から、先程まであったはずの迷いは感じられなかった。

「……それが差別していい言い訳になるわけが無い」
「無知は罪ではありません」
「……」

 シンは構えを解くと共に刀を降ろした。気が抜けた様子のロナがへなへなと地面に座り込む。ザナははっと我に返り、ロナに向かって突進した。

「いい機会だから教えてやる」

 その口調には独特のなまりがあった。ナハト住人とはまた違う、初めて聞くようななまり。

「人生を否定していいわけが無い!」

 その瞳に並々ならぬものを感じ、俺は即座に言った。

「ごめん。ドロシーのテストで分かったんだ。人はどんな立場だろうと一生懸命生きてる。否定され続けても生きてる」

 シンの黒い目に宿る闘志が、大きく揺らいだように思えた。しかしそれも一瞬の事で、すぐに取り繕ってしまう。

「……お前たちを裁ち切る鎖正式メンバーとして歓迎する。衣食住の提供はこちらで行わせてもらおう」

 シンは割れてしまったコーヒーカップを回収し、自分の部屋に戻って行った。数秒後、ドロシーも自分の部屋に戻っていく。

「……」

 沈黙が、この場を満たしていた。

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小説の投稿が主。現在は「二刀を巡る黙示録」を投稿中。文章中におかしなところがあればコメントにてご指摘を。本編と関係ない物も(主に意味が分かると怖い話)沢山書いています。時々見ていただけるだけでもうれしいです。

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