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意味が分かると怖い話~死体がある家~

#意味が分かると怖い話 #怖い話 #包丁 #オリジナル #小説        
#短編小説 #死体
 俺は泥棒だ。空き巣に入って金品をかっさらっていく泥棒。……というよりはコソ泥に近いのが現状だが。
 俺は昔、医者になりたいという夢があった。医者の大学に入るために一生懸命努力して、勉強して……でも、受験の神様は俺に微笑まず、俺は大学に落ちた。次の年も、次の年も受けた。寝る間も惜しんで勉強した。それでも、俺はそこに辿り着くことは出来なかった。そこでやっと、俺は悟った。俺は夢にまで見たあの場所に行くことは出来ないのだと。
 そして気が付けば両親は死んで、お金も無くなっていた。家も、何もない。だから俺は、生きるためにこの『泥棒』という職業に就いた。生きるため、生きるためだけに……
 わかってる、そんなことはただの戯言であると。本気で更生する気が合ったならあの落ちた瞬間に夢を諦めればよかったのだ。別に、アルバイトだけでも人間生きていけないことは無い。
 でも俺はそうしなかった。受験に落ちた時、俺の中で何かが壊れた。俺は努力を裏切らなかったのに、努力は俺を裏切った。
 その結果このザマだよ、哀れだな。
 俺は自分を嘲笑い、目の前の家を眺めた。この家はそこまで大きくないが、家の主が確実に留守にする時間帯があるのと、窓の鍵が開いているのとで今日の獲物に選んだ。
「さてと、入るか」
 周りに人がいないのをよく確認して窓を開けて中に入る。入った瞬間、俺は一言呟いた。
「……なんだこれ」
 そう、本当に『なんだこれ』だ。家の中にはおびただしい量の包丁が飾ってあった。かなり刀身が長くて鋭くとがった、微妙に形状が違った包丁二種類。俗に言うマグロ包丁と刺身包丁。種類はそれだけの様だった。
 俺は包丁に慣れていない(泥棒になってからは、『ばれたらそれまで』の精神で突き通しているので、一切凶器を持ったことがない)。それ故背筋に悪寒が走るのを抑えられなかった。
 そして恐ろしい事に、包丁の一つ一つに血が付いていた。それに気づいてせき込み、思いっきり空気を吸う。
 吸った空気は何故か生臭かった。
 突然、すさまじい恐怖が襲い掛かってきた。吐きそうだ。気持ちが悪い。生臭い、気持ち悪い……
 やっと落ち着いた頃、今度は疑問が浮かんできた。
 この家を放置するのか?
 正直な所、俺は金が稼げればそれでいいので一瞬放置しようかとも考えた。が、もしこれで何人もの人が死んでいたら? その時は一体どうなる?
 良心と悪意が戦っているのを感じる。ああ、こういうのを悪魔のささやきというのか。
 そして俺は答えを出した。
「……この家について調べよう」
 俺は昔医者を志していただけあって、簡単に人の命を見捨てられるようには出来ていなかった。
 とりあえず、家の中をくまなく詮索してみる。タンスやクローゼットの中には普通に衣服が置いてあり、冷蔵庫の中には普通に肉・野菜・刺身が入っていた。
 そう、この家は本当に『普通』だった。だが、まだ俺が探していない場所が一つある。それは……
「ゴミ箱……」
 殺人者は大抵、死体を何かしらの袋や容器に入れる。だからこそ一番怪しいのがゴミ箱だ。
 出来れば開けたくない。が、俺はとうとうゴミ箱を開けた。するとそこには……
「……むごい……」
 沢山の肉片だった。原型すらとどめておらず、人間だったのかどうかすらわからないほど粉々……というよりぐちゃぐちゃになっている。
 俺はそこで放心状態になった。医者になろうとしていたころ、俺が最も恐れていたのが死体だった。誰かが死ぬのが一番嫌だった。それの特性は今なお残っている。
 そんな俺を現実に引き戻したのは、玄関の鍵が開く音だった。驚いて声が出そうになるがすんでのところで押しとどめる。
 俺はどうやら長くいすぎたらしい。家の主が帰宅してしまったのだ。過去に一度だけこのような状況に陥ったことがあり、あの時は一度主に見つかってしい、すんでのところで逃げ切った。今回もそのようにいくとは思えない。さて、どうするか……
 そんなことを考えているうちに足音は容赦なく近寄ってきた。焦ってきた俺の目に、壁に立てかけてある血の付いたマグロ包丁が映った。思わず手に取って独り言をつぶやく。
「そうだ、これで殺してしまえばいい」
 殺しは重罪だ。しかし相手はさらに殺している。血に染まった包丁の数からして大体10~30人位か。
 俺は物陰に身を隠し、ゆっくりと待った。足音の一つ一つに神経を集中する。
 足音が最も近くなった刹那、俺は『こいつ』に切りかかった。体に返り血が沢山付着するが気にしてはいられない。
 片付け終わった時、俺はこいつが大きな箱のようなものを手にぶら下げていたことに気が付いた。念のために中身を確認する。そこに入っていたのは……

 さばかれていないマグロだった。
≪解説≫
 今回の話は過去に比べると少し簡単でした。話の必要な部分を要約すると
①主人公は『血の付いた包丁』と『ゴミ箱に入った肉片』を見た
②家の主はさばかれていないマグロを持っていた
③家には『刺身包丁』と『マグロ包丁』があった
 たったこれだけです。勘のいい人たちは分かったかもしれませんが、念のために解説します。
 主人公は人間の死体を見たわけではない(①)ので、家の主が殺人者だとは言いきれません。さらに家の主は魚をさばくための道具を持っていた(②と③)ので、家の人が魚をさばいた出た魚の死骸がゴミ箱に入っていて、それを主人公は「人間の死体」と勘違いしただけなのです。つまりは……
 主人公は無罪の人を殺したことになります。

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