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意味が分かると怖くない話

「ここがアレか、例の……」
「うん、ネットで話題になってるホテルだって」

 俺とコイツが会話しているとき、時刻は既に午後九時を廻っていた。俺、佐藤晴馬はつい一時間前までは旅行を楽しんでいた。しかしそれは、相棒、金沢拓郎が「ネットで有名な、超絶ヤバいホテルに泊まってみよう」と言い出すまでのこと。
 『ヤバい』と聞かされて俺は咄嗟に幽霊を想像した。ホテル=沢山の人が来る=幽霊も来る(?)。そりゃあ『ヤバい』。俺は幽霊が大嫌いで、お化け屋敷にすら入れないレベルだった。がしかし、街中でコイツに何度も奢ってくれた恩を思うと、反論出来なかった。

「なぁ、本当にこんなところに泊まるのか? 俺は嫌なんだが……」

 これが、最後のの抵抗だ。これで駄目ならきっぱり諦める。

「なんで? 僕は全然大丈夫だけど……」
 やっぱり効かないか。
「んな、そんなわけ……」
「いいでしょ、ちょっとくらい。それに、普通に街中のホテルだもん。どうせ『ヤバい』っていうのも全部デマさ。じゃあ僕はお先にー」
「待てよ!」

 外見的にはただのホテル、それもそれなりに儲かってそうな佇まいだったが実際のところはどうなのだろうか。やっぱり所々錆びていたり、血の跡がついていたり……?
 俺は好奇心に近い物と恐怖心を抱きながらホテルに入って行った。
 
「普通だ……」

 いやもうTHE・NO-MARU(俺、英語全然出来ない……)だった。閃緑岩の床(後で拓郎に聞いたところ、これは大理石という事だった。俺、地学も全然出来ない……)に、コンビニと思われる小さな売店。悲しい位普通にカウンターがあり、その奥には笑顔の店員がいた。

「何人での宿泊ですか?」
「二人です。晩ごはんは要らないんですが、料金はいくらですか?」
「一人4000円から。朝食の方は?」
「そっちも要りません」
「それではこちら、503号室の鍵です……あ、あとっ。朝になると係の者がカーテンを開けに行きますが、気にしないでください。今の時間帯だと寝ている人も居ますので、出来る限り静かにご利用いただけると幸いです」
「親切ですね。前者について、部屋に無断で入られるって事ですか?」
「そうなりますね。……嫌ですか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。あとここの大浴場って今も空いてますか?」
「はい。ですが既にお湯は抜いてあるかと……明日の朝ではいかがでしょう」
「いいんですか!?」

 いや会話進めるの早くない? 俺だったら話せるようになるまで五時間はかかるんだけど……。

「ハルマ! オーケーだって」
「あ……ああ、ありがとう」

 呆然と見つめる俺をよそにコイツは、さっさと先に行こうとしていた。既にエレベーターに乗って俺に向かって手を振っている。宿泊部屋が五階にあるというのもあって、急ぎたいのだろう。気持ちは分かるが落ち着け。

「早く早く早くー。じゃないと僕、先に行っちゃうよー?」
「だぁぁ、ちょっと待てコノヤロー」

 コイツはそう言いながら、乗ったエレベーターのドアを閉めようとしていた。顔から血が引くのが分かる。実は俺、部屋の番号を覚えていないのだ。つまりコイツがいなくなればもう俺は泊まれないという事になる。
 俺は全力で駆け出した。扉が閉まるまでの数秒間が、やけにゆっくり見えた。煽るようにして手を振っているコイツの一挙一動もゆくっり見える。
 閉まり切るまであと三秒、二秒、一秒……の一秒の所で滑り込む。結果は……

「あ、ちゃんと入ってこれたー」
「ぜぇ……ぜぇ……あっぶねえ。おい、勝手にいくんじゃ……」
「あ、もう五階だ。降りよーっと」
「人の話を聞けぇッ」

 それから俺は、自分の部屋に着くなり寝た。和風な部屋の雰囲気をぶち壊している派手なカーテンはしまっており、外からの光を一切遮断している。飯は既に喰ってあったし、眠いし。そしてなにより起きている理由が無かったので拓郎も寝た。
 せっかくの休暇だ、楽しんでいこう。そしてここが「ヤバいホテル」ってことも忘れてしまえ……
               ※
 次の朝の事。俺は起きてすぐに拓郎がいないことに気が付いた。部屋中をくまなく探し回ったが、どこにもいない。閉まっていたはずのカーテンが開いていた。背筋に悪寒が走った。耳が痛くなるような沈黙に耐えかねて、俺は駆け出した。

AFTER ATORY≪解説≫
 俺は部屋を出た直後に拓郎と出会った。

「お前……その髪! なんで濡れてんだ?」
「朝お風呂に入って来たんだよー。いやあ、ここの風呂は気持ちいいね。最高級だよ。まじで『ヤバかった』ね」
「はぁ?」
「ハルマも入ればよかったのに。僕も半信半疑だったけど、やっぱりネットの評判通りだったよ。『怖い位』気持ちよかったー」
「なんだ、そういう事かよ。最初から大浴場目的だったってか。でもカーテンは? なんで朝、開いていたんだ?」
「あれハルマ、聞いてなかったの? ここのホテルは係の人がカーテンを開けてくれるんだよ。ハルマ、それは結構恥ずかしいよ」
「……う、うっさい!」

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嬉しすぎて昇天してしまいそう……
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小説の投稿が主。現在は「二刀を巡る黙示録」を投稿中。文章中におかしなところがあればコメントにてご指摘を。本編と関係ない物も(主に意味が分かると怖い話)沢山書いています。時々見ていただけるだけでもうれしいです。

意味が分かると怖い話

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