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意味が分かると怖い話~焼畑農業~

#意味が分かると怖い話 #怖い話 #炎
 俺は過酷な地に住んでいた。『過酷』というのは自分でも言いすぎている実感があるが、とりあえず聞いてもらおう。
 俺が住んでいるのは沢山の森林と山々に囲まれた場所だ。電気は通っておらず、基本蝋燭一本での生活。水は井戸水だ。そして食料は……普通に母さんが働いて稼いだお金で調達していた。不便な所と言えば食料調達のためにいちいち一時間以上歩かないといけないのと、父親が他界しているのと、半径二キロ以内に全く人が位……。
 俺は小説のワンフレーズの様な物を考えながら、自分がここでの生活が嫌いではないことに気が付き、一人でほくそ笑んだ。
「行ってらっしゃい」
 微笑を浮かべている俺に気づかずに母さんが言った。俺は今、学校に遅刻しそうな状況に陥っていたので靴を履きながら返事をした。
「んじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
 俺の母さんはそれなりの歳なので、認知症にかかっていた。今のように『いってらっしゃい』を連呼する程度の時もあれば、ひどいときは夜中に突然外に出ていく日もある。俺は俺のめんどうを認知症になってからも続けてくれる母さんが好きだったが、それと同時気苦労が絶えなかった。。
 俺の身分は学生なので、こんな辺境からでも学校に通っていた。幸いなことに歩いて一時間ほどの所で、駅があるのでさほど通学に苦労は無かったが、もう少し母さんは頭を働かせてもいいんじゃないのかと思った。
 ここは母さんの故郷という訳でも、はたまた仕事場が近くにあるわけでもない。だから、引っ越す理由は多々あれど、引っ越さない理由が一つもない状態だった。しかしどうやら母さんはその事実に気づいていないらしい。
 周りに人がいないので、それを愚痴る事はできないが。

 家から出て約二時間、俺は学校に着いた。学校の周りからは煙が上がっている……というのも、周りでは焼畑農業がおこなわれているからだ。お陰様で燃え殻の嫌な臭いが校舎中に広がっていた。
 この時期、週に一回位のペースでここで畑を焼いている母さんが言っていた。焼く時に最も厳しいのは焼いている張本人なのだと。燃え殻の臭いと熱気のダブルパンチに耐えなければならないので精神的に来るものがあると。母さんの代わりに仕事ができれば、俺は本望だった。

 さらに三時間後。俺は屋上にて二人の友達と昼食を食べていた。
「俺の今日のパンはッ! ……ただの食パンだZE!」
「ふふふ……僕は食堂から慎重に持ってきた、TKG(たまごこ・かけ・ごはん)ですよ! 羨ましいでしょう?」
 とまぁこんな具合で、今日も普通のいかにも中学生らしい会話が繰り広げられた。と、そこでもう1人の友達が話の節を折るように言った。
「……あれ、あそこから煙出てないか?」
 そう言って指さしたのは数キロメートル先、遠く離れたところにある俺の家の方向だった。
「焼畑農業でしょ……別に、珍しい事じゃあるまいに。それよりさぁ……」
 俺の代わりにもう一人の友達が代弁してくれた。が、俺はその会話には乗らず、急いで学校を出て家へ向かった。
≪解説≫
 今回の話から必要な情報を抜き出すと、
①主人公は普通の中学生(彼、とする)
②彼の父親は既に他界→母親との二人暮らしで、他に人はいない
③彼の母親は認知症
④家の周りは森林
⑤彼の母親の仕事場は家から遠くにある
⑥電気が通っていない
 となります。しかし、それだとつじつまが合いません。主人公は最後、自分の家の方向で煙が出ているのを確認しました。しかし、母親は焼畑農業を家まわりでは行いません(⑤より)。なら煙が何故出ているのか? それは認知症の母さんが家の周りで焼畑農業を行ったからです。他に人がいない(②より)のと、火種となるものがない(⑥より)のから考えてそれは確実でしょう。
 それでは燃える物質が沢山あるところ(④より)で焼畑農業を行ったらどうるか? それは『火を見るよりも明らか』でしょう。

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