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お修羅

今日、会社の同期に突然、「最近おすすめの漫画ある?」と聞かれて、うわ、困ったね、この質問苦手なんだよな、と狼狽えてしまった。

おすすめって難しすぎる、まず、人におすすめできるほど漫画に詳しいつもりか?漫画ハカセにでもなったつもりか?自惚れるなよ、という自意識が働いて、おすすめするという行為にブレーキがかかるんだけど、そんなことを言っていると何も会話が進まないので、何か言わなくては、という焦りが生じる。

そこをなんとか乗り切ると次は、有名な奴を挙げるか、マイナーな奴を挙げるか、という、これまた自意識の問題にぶち当たって、マイナーな奴を挙げると、こいつ気取ってるわ、みたいな扱いになってしまうので本当に最悪、かといって、タイトルも内容も大体知ってるわ、みたいな有名どころを挙げるのは甲斐が無い、少しでも、「君、アンテナ張ってるね」と思われたいという欲が出る。

これをクリアするには、有名、というかある程度高い評価を受けている作品、漫画の賞を取っていると尚のこと良いんだけど、ただ、四季賞みたいなやつは漫画を読まない人にはピンとこない、もっとキャッチーな賞レースみたいなやつじゃないとだめで、しかも、漫画をそんなに読まない人の知名度がそんなに高くない作品、そういうのを挙げれば、良い感じになるんじゃないか?

あと、人に何かをおすすめするなら、やっぱり相手の好みを押さえておかないとだめで、例えば今日の同期なら、スポーツかな?サッカーやってたし、なんか、ぼくが格闘技経験者だからか、最近やけに格闘技の話を振ってくるし、その割に手札が「那須川天心」「朝倉未来」「井上尚弥」の3枚しかないので、本当のところは格闘技にはそんなに興味ないのかもしれないけど、まあ、どちらにしてもスポーツなら関心あるでしょ、ここはやっぱりスポーツ漫画だね。

最近の漫画で、賞取って、スポーツのやつで、ぼくが好きなやつ、これってあれしかないじゃん、全部揃ってるじゃん、きた、いける、見えてきた、どうだっ!と思いつつ、「最近ね…、そうだなあ、ン〜、『メダリスト』、かな…」と渾身の切り札を出すと、「なにそれ?」とキョトンとしていて、よし、知らないやつを挙げるところはクリアだ、あとはどうプレゼンするか、いくぞ、焦るな、まずはあらすじからいこうね…。

それで、「主人公の小学生の女の子が、フィギュアスケートを…」と話し始めるじゃないですか、そしたらね、それを聞いた同期が言うんですよ。「変態の漫画じゃん」って。

オイ!!!!!こんなにさ、こんなに自意識と理性のせめぎ合いの荒浪を乗りこなしてさ、ちゃんと、こちとらちゃんと理屈でおすすめを選んでんのによ、ここに来て「小学生の女の子」という一点だけに反応して、からかいのコミュニケーションをすんのか?暴れるぞ?オラ!!!オッラァ!!!!!オエーーーッ!!!!!

いや、ここで焦ってはいけない。ここでムキになって、「いや、この漫画のいいところはね…」と熱を入れて語り出すと、その熱、熱が更に温度差を生んで、からかいエネルギーが高まってしまう。大丈夫、こんな自意識に塗れた葛藤も、今までの人類の歴史の中で、そこかしこで瞬いては消えている。その中の一つが、ぼくの胸の内で起こっただけなんだ。気にするな、落ち着こう、一旦深呼吸しなくてはいけない。

そもそもね、この葛藤と無縁な人間にしか、「おすすめ教えて?」なんて発言できないんですよ、そして、この葛藤を味わったことがない人間、つまり、自意識と創作物の距離が遠い人間、作品に熱量を割かない人間、そんな人間におすすめを教えたところで、その人と創作の距離は縮まらない、つまり、おすすめしたってどうせ読まないんだ、読んでも響かないんだ、そうだろうが、わかってんだ、こちとらよっ。

だから、熱くなるな、クールクールクール…。そう自分に言い聞かせて、絞り出すように、「良い、漫画なんですよ…」と天に向かってつぶやき、会話を切り上げてその場を乗り切った、そんな、今日の出来事でした…。

全員読もや!!!!!サラバ!!!!!

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