第一回LINE座談会「早稲女×ダルちゃん」

 ネット上で物議を醸している『ダルちゃん』(はるな檸檬著・資生堂webサイト「花椿」掲載)について、早稲女同盟のメンバーで座談会を開催しました。

第一回LINE座談会「早稲女×ダルちゃん①―語ること/連帯すること―」

平成30年6月8日(金)21時~

ぐりこ:みなさま、今日はお忙しい中、『ダルちゃん』座談会にご参集くださり、ありがとうございます。色々と物議を醸しており、さらに現在進行形で連載中の作品なので語るのも難しいかと思いますが、ぜひ忌憚のないご意見を聞かせてください。

《目次》

① 「ダルダル星人」って結局何なの?――そして湧き上がる思い込み説

② スギタと「さみーんだよ」発言――どこにでもいるクソ野郎の思考回路とは

③ ダルちゃんの「強さ」とサトウさんの影響力――読者は議論で現在地を証明する

④ ヒロセとの交際のはじまり――セフレを回避する、概念としての17歳

⑤ 今後の展開大胆予想――シスターフッドは漢方である


① 「ダルダル星人」って結局何なの?――そして湧き上がる思い込み説

ぐりこ:当初語られた「ダルちゃん=ダルダル星人」という設定。心を許した人といるときにダルちゃんの身体がダルダルしているだけで、他の場面ではこの設定があまり生きていない気もします。連載開始当初は、「擬態せざるを得ない女性の生きづらさ」「発達障害のメタファー」などなど様々な意見が出ていましたが、皆さんどうお考えですか?

しきこ:社会生活をする上では隠さなければいけないとされている、だらしなさ、弱さ、甘えたなところなのかなーと序盤は思ってました。心を開いた相手にしか見せられない側面というか。

あげは:誰しも持っている社会的ではない自分、というところかな〜と思っていましたが、だとしたらラブホテルでのスギタの「さみーんだよ」発言は何を指すのかなあ? って。

ぐりこ:スギタと「さみーんだよ」発言についてはまた後で取り上げましょう。

菜々:確かに最初は、擬態せざるを得ない女性のつらさと思いましたが、おっしゃるとおり最近はあまりその設定が生きていないですね。ダルちゃんは、ダルダル星人ではなくてふつうの人間の女性になってしまったのかな?

しきこ:その設定が生きずに済むようになったとも言えるのかもしれませんね。ダルダルしてるところを見せられる相手ができた、信じられる相手にならそれを見せても良いとわかったことで。

菜々:その点に対しては、結構ツイッターでは、批判の意見が目立ちますよね。ダルちゃん、一人の男に認められるだけで昇華される思いだったの? 的な……。

あげは:今週(※第35話)の不穏な展開を喜んでる人もいましたしね……ダルちゃんのダルダルな部分に共感してたからラブ展開に失望する層と、普通に読んでる層に分かれる気がする。

青菜:なんか、結局恋愛に解決させるのかよ!? って白けた面もありました。だからそれだけで終わってほしくないな。

まりこ:幼稚園以降、親にも疎まれてるし、友達にもいじめられたり陰口叩かれてる描写があったけど、具体的にどこがダルちゃんが変わっているのか、他の人と違うのかが個人的によくわからないでいる。見ている限り、ありがちな悩みで、そこまで思い詰めるほどでもないというか……自分で自分は他人と違っておかしいんだって、思い込んでるだけなんじゃないかという気もする。

ふしぎ:私も「ダルダル星人」はダルちゃんの思い込みだろうなって思う。親に認められなかったトラウマから、学校や友達と馴染めない場面を自分の中で膨らませてどんどん自己肯定感が低くなっていった感じ。

② スギタと「さみーんだよ」発言――どこにでもいるクソ野郎の思考回路とは

菜々:ホテルでスギタがダルちゃんに「さみーんだよ」って発言するのも、ダルちゃんがダルダル星人であるというのは実は本人(ダルちゃん)が思ってるだけだから、とも読める気がします。その後「あいつはE・Tで……」みたいな話は一切出てこないから、やっぱダルダル星人=本当の私(本心)なのかなと。

青菜:それ思いました。杉田の「さみーんだよ」発言は、セックスに思うように乗ってくれないダルちゃんの態度に対してかなって。

菜々:同感です……!

ふしぎ:私は、ダルちゃんがスギタを受け入れず泣いたことに対しての、「さみーんだよ」発言な気がする。

ぐりこ:相手の女を意思のある人間として見なしていなかったからこそ、自分の欲望に応えない(=泣く、女体が崩れてダルダルになる)ことに興ざめしてるんですよね。みなさん、引き続きスギタパートについて語ってください!

菜々:スギタパートに関しては、やっぱ最近の展開よりもはるかに尖ってるし、ある程度女をやってれば必ずうずく古傷がある、えぐってくる部分を感じます。てか、こんなセクハラは全員体験してる気がしますよ……げえって感じですが。

しきこ:振り返るとサトウさんと仲良くなりだす前のあの辺が一番「刺さり」ましたね……。

まりこ:スギタみたいな男は、雑に扱えて、ああ言える女をちゃんと選んでるよね。

あげは:スギタのダルちゃんへの呼び方変わっていく過程の描写が丁寧だよね……。

青菜:男から 「さみーんだよ」的発言された女の子って、多分それなりにいるんじゃないかな? だからあのシーンが話題を呼んだのかも。

マヤ:スギタにしろ、サトウさんの元彼にしろ、あんな感じの奴って恋愛遍歴を思い返すといますよね。

一同:(古傷をえぐられる。)

③ ダルちゃんの「強さ」とサトウさんの影響力―読者は議論で現在地を証明する

まりこ:若い頃の自意識過剰さゆえに男に対してああいう風に振る舞っちゃうのは自分にも思い当たる節があるけど、あそこでダルダル星人になるのはあまりにも繊細というか幼いというか世間ズレしてなくてピュアだなって感じが個人的にはした(笑)。でも、だからそれが本心で、コイツ強いぞ、と。

ぐりこ:「強い」ってどういうこと?

まりこ:ダルちゃんがもし本当に自尊心が低かったら、サトウさんの過去恋愛くらいまで堕ちると思うんだよね。ダルダル星人の部分は出てこず、適応しようとしちゃいそう。でも、ダルちゃんはそうしなかった。できなかった。だから、「強い」な、って。

菜々:そっか、自尊心か……。

まりこ:良くも悪くも世間から距離を取ってたから、最後の最後で子供みたいなピュアな気持ちで拒絶できたのかな? って。今(ヒロセと両想い)の幸せも、そういう気持ちで「嬉しい」と享受できてるのかなって。

マヤ:ダルちゃんの自尊心はそんなに低くないっていう意見は面白いね! なるほどー!

菜々:サトウさんはダルダル星人になれないんでしょうね。家でも。

まりこ:詩書けないしね。

菜々:詩を書ける精神性を持っていたから、ダルちゃんはスギタを拒否できたと。

マヤ:ヒロセくんはダルちゃんから選んでアプローチしていて、そういう意味ではダルちゃん主導だし、ダルちゃんは強いのかもしれないね。

菜々:ダルダルできる女のほうが強い説! でも、そうすると、ダルちゃんにとってダルダルすることは、私たちが「書く」ことで自己表現するのと同じ意味を持つのかな。つまり、なんでもいいんだけど、自分でいられる場があって、認め認められる関係性を持ってること。

マヤ:そう思うとダルちゃんって詩を書き始め、更に公募に出したりして、確実に自分から動いてますよね。認められる存在や場所を自分から探しに行く強さがあるのかな。

あげは:ダルちゃんの「強さ」っていうとちょっと違和感あるけど、ピュアさとか建前がわからないとか我々が大人になって獲得してしまった部分を持っていないからこそ、みたいなところがある気がする。

しきこ:三人兄弟の末っ子ですしね。末っ子は強い。

あげは:末っ子のアレか……。どうでもいいけど早稲女同盟編集部は全員長女です!(笑)

青菜:自我は元々強いだろうけど、それがサトウさんと出会っていい感じで主体性持って強くなっていったのかな。

ぐりこ:好きにダルダルできた&自分を認めてもらえたからこそ、周りに適応するためにびくびく過ごすだけじゃなく、自分から動く主体性を獲得できた、的な。そう思うとやっぱサトウさんの存在は偉大ですね。

青菜:サトウさんと出会いてえー。

菜々:スギタパートでのサトウさんとダルちゃんの対立構造は、わりとすぐ解消されましたが、対立してるときのほうが議論を呼びましたね。自分はサトウさん派かダルちゃん派か。

ぐりこ:たしかに対立しているときのほうが話題になりますね。読み手の価値観が抉り出される漫画だから、そこが評価されている気もします。平和な展開になると批判が増えますよね!

あげは:そう思うと議論を呼ぶ構造を敢えて作ってるのかなーとも思えてくる。

菜々:ダルちゃんとサトウさんって、二人の人間だけど、多分ひとりの女の人が辿っていく段階を示してて、本質的にはひとりのキャラクターなんですよね。サトウさんが前半で読んでる詩集って、ダルちゃんが書いたものかなっていう読みもできるし(時間軸を外せば)。だから私はサトウさん派、ダルちゃんっていう議論には、自分の立場は「いま」ここ、っていう、現在地証明みたいな意味しかないと思う。意見は変わるし。

あげは:議論は現在地証明、すごく面白い!

④ ヒロセとの交際のはじまり――セフレを回避する、概念としての17歳

未衣子:先ほど話題になった、ダルちゃんの「強さ」といえば、ヒロセさんとの交際から非常に感じるところがありまして。彼とは身体の関係から始まっているじゃないですか。ありゃ確実にセフレになるパターンです。フラグ回避不可避の……でも、そこからミラクルで交際が始まるという。トンデモ少女漫画も顔負けのミラクルプレーです。そこに迷いが一切なかったの、強すぎるやろ!!! って思いました。本当の愛があれば、口約束なんて要らないのかよ???

あげは:ダルちゃんにはセフレって概念がない……?

まりこ:私は付き合えるかどうかと、先にやるかどうかはあんまり関係ない説を信じている(笑)。付き合えるときは、最初からアリと男は思ってるから順序逆でも付き合える。ヒロセに関してはちょっとよくわからんことが多いけどね……。

ぐりこ:ミラクル少女漫画展開かと思いきや、今週(※第35話)のヒロセ、めっちゃ人目気にしてましたからね。怪しすぎる!

菜々:私はまりこさんに同意ですー。

あげは:言葉は交わしてないよね、ヒロセも好きとか言ってない。ダルちゃんがモノローグで相手も好き云々言ってるけど。

マヤ:逆にあの限られたページの中で言葉を交わしてからセックスしてたら、なんか興ざめかも。

あげは:どちらかというとセックス後じゃない? 何か言葉を交わすなら。

菜々:セックスして付き合わなかったらそれは裏切りなのでしょうか……?

一同:(しばらく、付き合う前に身体の関係を持つかどうかについての意見交換。)

まりこ:すごく下世話なんですけど、ヒロセが童貞だったのかどうかが気になってしまった……。

しきこ:キャラ造形が童貞キャラのそれですからね……。

菜々:童貞だったとしたら、浮気してるっぽい今週のヒロセは急に世界広がりすぎてて怖い……。松浦理英子がよく障害のある魅力的な男性を書いてますけど、ヒロセもそっち系統ではないのかと。意外に母性本能刺激してモテるタイプなのでは。

あげは:私はヒロセ非童貞派で! 初回の立ち振る舞いから。

ぐりこ:私も童貞とは思わなかったです。どちらかといえば、ダルちゃんが浮気相手なのではという気がします。

菜々:ヒロセさん、得体がしれない感じがありますよね。

まりこ:うどん屋で2人でわりと身のある話をしてて、ダルちゃんはそこに感動して(?)、この人なら私の本心を話してもわかってくれるかも! 少なくとも「さみーんだよ」とは言わなそう! って一歩踏み出したんだと思うけど、これまでの人生で誰ともあれくらいの会話してこなかったのか……? と、ちょっと思った。わりと普通に友達同士でするレベルの話な気がしたから。

青菜:ダルちゃんは自我が強すぎるせいか、ヒロセに対しても思い込み過ぎてる感はありますよね。

ぐりこ:ずっと擬態してたわけだから、友達とも誰とも深い会話してこなかったのはわかります。だからこそ、サトウさんやヒロセへの思い入れがあれだけ強くなっているのでは。

まりこ:今まで、自分からもいかなかったし、来てくれた人も拒絶してたのかな……? やはり親に受け入れられないというのが相当にショックで世界に絶望してたんだろうか……。

あげは:ダルちゃんは処女以前に本当に全部今が初めてなんだよね。好きな相手とセックスした後、詩が書きたくなる24歳だからね……。

菜々:ダルちゃんは17歳なんだって思うほうがいいのかも。

あげは:17歳だと思うと全部説明つくよね。そして17歳だからこそここで終わらないで紆余曲折してほしい!!

菜々:そう考えると24歳っていう設定は現実的すぎてつらいですね。アメリが23歳みたいな……。10代でみんなが済ませることを一つも済ませてないから、20代でダルダルしちゃう。

まりこ:ああ、だから、幼くてピュアだな、って思ったのかも。

菜々:17歳なら自尊心低くてもスギタを拒否できそう。

青菜:その妙な幼さもあって発達障害説が浮上してたのかもしれないですね……。

あげは:社会を拒絶して10代を過ごしてきたけど、サトウさんきっかけでばーっと世界が開いて、色々なことが一気に始まった感じかな。ダルちゃん、これから自分の仕事に疑問持ったりするんだろうなぁ。

まりこ:忙しいな。大変だな、それは。

  

⑤ 今後の展開大胆予想――シスターフッドは漢方である

未衣子:そういや、サトウさんの好きな人って……?

ぐりこ:サトウさんの今後、気になるところですよね。ツイッターで、またモラハラ男につかまってるのでは? って意見を見てつらくなった。

菜々:サトウさんのほうがダルちゃんより危うい。

マヤ:サトウさん、美人だし賢そうなのに幸薄い……。

未衣子:なんか、ダルちゃんの幸せとサトウさんの不幸せが対照的だったので、もしかして、ダルちゃんの幸せは、サトウさんの不幸せと、なにか実際に関係があるのかと想像して、不穏だなあと思ってました。

菜々:ぎゃー!!! 昼ドラ展開!!!

あげは:サトウさんの今の男の話。過去も含めて全部知ってる男、ってあんまりいい感じはしないですよね。

ぐりこ:いい感じしない! 女のトラウマを嗅ぎつけてくる男は、新たなトラウマを植え付けていくんですよ。

未衣子:なぜかものすごい説得力や……。

あげは:過去の話聞いてくれる男に気持ちがいくの超わかるわ。

菜々:過去の話は聞いてほしいですよねー。

ぐりこ:女子同士で語ろう! インチキメンタリストみたいなメンヘラホイホイ男相手じゃなくて!

菜々:私は男女の愛よりシスターフッドのほうが人生に効くと思っています。例えるなら、シスターフッドは漢方で、男はロキソニン。

あげは:100回ふぁぼった。

菜々:だから二人にはのりこえてほしい!! なにがあっても!!

菜々:(付き合っている男性に)話したいのもあるけど、彼の私と付き合う前の話も聞きたい。書物のネタになる(笑)。

ぐりこ:「ネタになる」って感覚、表現者特有のものだと思うんですけど、たぶん、ダルちゃんもヒロセと別れたらその境地に行く気がするんですよね。

あげは:そこまで描いてほしいよね。

まりこ:ヒロセのこと、すでに詩のネタにしてるのが気になっている。

菜々:ダルちゃんも早稲女同盟にきてほしいなー。

青菜:今後の展開予想。ダルちゃんはヒロセと破局→詩のコンテストで賞もらう→表現者として頭角をあらわしていく!

しきこ:それ良いエンドですね!

菜々:そうするとやっぱり、ダルちゃんは多くの女性が通ってくる通過儀礼を体現してくれてるって気がしてきますね。

あげは:まだネタになるって感覚がなくて、溢れる感情をそのまま詩にしてるという意味では表現者として未成熟で、今後の展開とともにそのへんがどうなっていくかも気になるところです。

ぐりこ:私はこないだかぐや姫の物語を見ていて、「一度は適応しかけた人間社会に絶望したダルちゃんが、ダルダル星に帰ってしまう(心を閉ざしてしまう)」絶望エンドを思いついてしまって。そんな鬱展開にはならないと信じたいけれど、物語としては妥当性あるよね。そんな形でダルダル星人設定が活かされることがなければ良いのだけど。

菜々:ヒロセとは、まぁ、うまくいかないんでしょうけど、ダルちゃんには一皮むけて一人で生きられる女性になってほしい! ダルダル星人のままで。かぐや姫ENDは悲しすぎるし、資生堂が協賛でそれは許されないという気もする(女性を応援するコーポレートイメージのためにも)。

未衣子:今後の展開は……やっぱり『誰かの願いが叶うころ』みたいになるのではと不安。わたしは適当にヒロセと幸せにやってくれやと思っておりますが、どうしてもサトウさんの幸せと自分の幸せを天秤にかけるダルちゃんが脳裏をよぎります。自分の幸せの血生臭さに一時は傷つくも、それでも愛を選ぶダルちゃん……ってまったく違う話になっている気がしますが、なんらかのハッピーエンドだとうれしいです。

がおちゃ:公募/意思表示できるダルちゃんはヒロセとどうなってもまったく心配いらないと思うけれど、超絶受身のサトウさんは心配になります。ダルちゃんが詩で受賞したら表現者/消費者という構図になって、サトウさんが嫌味の一つでも言うのではないかと。サトウさん幸せになってほしい。

まりこ:わたしはもうツイッターが荒れようがどうだろうがみんなハッピーエンドになってほしいです……ヒロセが人目を気にしてこそこそしている件も、「わたしはそんなの気にしないよ!好き!!」程度の茶番みたいな痴話喧嘩で終わってほしい……。

ぐりこ:女にとっての幸せは恋愛成就や結婚、出産、という価値観に疑問を投げかけているのがこのマンガだと思うんですよね。それっぽく見える展開が続くと批判も集まりますし。何がハッピーエンドなのかわからなくなる……。多様な価値観を内包する『ダルちゃん』について、今回みなさんの意見を聞いてみて、より今後の展開が楽しみになりました。シスターフッドの行方にも、表現者としてのダルちゃんの今後にも期待したいです。また展開に変化が見られたら、ぜひ、第二回座談会を開催しましょう。今日はどうもありがとうございました。(終)


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