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KBOの育成選手制度

はじめに

NPBとKBOにはさまざまな違いがある。
KBOは1リーグ、外国人選手の契約枠に制限がある…など、数え上げればキリがない。ドラフト制度もかなり違う。

そうした日韓の相違点のなかでも、あまり焦点が当たることのない育成選手制度について本稿で簡単に紹介したい。

※本稿は各種書籍や韓国のWikiサイトを参考とした

なお、KBOでは2015年まで「育成選手」ではなく「申告選手」と呼んでいた。

また、それまでは「高校大学の卒業年次生は全員ドラフト指名対象」としてきたが、2021年5月の理事会以降、KBO入団希望の高校・大学野球の選手には「ドラフト参加申請書」(日本の「プロ志望届」に相当)の提出を必須としている。

KBOには「育成ドラフト」が無い


最大の相違点がここにある。
実は韓国には「ドラフト外入団」が残っている…とも言える。
KBO球団と、育成選手として契約できる条件は次のとおりである。

①ドラフト参加申請書を提出したが、指名漏れした選手
②KBO球団から戦力外通告を受けた選手(日本における「育成再契約」に相当)
※追記 ドラフトで指名された選手が、ドラフト指名後の故障などで育成選手として入団することがある

ドラフトで指名漏れした選手は全てのKBO球団と交渉し、育成選手契約を結ぶことが可能である。

一方で、下記に該当する選手は育成選手契約を結ぶことが出来ない。

①ドラフトでの指名を拒否した選手
②ドラフト参加申請書を提出していない選手
③ドラフト参加申請書提出後、ドラフト会議前に外国球団と交渉したが契約に至らなかった選手
④大学2年生選手を対象とした「アーリードラフト」で指名漏れした選手

ちなみに「育成再契約」についても、シーズン中にウェーバー公示され、自由契約または任意引退となった選手は当該シーズン中に育成契約できないという制限がある。

また、FAの人的補償逃れやエクスパンションドラフト逃れに悪用されることを防ぐため、シーズンオフに発表される「保留選手名簿」から漏れた選手は、名簿発表の日から1年間、もとの所属球団と育成で再契約を結ぶことが2016年以降禁止された。したがって、NPBのように「戦力外→すぐ育成再契約」という形をとれず、育成でもよいから現役続行希望…という選手は他球団に移籍しなければならない。

育成選手に関するルール

育成選手として契約した選手は、開幕前に支配下契約に移行した場合を除き、開幕後の5月1日以降に支配下契約が可能となる。ただし、一軍の支配下登録人数は65名までであり、支配下枠の空きが必要である。

KBOでは兵役から戻ってくる選手やトレードで入団する選手など、シーズン中も入れ替わりが激しいため、支配下枠には余裕を持たせて開幕することがほとんどである。

育成選手に契約金は無い。最低年俸は、支配下選手の最低年俸と同じ3,000万ウォン(2023年12月12日のレートで、約331万円)である。

かつて、「練習生」と呼ばれた頃の育成選手の待遇はとても悪く、1986年にハンファに練習生として入団したのち、支配下選手となってKBO史上初のシーズン40本塁打を達成したチャン・ジョンフンの初年度の年俸は300万ウォンに過ぎなかった。

育成選手は、公式戦についてはフューチャーズリーグ(二軍戦)にのみ出場可能である。

NPBにおいては、育成選手の契約は3年で自動的に切れるが、KBOでは育成選手の契約期間の定めはない。

育成選手をめぐるあれこれ

KBOの育成選手出身者の中には、LGのレジェンド二塁手ソ・ゴンチャンや、ピングレ→ハンファで活躍した右腕ハン・ヨンドク、現役選手だとLGのキム・ヒョンス、パク・ヘミン、ロッテのチョン・フン、サムスンで活躍し今はキウム所属のイ・ジヨンなどがいる。

しかし、育成選手の多くは入団から2〜3年で支配下契約を勝ち取れないまま退団してゆく。
育成選手として退団する選手については、KBO公式サイトの「選手異動現況」や「保留選手名簿」に掲載されない。このため、育成選手の動向については各球団の公式サイトなどを追うほかない。

KBOのドラフトは高卒選手の指名がかなり多い。
その一方で、育成選手として入団する選手は大卒が増えてきている。
これには「一芸特化型」「素材型」「ロマン枠」の大卒選手を育成で獲得したい…という球団側の意向とは別に、「元プロ野球選手」をめぐる厳しい状況が影響している。

日本おいては、元プロ野球選手が大学の野球部に所属することは認められていない。ただし、社会人野球では、1チームあたり3名まで元プロ選手を受け入れている。よって日本の「元プロ野球選手」が国内でプレー続行を希望する場合、独立リーグ、社会人野球のふたつの可能性がある。

一方、韓国でも大学野球は元プロ野球選手に門戸を開いていない。そればかりか、近年再興しつつある実業野球(日本でいう社会人野球)も、元プロ選手を受け入れていない。独立リーグ以外に国内でプレー続行の選択肢が無い状態である。

こうした状況と、育成選手が2〜3年で放出されがちであることとをあわせて考えると、高卒選手が育成契約でKBO球団に入ることはリスクが高過ぎる…という考え方が浸透している。

現在では殆どなくなったが、かつては二軍公式戦における育成選手の扱いはきわめて雑で、投手は過酷な連投を強いられ、野手は本来のポジションと異なる守備位置での出場も多かった。

おわりに

事実上の「ドラフト外入団」ともいうべき、KBOの育成選手制度。
最低年俸の引き上げなど、待遇の改善が進む一方で、やはり育成選手がおかれた状況は厳しい。
しかし、たとえどんなに厳しくとも、支配下登録を目指して、選手たちは闘志を燃やしていることだろう。

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