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『のぞきめ』三津田信三

“視線”の作家の面目躍如。そして古典的世界観の裏面には確かな現代性が【75】

 三津田信三は“視線”の作家である。彼ほどデビュー作から一貫して“視る/視られる”という関係性を直向に描いてきた作家はいない。そんな彼が『のぞきめ』という題の作品を書くのだから、失敗するはずがないのであった。呪われた村、通称《弔い村》に関する二つの怪異譚。このあらすじだけを聞けば、正統派の土俗ホラーのようにしか思えない。そして、実際に物語の九割方は因習に囚われた共同体を舞台とした土俗ホラーなのである。この展開からミステリに転じることがあり得るのだろうか、と心配になってくるほどに。しかし、終章において物語は見事にミステリへと反転する。土俗的なものだと思われていた《のぞきめ》は、実は極めて現代的な主題を暗示していたのである。そして、読者は否応なく気が付かされる。我々こそがmemeだったのだ、と。我々こそがvirusであったのだ、と。

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