文学と探偵小説に関する覚え書Ⅲ

(承前)

11
 探偵小説は、文学と共に歩いてきた。

 ※

12
 言葉は歩き出す。

 ※

13
 戦前、「探偵小説」は探偵が推理するだけの小説を指してはいなかった。
 戦後、「推理小説」はむしろ推理よりも社会の風俗と仕組みとそれらに取り込まれていく個人の軋みを描くことに注力していた。
 平成以後の「本格ミステリ」を「正統な格式を持つ推理小説」と捉える人間が果たしてどれだけいるか。

 ※

14
 「探偵小説」を、「推理小説」を、「本格ミステリ」を、それぞれ語の分解し、検討し、定義しようとする行為は不毛である。それらは、いわば熟字訓のようなものである。「田舎」という字の「田」という字を抜き出して、それを「い」と読むか、「いな」と読むか、などという議論が成立しないように、「探偵」と「小説」とを分解して、その意味を問うことは不毛なのだ。なぜなら「探偵小説」という語は、それ自体としてすでに歩みを進めているのだから。

 ※

15
 「文学」もまた熟字訓である。経済の学問としての「経済学」、法の学問としての「法学」、歴史の学問としての「史学」とはやはり趣が違う。「文学」は、すでに「文」と「学」という個別の意味を置き去りにして、遥か遠方にまで歩みを進めている。

(続)

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