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『松井和翠=責任編集 推理小説批評大全 総解説』の完売について

 9月3日(月)を持ちまして『松井和翠=責任編集 推理小説批評大全 総解説』(文庫A6版)の在庫分が完売いたしました。ありがとうございました。尚、今後の再版は未定です。

 どうも。松井和翠です。
 ようやく『松井和翠=責任編集 推理小説批評大全 総解説』が出ます。
 日本推理小説の批評的散文の中から70編をセレクトし、その全てを解説した書物です。
 〝批評〟といっても原論、作家論、作品論から序文、跋文、解説文、時評、選評、エッセイ、インタビュー、果ては小説まで〝よりどりみどり〟を意識してセレクションし(原文を収録できなかったのは残念ですが…)、それに呼応するように私の解説文も2000字を超える長文から、100字に満たない短文まで、また、その形式も作家論、作品論はもとよりエッセイ風、ブックガイド風、小説風からパロディにパスティーシュに座談会に…と、こちらも〝よりどりみどり〟取り揃えました。
 全ての文章が気に入っていただけるとは露ほども思ってはおりませんが、70編の解説文の中で琴線に触れるものが1編でもありますれば、これに勝る喜びはありません。

〝何代たつても亡びない百首をわたしは選んだ〟

 これは丸谷才一が『新々百人一首』(新潮文庫)の序文に書きつけた一文です。先人の言を捩るのは面映い限りではありますが、しかし私にもまた次のように宣言させていただきましょう。

 何代たつても亡びない70編をわたしは選んだ、と。

【カバー裏/内容紹介】
黒岩涙香から有栖川有栖まで—
日本探偵小説の成立から一〇〇年余り、
その間に発表された評論七〇編を
余すところなく集纂・解説する異色大全。

文庫(A6版):301頁 印刷: 株式会社ポプルス 言語: 日本語 発売日:2018/8/11(第二版)

【目次】
序 松井和翠

1「探偵譚と疑獄談と感動小説には判然たる区別あり」黒岩涙香
 探偵談は探偵その人を主人公とす、疑獄譚は裁判官を主眼としその断訟の妙を現す、感動小説は(…)様々の境遇を経過する冤奴(ビクチム)すなわち主人公たるなり。

2「探偵小説小論」佐藤春夫
 探偵小説なるものは、やはり豊富なロマンチイシズムという樹の一枝で、猟奇耽異(キユーリオステイハンチング)の果実で、多面な詩という宝石の一断面の妖しい光芒で(…)

3「日本の近代的探偵小説」平林初之輔
 探偵小説を、一般の小説から、特にきりはなして、これを特殊の眼で見(…)先天的に、特殊の価値を約束されているように見做すのは、間違いであると私は考える。

4『犯罪文学研究』(抄) 小酒井不木
 そもそも探偵小説には、「推理」以外に、ミステリー(怪奇)と、ホーロウ(凄味)と、ウィット(機智)と、ユーモア(諧謔)のどれかがなくてはならない。

5「春寒」谷崎潤一郎
 さうして僕が、その中から唯一つ選び出したものが渡辺君の応募作品「影」であった。「唯一つ」と云ふ意味は、(…)唯此の「影」だけが鮮やかに図抜けてゐたのである。

6「探偵小説の真使命」夢野久作
 (…)探偵小説の使命は三稜鏡で旧式芸術で焦点作られた太陽の白光を冒涜し、嘲笑し、分析して七色にして見せる尖端芸術である。

7「探偵小説講話」(抄) 甲賀三郎
 ショート・ストーリイの重要々素は「不快味(アンブレザントネス)」である。

8「私の探偵小説論」横溝正史
 そして若し「驚き」、「異常」と両立し得ない場合には、私はむしろフェヤーの方を犠牲にする。その方が小説をしてフェヤーであると信ずるからである。

9「柳桜集跋」木々高太郎
 友等よ。この一文は、(…)一に作者の秘密なる胸奥をさぐって、作意よりも更に深きに達せんとしたる、恐ろしき一文なるが故に、請い求めたのだ。

10「一人の芭蕉の問題」江戸川乱歩
 ああ、探偵小説の芭蕉たるものは誰ぞ。

11「A君への手紙」井上良夫
 全く、探偵小説に出て来る人物は、(…)普通一般の小説の登場人物に較べ、事実はその賢明さに於てむしろ一段劣っている、とお考えにはなりませんか。

12『不連続殺人事件』選後感想 坂口安吾
 私が犯罪心理の合理性というのは、こういう人間性の正確なデッサンによるものをいうのであって(…)

13「エンターテインメントとは何か」丸谷才一
 しかし彼は、探偵小説の虚偽を—つまり人生は探偵小説とは違ふことを—最初から見ぬいてゐた。

14「彼らは殴りあうだけではない」都筑道夫
 ホタルは鳴かないのではなく、わかりきつたことですが、鳴けないのです。

15「素人探偵誕生記」福永武彦
 しかし優秀な作品は、トリックの独創性を抜きにしても、その小説だけの独特の奇妙な魅力、僕がひそかにみそと名づけたものを持っているものだ。

16『地獄の読書録』(抄) 小林信彦
 なに、まだまだ優秀な訳者はいるのさ。問題は手数をかけて探すか、探さないかということだ。

17『紙上殺人現場』(抄) 大井廣介
 小説像は目鼻のある像ではなく符号に等しい観念像だというぼくの小説論を彼ほど偶然裏書きしているものはない。

18「松本清張批判」大岡昇平
 松本や水上の感情は、平野の言う通り「みかえしてやろう」もしくは「仕返しをしてやろう」というほどの下世話なものである。

19「密室論」紀田順一郎
 密室に夕暮れが訪れた。カンヌキのかかった厚い扉をこじあけようとする者は、すでにいない。

20「ドグラ・マグラの世界」鶴見俊輔
 主人公のおかれた状況は、コミュニケーションの網目の発達した二十世紀で各個人が社会にしっかりととらえられている状況そのままである。

21「『樽』私見」鮎川哲也
 クロフツは机に向って思考することをしなくてはならない。

22「高木彬光論」倉持功
 (…)氏の半生には、おそらく恋愛なり結婚なりの問題で、この戸籍が思わぬ障害となり、血の涙を流させた場面があったのではないでしょうか。

23『ミステリ百科事典』(抄) 間羊太郎
 インディアンの拷問の一つに、沙漠に仰向かせたまま四肢を地面に固定し、両瞼を切り取って、一日中烈日に両眼球を曝らして目をつぶすというのがあった。

24『極楽の鬼』(抄) 石川喬司
 しかしそうした困難を克服して(…)、ある程度の共通項をとりだして客観的な採点の物差を作成することは、はたして不可能だろうか?

25「新本格推理小説全集に寄せて」松本清張
 今や推理小説は本来の性格にかえらなければならない。社会派、風俗派はその得た場所に独立すべきである。本格は本格に還れ、である。

26「スープの中の蠅」中村真一郎
 つまり、二十世紀の前半の文学の歴史は、「純文学」と「推理小説」との境界線を取りはらう道を歩いてきた。

27「乱歩妖説」山田風太郎
 それは乱歩先生のおつむのことである。

28「風を視る」(抄) 高木彬光
 生来天邪鬼な彼としては—この天邪鬼という要素は推理小説の作家には絶対に欠くべからざる才能だが—(…)

29「法治国家と推理小説」中島河太郎
 今後、日本の民主化が進めば進むほど、推理小説は知的な読物として、もっともっと国民大衆に広く親しまれるようになるに違いない。

30『夜間飛行』(抄) 青木雨彦
 わたしは、情事(アフェア)を失った代わりに、何かを得たのである。

31『パパイラスの舟』(抄) 小鷹信光
 しかし〝英雄〟は私の中で死滅したのです。

32「アーチャーが私をつくった」各務三郎
 両評者のあいだに、レトリックの差がありすぎることにおどろき、さらに小説を読みこなす力倆にも格段の差を見出し、その信頼の度合いを結城氏のほうに傾けるでしょう。

33「黒の水脈」中井英夫
 それも、なし得るものならば一すじの黒い水脈(みお)を曳いて。

34「ちいさな教室で10回もやった探偵小説の歴史の講義」(抄) 植草甚一
 そういうふうにポーがそれを読んだときに分かったと同時に、どうやったら探偵小説を書けるかっていうことをその時いっしょに発見したということです。

35「夢幻の錬金術師」山村正夫
 夢幻の砂を撒き散らしていた〝砂男〟は、自ら崩壊し去ったのである。

36『推理日記』(抄) 佐野洋
 つまり、私が「視点」と言ったときには、そこに、石沢氏の言う「心理」をも含んでいるのである。

37「深海魚の夢」権田萬治
 戦前の探偵小説の特質を考えようとするとき、ふしぎなことに私の頭の中に、このような深海魚の孤独な姿が浮かび上がって来る。

38「ゲームの規則」寺田裕
 (…)ただひとつ、探偵小説も全ての文学と同様、規則のない遊戯(ゲーム)であるという、これに尽きる。

39「第一回 <幻影城>新人賞・小説部門 選評」権田萬治・中島河太郎・横溝正史・中井英夫・都筑道夫
 妖花一輪

40「「新伝奇小説」と「運命の書」」松山俊太郎
 かくのごとく、「黒死館」の「浪漫性」は、「閉塞された浪漫性」であり、「道具立ての浪漫性」であり、「酵母の活きない浪漫性」であった。

41『メインディッシュはミステリー』(抄) 小泉喜美子
 「ミステリーというのは、泥くさくてはいけないの。洗練されていなくては、ミステリーとは言えないわ」

42「正史世界の女性たち」栗本薫
 彼女たちに共通しているのは、彼女たちが母であるか、恋人であるかにかかわらず、きわめて「母」的なかたちでしか、人を愛さないことである。

43「新カー問答」松田道弘
 カーのミステリ作法の基本姿勢はミスディレクションをミステリに応用したものといいかえることができるだろう。

44「終末の鳥獣戯画」高山宏
 大戦がもたらした荒廃がいまや世界そのものを巨大な童謡殺人に化してしまったからである。

45「スパイ小説作法」中薗英助
 スパイ小説は、(…)「文学的スペクトルの深化」によって、政治・思想を超えた人間世界の根元にまでオモリを下ろすようになったのである。

46『乱歩と東京』(抄) 松山巌
 翻ってみれば、乱歩の少年ものの魅力は、どこにあったか。それは(…)その街角を跋扈した怪人二十面相たちにあったのではなかったか。

47「ヒーローたちの悲哀」北上次郎
 そして彼にとってのハンティングとは、自然と一体化することである。

48『怪盗対名探偵 フランス・ミステリーの歴史』(抄) 松村喜雄
 ガストン・ルルーはこの分類に従えば、社会派作家といった方がいい。

49「『アッシャー家の崩壊』を犯罪小説として読む」平石貴樹
 あるいは『アッシャー家の崩壊』の謎めいた出来ばえは、くるくると交代しあう合理と不合理、実像と虚像とのあいだに佇み、(…)

50『物語の迷宮 ミステリーの詩学』(抄) 山路龍天・原田邦夫・松島征
 人の巧知が仕組んだ構築物が迷宮なら、この世という人の手の仕組まざる王国もまた迷宮なのである。

51「孤島の小林少年」橋本治
 猟奇の本質—即ちそれは〝隠れていること〟である。

52『87分署グラフィティ』(抄) 直井明
 (…)マクベインは時々豹変して政治的になる。

53「本格ミステリー論」島田荘司
 したがって「本格ミステリー」の作家は、完全な二重人格者でなくてはならない。

54『夢想の研究』(抄) 瀬戸川猛資
 何を言いたいのかといえば、本格ミステリというものは実はさまざまな可能性を秘めた奥の深いものなのだ、ということなのである。

55「探偵小説的『死霊』論」山下武
 この擬態、曖昧化こそ、ほんらい『死霊』の探偵小説的構成を可能ならしめた特性ではなかったか、と。

56『密室犯罪学教程』献辞 天城一
 探偵小説は読者に参加の夢を与えると称しながら、実祭は読者を操作するにすぎませんでした。

57『北米探偵小説論』(抄) 野崎六助
 これがハメットの書き方なのである。

58『探偵小説論序説』(抄) 笠井潔
 (…)人為的に演出される輝かしい死のイメージは、大量死を模倣した大量生の波間を無力に漂うしかない大戦間の読者に、圧倒的な興奮と魅惑をもたらしたに違いない。

59「挑発する皮膚」法月綸太郎
 (…)島田荘司と赤瀬川原平の「作品」がお互いに歩み寄り、触れ合おうとする接点とは、事物の表面、表層的なものに対するデリケートな感受性にほかならない。

60「終わらない伝言ゲーム」千街晶之
 だが考えてみればミステリそのものが最初から、近代と対立する時限爆弾じみた自己破壊因子をその内部に秘めていたのであり(…)

61「明るい館の秘密」若島正
 この館は、どこまでも明るく影のない、「何も隠されていない」館である。

62『日本探偵小説全集〈11〉名作集Ⅰ』解説 北村薫
 アンソロジイとは結局のところ、読者一人一人が自分の内に編むものだ。

63「本格ミステリvsファンタジー」殊能将之
 だからトリックって、実はイマジネイティヴなんです。

64「緋色と赤の距離」石上三登志
 そしたら、なんとそれがハメットにつながってしまった!

65「『ブラッディ・マーダー』」波多野健
 (…)シモンズも独自に「初期クイーン」と「後期クイーン」の質的な差と不可逆性を認識できるところまで到達していたのである。

66「宿題を取りに行く」巽昌章
 再びいう。七八年二月まで戻って、佐野洋の発言に対して何か反論するとしたら、何を書くべきだろうか。

67「不可能な薔薇」安藤礼二
 兄と弟の間に結ばれる「虚数」としての、また「貴腐」としての憎悪と愛情の関係。おそらくそれが『虚無への供物』の根底に横たわる最後の「謎」である。

68『戦前戦後異端文学論』(抄) 谷口基
 戦前の黄金期において〈探偵小説〉は、あらゆる奇譚を一堂に集めた深遠かつ壮麗な文学ジャンルであった。

69『ちみどろ砂絵・くらやみ砂絵—なめくじ長屋捕物さわぎ〈一〉』解説 新保博久
 その責任の一半は江戸川乱歩にある。

70「除夜を歩く」有栖川有栖
 「(…)ないからこそ、そうであれば、と希う」

付録・評論書ベストテン 孔田多紀氏/秋好亮平氏(選)
参考文献一覧及び補記・注記・後記、そして謝辞 松井和翠

                              以上

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