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上京ものがたり

ランナーズハイならぬ新卒ハイ

私は地方の大学を卒業し、東京の会社に就職した。
地方で就職するつもりが、就職活動中に東京に来て圧倒的なパワーにやられた。気づいたら4月には上京していた。
人の多さに圧倒され、歩くスピードについていけず、メトロに乗るのもままならなかった。

就職して同期との研修を経て、いざOJTが始まると忙しさの波に飲み込まれていった。今思えば何が忙しかったのか…
膨大な事務処理と膨大なクレーム対応、社会人1年目ゆえの雑務。優先順位をつけることのできなかった私は、毎日目の前のことをこなす。ということに一生懸命だった。毎日新しいことを覚え、覚えたことを実践して戦力になろうと必死だった。

私が配属された部署は少し特殊で、個人情報を大量に扱うのでセキュリティも厳しく、お客様対応も多く、神経を使うことが多かった。新卒1年目、右も左もわからいまま高度なクレーム対応を求められた。

毎日大変だったけど、仕事帰りに東京タワーを見上げて帰った。東京タワーを見ると不思議と元気がでた。

ハイからのダウン

そんな私の目下の悩みは直属の先輩との関係だった。
私がなにか質問をすると、すっごく困った顔をして汗をたくさんかいて、「ちょっと時間をちょうだい。」と言う人だった。自分の不甲斐なさで人を困らせている。という状態が続き、必死に頑張りたい自分と、どうしたら良いのかわからない自分とで次第に苦しくなっていった。

ある日、出勤して自分のデスクに座ると涙が止まらなくなった。
理由がわからず流れる涙なんてはじめてのこと。自分で止めることができず、そこで初めて(あぁ、私の心が限界って言ってる)ということに気づいた。上司が気づいて・・・そこからの記憶がない。

どうにか1日持ちこたえた私は、仕事帰りにちょっと回り道をして、東京タワーを眺めにいった。いつもと違う小さな東京タワーが見たかった。「私はなんのために東京に来たの?」という問を繰り返し、小さい頃からTVで見た東京タワーを見つめた。

一通のメール

翌朝、出社すると一通のメールが届いてた。それは隣の課の上司からだった。その上司はロジカルで頭の切れる優秀な人。という印象でちょっと近寄りがたい雰囲気のある人だった。メールを開いてみると


・あなたが入社してからの頑張りを見てきたよ。
・覚えているかわからないけど、先日、あなたは私の来客対応をしたよね。あの人は私の恩人で、その人があなたの対応をとっても褒めていたんだよ。僕は「良い人を採用しましたね。」と言われてとても嬉しかった。
・あなたは今、先輩との関係で悩んでいるかも知れないけれど、あなたの勤務姿勢に問題があるわけではない。あなたはよくやっている。
・あなたの挨拶は実に気持ちの良いものでした。

という内容のメールだった。文末の「あなたの挨拶は…」あたりで涙がこみ上げ、私はトイレに駆け込んだ。昨日とは違う涙が止まらなかった。

仕事をしていると、些細なことでも誰かがみている。といわれるけれど、本当に見てくれている人なんて思いもしなかった。おかげで私の危うかった精神状態はギリギリのところで落ち着いて、新卒一年目ハイとダウンを乗り越えた。

その後、当時の私の先輩は、過去に上司からのパワハラで心の病を患っていたことがわかって全てに合点がいった。そんな状態の先輩にOJTを任せるなんてどれだけ酷な会社なんだ!という怒りもこみ上げたけど、今その先輩は幸せに暮らしていると聞いて安心した。

だれかが見ている。からと言って頑張れるものではないのは知っている。でも、本当に見てくれている人がいたおかがで今の私がある。東京タワーを見るたびに思い出す、私の働く原点。


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