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<はじめての手帳スケッチ>その3. 手帳スケッチはどの場面で使えるの?(2)

はじめに

  前回の記事、手帳スケッチはどの場面で使えるの?(1)では人物スケッチについて解説しました。ここでは続きとして、街歩きスケッチについて解説します。

 参考のために、前回の記事で示した全体のジャンルの図を下に再掲載します。

手帳スケッチの使い方の考えられるジャンル

街歩きスケッチ

 「街歩きスケッチ」は、読んで字の如しです。戸外を歩きながら、感動したり、あるいは美しい、興味深い、驚いたと感じたら、すかさずペンと手帳を取り出し描くのです。

 時間は長くても30分以内で描くようにするのがポイントです。できれば、すばやく15分から20分以内に収めるのが望ましい。丁度スナップ写真を撮るように。

 それでは、どこで何を描くのでしょうか。人によって興味を持つ対象や美しいと感じる対象は違い、それこそ人様々です。ですから「街歩きスケッチ」の描く対象を一般化して説明することはできません。

 ただ、初心者の方は最初何を描いたらよいか、どこを描いたらよいかわからないと言われる方が多いのも事実です。
 そこで、街歩きスケッチの一歩として、おすすめしたいのは、「ご近所の日常を描く」です。

ご近所の日常を描く

 特別難しいことではありません。おそらく皆さんは時折り気分転換にご近所を散歩することがあるでしょう。

 その時にペンと手帳を持って出かけるのです。例えばあなたが住宅街に住んでいるとします。おそらく目にする景観は、ごくごく普通の住宅街で、その景観を普段はまじまじと見ることはおそらくないでしょう。

 けれど、一旦見慣れた街角や家を描きだすと、普段見過ごしていたものがいろいろ見えてきます。そして描いてみると、ごくありふれた住宅や道路を描いた絵が結構魅力的に映ります。邪魔で見苦しいと思っていた電信柱さえ、描いてみると魅力的に見えるから不思議です。

 また近くの小さな公園や緑道に出かけたならば、気になる樹木、花木や草花を描くのもよいでしょう。樹木・花木や草花を大きく描いて、背後の景色を小さな面積で描き足すだけでスケッチの出来上がりです。

 実際の作品例を下に示します。

ご近所の日常を描く:作品例

 このように「ご近所の日常を描く」ことに慣れたら、もう少し足を延ばして街中の商店街に行ってみましょう。そこでの「街や都会の店先スケッチ」も「街歩きスケッチ」に親しむための有力な方法になります。

街や都会の店先スケッチ

 最初は行き慣れた近くの商店街から始めてみてください。

 すると近くの商店街の、様々な種類の野菜や果物が並んだ八百屋さん、果物屋さんの店先、あるいは花屋さんやお菓子屋さんのカラフルな店先に眼に入るでしょう。好みの店先を描いて見てください。余裕があればお客さんを描くと、さらに絵が引き立ちます。

 近くの商店街に慣れたら大きな町の中心街に出かけてみましょう。東京郊外にお住まいならば都心の原宿・竹下通りのクレープ屋さんや雑貨屋・古着屋さんの店先など、有名なショッピングスポットで描くのも街歩きスケッチの楽しみの一つです。

 下に、上に述べた街歩きスケッチの作品例を示します。

街や都会の店先スケッチ:作品例

 このように「ご近所の日常を描く」、「街や都会の店先スケッチ」に慣れたあとさらに踏み込んで、特定の「テーマを持って描く」と、街歩きスケッチがますます楽しくなってきます。

 「テーマ」については、人が何に感心や興味をもっているかにより決まるので、それぞれの人が自分で決めるしかありません。

 そこで、ここでは私のテーマについて具体例を紹介しますので、「テーマを持って描く」とはどういうものかを感じてください。

テーマを持って描く

 私の場合は大きく三つの興味から街歩きスケッチをしています。

 ■一つは、日本の都市のダイナミックな変化を写し取ることです。東京や大阪のような巨大都市中心部では、開発が繰り返され、毎年のように大型商業施設や新しい名所が出現しています。

 そのような場所をスケッチする場合、未来に向かう都市のエネルギーを現場で感じながら描いています。 その場合、なぜか時代の流れと自分とが一体感を感じることができるます。「自分は今未来へ変わりつつある現在を生きている」と。

 実は、この記事を書く前は、自分自身も漠然としていたのですが、今考えるとスケッチ中に感じる「未来へ向かうエネルギー」の中身は、次のようなものではないかと思います。

  • 少々大げさな言い方になりますが、現代社会において、都市を再開発する場合、プロジェクトとして、その中に入る企業、人々、関係者がすべてwinwinの関係になること、ビジネス的に成り立つことが優先されると思います。同時に、現在は必ずエコや環境問題への配慮そして美しい景観が求められます。おそらく後者は、ビジネス合理性とは反することでしょう。ですから、描いている場所は、ビジネス合理性とエコ、環境問題、景観の美の共存という相反する課題をクリアするために、関係者の想い、コンセプトの設定、全体プロデュースに基づいて多くの人々がエネルギーを注いだ結果なのです。

  • 全体プロデュース力に基づき、具体的な都市の設計に落とし込まなければなりません。都市設計のデザイン、すなわち2番目のエネルギーは都市設計者の想い、独創性です。

  • さらに都市の中に建つ個々の建物の設計が必要です。3番目のエネルギーは、建築設計家のデザイン力とその独創的デザインです。

  • 最後に、少し特殊になりますが、以上の都市景観、土木建築物を成立させるためには、最新の科学技術を駆使しなければなりません。すなわち、先端テクノロジーが4番目のエネルギーです。それらは大半目に見えないものですが、スケッチする方が科学技術に関係している、あるいは関心のある方であれば、そういうところにも思いを馳せるかもしれません。

 実際には、このような場所をスケッチする私は単なる傍観者にすぎません。けれど、スケッチという出会いの中で、その都市景観、建物の独創性などを感じつつ描くと、無関係な私でも、上に述べたことに思いを馳せ、一体感を感じてしまうのです。

 ■二つ目の興味は、巨大都市の超モダーンな部分と伝統的な部分が共存する都市景観の面白さです。

 例えば東京の場合、江戸から東京へ、明治の近代化、関東大震災、東京大空襲、高度成長期の開発、オリンピック後から低成長時代へ、平成21年のオリンピック開発と次々景観が大変貌を遂げてきました。

 ところが、東京の都心部を歩いていると、超モダンなビルの傍らに小さな祠があったり、中には神社がそのままビルの内部にあったり、お寺の建物が近代的なビルになっていることもあります。

 あるいは、嘗ての大名屋敷の庭園が、形を変えて公園になっていて、伝統的な日本庭園なのに、周りには超高層ビルが立ち並ぶなど、昔ながらの景観に現代の景観が共存する場所が多くあります。

 このような場所は、何か時空間が詰まったような気持ちになって、はっとします。

 ですから今の都市景観を描いているのだと分かっていても、自然にその場所の歴史が念頭に浮かび、連綿と続く、当時生きていた人々の歴史が思いおこされるのです。

 ■最後の三つ目ですが、街歩きスケッチの中のサブジャンルに近代建築やレトロ建築を描く分野があります。

 戦前の建物がほとんど消えてしまった現在、残っている建物も老朽化でなくなっていくのはしかたがないと思っています。

 けれど、私が若い時に身の回りに普通にあった昭和30年代、40年代のいわゆる昭和レトロと言われる建築も急速に亡くなりつつあります。

 古くからある商店街を歩きながら、昔ながらの建物が当時と変わらず現役で活躍しているのを見ると、ついスケッチしたくなります。一方、同じレトロ建築でも思い切ってリノベーションして現代に適した姿に生まれ変わったお店も時代の流れを感じてスケッチしたくなるのです。

 以上の三つの興味から描いた作品例を以下に示します。

テーマを持って描く:作品例(1)
テーマを持って描く:作品例(2)

 さて、上で述べた三つの興味の内、二番目、三番目の興味は、中高年の男性がノスタルジーを感じて描く人気のテーマといえるでしょう。

 実は、街歩きスケッチの中には、女性の方に人気の「カフェスケッチ」や「花スケッチ」というサブジャンルがあります。次の記事で紹介いたします。

次の記事に続きます

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