三崎と休日

『トロと休日』というゲームがある。

言葉を覚えて人間になることを夢見る白猫のトロと共に、三浦半島に位置する三崎港の周辺を気ままに散策し旅の思い出を作っていくというストーリーだ。
背景は実写映像であり、観光スポットや飲食店、なんの変哲もない路地裏など、実際に三崎を歩いている気分に浸れる。

自分はこのゲームがとても好きで。『どこでもいっしょ』シリーズの中でも一番だと思っている。

20年以上前に発売された作品だが、三崎の町には今でもゲーム内に登場した場所が残っている。
今回はどこでもいっしょのオタクがそのうちの幾つかを周りつつ、港町をゆっくりと歩いていくやつです。


まずは京急線で品川駅から三崎口を目指す。
早朝の品川駅は通勤利用のサラリーマン達が忙しなく行き交っている。
それを後目に小旅行へ向かうのは正直メチャクチャ気分が良い。

今日は休日なのでね、堂々と歩かせていただきます。

今回はみさきまぐろきっぷを購入した。
購入駅~三崎口間の電車+京急バス乗車券・加盟店から選んで三崎のマグロ料理を堪能できるまぐろまんぷく券・アクティビティやお土産などから選んで利用できる三浦・三崎おもひで券がセットになった非常にお得な切符だ。

この京急乗車券は途中下車が可能であり(逆戻り不可)、バスの乗車券はフリー区間内ならば何度でも乗り降り自由。
加盟飲食店も人気で美味しい店が多く、初めて三崎を訪れる人や、車は無いけど三浦半島のあちこちを回りたいなんて人に特にオススメ。


みさきまぐろきっぷはデジタルきっぷを利用すれば、磁気乗車券よりも最大で500円安くなる。
おまけに今回はちょうどキャンペーン期間だったようで、平日30%オフ(土休日は20%オフ)の2,630円で買えた。差額にして1,620円。
普通に一食分くらい浮いてしまった。大丈夫ですかこれ。
品川~三崎港間が往復2,180円で、そこにメシと遊興がセットになるわけで、どう見積もっても得しかしない。大丈夫ですかこれ。
寒さでおかしくなっちゃったのかな、京急の人。

本キャンペーンはすでに第4弾の期間であり、1月末まで利用できる。


車窓からの景色がビル群から戸建て、畑へと移り変わってきた頃、終点である三崎口駅に到着。
ここから京急バスに乗り換え、三崎港を目指す。

当初はきっぷを買わずに駅から歩いて三崎港へ向かおうと画策していたけど、まあ、きっぷ安かったからな。仕方ないな。


バスを降りた瞬間から、開けた視界いっぱいに煌めく海が飛び込んでくる。
こういうちょっとした非日常感が好きだ。旅行というには近く、散歩というには少し遠い。

普段なら三崎へは昼頃から訪れるのだが、今回は朝からの参戦となった。
それというのも、三崎では毎年1月15日にチャッキラコという伝統行事がある。
大漁や商売繁盛を祈願して、踊りを奉納するのだ。風流踊としてユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
今回の目的のひとつに、このチャッキラコを見てみたいというものがあった。


というわけで、スタート地点の本宮へ移動する。
本宮にはすでにカメラを構え、チャッキラコを待つ人達がちらほらいた。


開始時間が迫り、やがて、赤や黄色が鮮やかな着物に身を包んだ女の子たちがぞろぞろとやって来る。

厳粛な雰囲気はなく、大人が整列を呼び掛ける声だったり、待機時間で雑談に花を咲かせる子がいたり、保護者がスマホ片手にわが子にアピールしていたりと、いい意味でアットホームだ。地域に根差した行事といった様子。
ただ、立地が住宅街のド真ん中だからだろうか。あの、なんだかめちゃくちゃ醤油味の煮物の甘じょっぱい匂いがする。緊張感がないのはこの匂いのせいかもしれない。
誰かの親族らしいおばあさんが最前列に入れず、業を煮やして持っていた杖を伸ばして女の子を呼んでいた。

このあたりから関係者の方や観客が続々と増え、撮影が困難になってしまった。

時間になり、現れた宮司さんが新年の挨拶の後にご祈祷としていただく。
会長の御挨拶いわく、通常開催は4年ぶりらしい。天候も先程までは強い風が吹いていたが、今は穏やかな晴天だ。

踊りが始まった。

母親や祖母のみなさまが高らかに歌い、女の子たちが合いの手を入れながら扇子や綾竹を手に舞う。

ふと視線を上げると、民家の2階の窓から、男の子が本宮を見つめていた。踊り手だけでなく、チャッキラコの日は地域全体で祝日的な扱いだったりするのだろうか。
自宅の目の前で執り行われているからか、はたまた女の子たちの中に気になるコがいたりするんだろうか。そうだったらいいなぁ。

本宮での踊りが終わり、ここから海南神社へと移動し、次は本殿前で踊る。そこから花暮・仲崎の竜神様を巡り、午後からは地域の商店や家々を巡るのだ。

相州三浦総鎮守 海南神社

〒238-0243 神奈川県三浦市三崎4-12-11

この神社では、チャッキラコ仕様の御朱印もいただける。
おそらく今日でなくとももらえるが、チャッキラコの日付の入った御朱印をいただけるのは今日だけだ。

せっかくの機会なので御朱印帳本体もゲット。計画性なく後から購入したので御朱印は紙だ。

買いに戻ったタイミングで境内で何かを燃やしていたようで、気付けば視界がかなり白んでいる。風向きのせいかすっごい煙い。
追われるように神社を後にした。想像だが、祓われる悪霊ってこういう気持ちだ。

このままチャッキラコ鑑賞回にするのも悪くないけれど、今日はみさきまぐろきっぷがある。三浦・三崎おもひで券を使いたい施設へは、三崎港からいったん離れなければならない。

時計を見れば予定よりもやや早めの時間だったので、混雑を避けようと先に昼食を済ませることにした。


紀の代

〒238-0243 神奈川県三浦市三崎1-9-12
11:00~14:30・17:00~19:00
定休日:火・月に一度不定休


加盟店の中からチョイス。良質なマグロを寿司や丼で楽しめるお店。
『トロと休日』にも登場している。

まぐろ4種のとろとろ丼(まぐろまんぷく券使用・通常1,980円)

漬け・ビントロ・ネギトロ・ホホ肉のユッケを一度に味わえる贅沢な一品。つみれ汁と煮凝りの小鉢もセットだ。

赤とピンクのコントラストが芸術的。丼のどこから箸をつけても当然おいしいのだが、中でも代々受け継がれている自家製のタレに漬けたマグロが絶品だった。ダシのような味わいのある醤油味。次いでユッケの辛みも食欲を増進させる。名前のとおり、舌の上でとろとろと蕩けていくマグロたちに食べる手が止まらない。
あっという間に完食してしまった。

ちなみに、『トロと休日』に登場していてまぐろまんぷく券が利用できる店は、紀の代・くろば亭・三崎館本店(ゲーム内では旅館部分の利用)の三軒。
さくらやはまぐろまんぷく券の対象外だ。かなしい。

いい具合に腹が膨れたところで油壷温泉を目指したいのだが、平日は三崎港からの直通バスがない。
一度三崎口まで引き返すか、途中でバスを乗り換えるか、はたまた歩くか。

気候や体力面では徒歩もやぶさかではないが、あいにく今日履いてきた靴の裏には中敷きを貫通しかねないレベルでどでかい穴が空いている。長距離歩行は望ましくない。
何より現在地が海抜ほぼ0なので、時間的には大したことない道に見えて起伏がそこそこあるはず。

幸い、わりと待機時間が少ない乗り換えが見つかったのでバスで向かうことにした。そして時間の調整のため、一度来てみたかったカフェに立ち寄る。

CABA COFFEE BEANS

〒238-0243 神奈川県三浦市三崎3-2-27
11:00~18:00
定休日:水・木

1Fはカウンター席、2Fにはテーブル席が用意されている。

バナナスムージー 650円

バナナの甘みをスムージーにすることでさっぱりとした飲み味に仕上げてある。ときおり氷の細かくシャリシャリとした食感が喉を通り、とてもおいしい。
このビスケットを付けてくれるタイプのカフェ、好きですね。


店を後にし、定刻通りバスに乗って、乗り換えのために天神町で一度降りる。

程なくしてやって来た油壷温泉行きのバスは、終点まで乗客は自分だけだった。こういう場面はなんとなく申し訳なくなってしまう。

油壷温泉バス停から、3分ほど歩く。

バス同様に道にも人気がない。と思いきや、少し前をカップルが歩いていた。
あわよくば貸し切り風呂を期待していただけにやや残念だ。うっかり引き返したりしないか。なんだったらこの先のキャンプ場で飛び込みキャンプとかしてほしい。

などと邪念を送っていたら、唐突に豆腐屋のラッパが聞こえてきた。

どこから響いているのか分からないが、なぜか次第に音が大きくなってくる。こちらに近づいているのだろうか。
気付けばカップルの姿もなく、無人の道路に響き渡る間延びしたラッパはいくら日が高いとはいえなんとなく薄ら寒い。自然と足が速くなる。

多分、追い付かれると次の豆腐屋に任命され、自分の代わりを見つけ解放されるために彷徨い続ける怪異にされるパターンのやつだ。


ホテル京急油壷 観潮荘

〒238-0225 神奈川県三浦市三崎町小網代1152
11:00~22:00(日帰り入浴営業時間・最終受付21:30)
定休日:なし

なんとか豆腐屋に追いつかれることなく到着した。

三浦・三崎おもひで券の加盟店である観潮荘では、日帰り入浴が楽しめる。
レンタルのフェイスタオルが1枚ついてくるが、追加で100円を出してバスタオルも借りた。
浴室にタオルを持ち込んではビチャビチャにしがちなので、どうせなら気にせず入りたかったからだ。通常の日帰り利用の場合は大人が1,200円、小学生は600円。

脱衣所には平日の昼間にしては人がいた。さっきのカップル抜いてもぜんぜん貸し切りじゃなかったな。

内湯がひとつと外湯がふたつあり、ただこの日は外湯の片方である樽風呂が故障のため利用禁止になっていた。

(引用:https://www.misakikanko.co.jp/aburatsubo/contents/contents02.html)

露天風呂は海に面しており、座湯のように段差と枕があるので景色を眺めながらゆったりと温泉を満喫できる。広々とした眺望はまさに絶景だ。

きりきず、抹消循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症、筋肉もしくは関節の慢性的な痛みまたはこわばり(関節リウマチ、変形関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、ねん挫等の慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまる等)軽症高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、軽い喘息または肺気腫、痔の痛み、自律神経不安症、ストレスによる諸症状(睡眠障害等)、病後回復期、疲労回復、健康増進

公式HPいわく、効能はこんな感じ。なんでも治るな。
実際、湯治目的の利用者もいるらしい。塩味を含んだお湯は、暖かな海のようだった。

ヤシの葉が風に擦れる音に耳を傾け、うんと足を伸ばしながら、ふと、以前訪れた城ヶ島京急ホテルのことを思い出した。

三浦・三崎おもひで券で利用できる施設のひとつであり、観潮荘のように日帰り入浴を楽しむことができた。
初めて三崎を訪れた際にみさきまぐろきっぷを使った場所であり、今日のように体を温めたことは、いまでも鮮明に覚えている。
そのホテルは緊急事態宣言の後に営業再開することなく閉館してしまった。ここ観潮荘も、残念ながら今年の3月15日を以て営業を終了してしまう。
その前にどうにか訪ねたいと思っていて、きっぷの割引期間がチャッキラコと重なっていたのは僥倖だった。

そのうち外湯から人がいなくなったので、ここぞとばかりに小声で歌ったりなんてした。理想的な休日だ。

温泉から上がり、着替えを済ませ外へ出る。
冬空の下でも体の芯がしっかりと熱を帯びている。この後もまだまだ滞在する予定なのでとてもありがたい。

さて、ここから再び三崎港に戻る必要があるのだが、どうにもいいタイミングのバスが無さそうだ。行きはともかく帰りは傾斜が比較的緩やかなようだし、オンボロ靴だがせっかくなので歩いて戻ろうと思う。
決してつい乗ってしまった体重計の数字に肝を冷やしたからではない。決して。濡れた髪って3キロくらいあることにできませんか?


好きなスピードで進み、また興味を引かれた道にふらっと立ち寄れるのは徒歩の醍醐味だと思う。
自分は寄り道が好きだ。傾斜がやや気になるが、このくらいならすぐ登れるしいいか。曲がった先はきっとすぐ砂浜だろう。


話が違う。

流石にこの先はすぐ砂浜だろう。ここで引き返せば登り坂の負担も少ない。ここから30分以上歩くんだぞ。面倒くささとテンションとかせめぎ合っている。

テンションが勝ちました。

右手には油壺京急マリーナを望み、湾のような形状になっているからか、港の方とはまた海のコントラストが少し異なって見えた。深みと透明感のある青色に心を奪われる。靴底の穴から入ってくる砂や海水も気にならないくらい。
ただ、この後さっきの坂を上らなきゃならないんだよな。怠惰には簡単に心が揺らぐ。

冬の海をしっかり堪能し、ひいこら言いながら元の道に戻る。再び一路港を目指していく。

途中で下校中の小学生たちとすれ違った。あれ、今日ってチャッキラコだから休みなんじゃないのか。学区が違うとかかな。

道のりはとにかく日差しが眩しく、少ないとはいえ度々挟まる傾斜に眉間をきつく寄せていたところ、向こうから歩いてきたおばあさんに短く叫ばれた。
違うんです、睨んでるわけじゃなくて、普段引き篭ってるもんだから単純にに光に弱いだけなんです、と心の中で平謝りしておく。

40分ほどかけて三崎港へ戻ってきた。せっかくなので土産のひとつでも買いたい。


ミサキドーナツ 三崎本店

〒238-0243 神奈川県三浦市三崎3-3-4
11:00~17:00 10:00~18:00(土・日)
定休日:なし

外観の撮影を完全に忘れていました。陳謝。

三浦半島や横浜・鎌倉に店を構える人気のドーナツ店だ。休日には店の外まで行列が伸びることも珍しくない。
種類が豊富なのでしっかり悩み抜き、今回はいちじくハニークリームチーズとエクレアを購入。

店から出ると、少し先のハワイ料理の店からチャッキラコの女の子たちがぞろぞろと出てきた。
この時間は商店や家をを順々に周っていくとあったが、しっかりハワイアンな店舗ももれなく対象ということで少々面食らってしまった。チャッキラコ、案外グローバルだ。


うらりマルシェ

〒238-0243 神奈川県三浦市三崎5-3-1
9:00~17:00 7:00~17:00(日)
定休日:なし

次に訪れたのは三崎港バス停から程近い、うらりマルシェだ。
1Fは三崎のマグロや加工食品など海産物を取り扱う店を主としたさかな館、2Fでは三浦半島で採れた野菜などを販売するやさい館となっている。


さらに、三崎~城ヶ島間の渡船「さんしろ」・「白秋」、船の中から海中を展望できる観光船「にじいろさかな号」が運航している。このにじいろさかな号も、三浦・三崎おもひで券の対象だ。

せっかくなので去年の誕生日にギロをプレゼントしてくれた友人へ、ここでお返しのプレゼントを買おうと思う。ちなみに友人の誕生日は11月だった。

リクエストされていたよこすか海軍カレーを予算いっぱい購入しようと思っていたが、店の片隅でたまたま目に入ったこのカニの微笑みに心をがっちり掴まれた。
朗らかな笑顔で両腕を拘束されているカニを買う機会、おそらくこれが最後だろう。
魚や野菜だけでなく、この手のちょっとしたアート作品も取り扱っている店は見ていて楽しい。

さて、ここからさらに時間を潰す必要があるので、再び茶をしばきにいこうと思う。

喫茶トエム

〒238-0243 神奈川県三浦市三崎4-9-8
11:00~18:00 9:00~18:00(日)
定休日:木・金

悩んだ末、トエムに向かう。


ひとりにも関わらずコタツ席に案内していただけた。冷えと疲労が残る足を温めさせてもらう。


クレームブリュレ 480円          アイスティー 500円

クレームブリュレは注文が入ってから炙ってくれているのか、キャラメリゼのパリパリとした口当たりが楽しい。トロトロときめ細かくなめらかなカスタードの優しい甘みがよく沁みる。
口内の余韻をアイスティーで一気に流す。美味。


中華料理店 ポパイ

〒238-0243 神奈川県三浦市三崎1-17-1
17:30~25:30 12:00~25:30(土) 12:00~24:00(日)
定休日:水

日もすっかり暮れた頃、黄色い看板に明かりが灯り、暖簾が掛かる。時間を潰していたのはこのためである。
いわゆる町中華であり、年季の入った内装やシンプルな醤油味のラーメンはどこかノスタルジックだ。

もちろん、この店もゲーム内で訪問できる。
自称高性能ロボットであるR・スズキが固定シンボルで店員を勤めている。ご褒美。
自分はこいつをべらぼうに好いているので、この店のこともべらぼうに好いている。

さらにお店のあんちゃんがメチャクチャ気さくでお優しい人で、初来店した際に開店時間前から店先をうろついていた自分に声をかけていただいたり、「スズキくんが作ったラーメンだからね」と提供していただいたり等、本当にいろいろと良くしていただいている。いつもありがとうございます……へへ……。

タンメン 800円

しっかりめの塩味が細麺に絡み、箸が進む。やや柔らかめに炒められた野菜がこんもりと盛られているのが嬉しい。
けっこうボリューミーなのだが、するすると平らげてしまった。町中華の見本というか、素朴でありながら抑えるべきポイントはしっかりと外さない、こうした味が恋しくなる夜ってありますよね。
ゲーム内のタンメンとはビジュアルがやや異なり、多分あれは五目そばを注文した方が近い見た目のものを食べられる。
自分はゆで卵があまり得意ではなく、代わりに食べてもらえる友人を連れていったタイミングで注文した際に気が付いた。
ついでに現時点でお店のメニューにみそラーメンは存在しない。昔はあったんだろうか。

あくまで客観的な話という前置きで、三崎に来たら絶対に食べるべき! という店ではないし、マグロが有名な観光地で町中華に連行するのもなんだか気が引けてしまう。
なのでもっぱらひとりでフラッと立ち寄るか、たまに先述のギロの友人を引き摺って暖簾をくぐる。

食事をしながら、今日はチャッキラコを見に来たこと、正月に城ヶ島の先から初日の出を見るツアーに参加したことなどを話した。あんちゃんにもお母さんにも耳を傾けていただき、とても楽しい時間を過ごすことができた。いつもありがとうございます。

三崎港まで戻らずに、近くの日の出からバスに乗り込んだ。
帰りしな、きっぷを使って横須賀中央か横浜あたりで途中下車しようかと思っていたが、そこそこいい時間になってしまったので、大人しく帰路に着く。

帰り道ではたいてい、三崎に居を構えていれば帰らずに済むのに、と思いながら流れていく車窓をぼんやりと見送り、そのうちに電車の揺れと空調とに意識がゆっくりと溶けていく。目覚める頃には電車は既に川崎あたりを走っており、心を海に残したまま、体だけはすっかり日常に戻されている。

例えば思い切って生活の拠点を三崎に移すことも不可能ではないだろう。移住プランなり物件なり仕事なり、調べた回数は既に片手では足りない。
ただ、そうして三崎で暮らし始めた自分は、もうこの帰路を、郷愁を感じなくなってしまうのだろう。それはなんだか贅沢で、同時に埋められない物足りなさがある。

自分にとっての三崎は、日常を夢想するための非日常であってほしいのかもしれない。


のんびりした休日とマグロとラーメンが恋しくなった頃に、ちょっとした非日常にまた会いに行こうと思います。

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