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歌舞伎初心者アナウンサーのひとりごと。~歌舞伎に理屈なんていらない!2021年6月歌舞伎座・第2部『桜姫東文章下の巻』~

6月もきょうで終わり。あっという間に過ぎていく、時の流れの早さを感じています。
”あっという間”といいますと、今月拝見した六月大歌舞伎第2部『桜姫東文章下の巻』。そのふしぎな世界観に引き込まれ、あっという間に幕引きとなっていました。
今月は、その桜姫東文章下の巻の感想を備忘録として残します。​


歌舞伎に理屈はいらない!

今回の『桜姫東文章下の巻』は、4月に上演された『桜姫東文章上の巻』の続き。本来は最初から最後まで通して上演されますが、新型コロナ感染拡大防止のために上下にわけての公演となりました。
上の巻につづき、清玄と釣鐘権助の二役を片岡仁左衛門さんが、桜姫は坂東玉三郎さんと、今作では36年ぶりとなる、人間国宝最強コンビで演じられました。

作品の内容としては、四代目鶴屋南北らしい、殺しや性的な表現が散りばめられている退廃的なものですが、歌舞伎ならではの美や技術がつまった大作です。

今回の下の巻も、キテレツ。
始まってそうそう、清玄が、青トカゲの毒で殺されたかと思えば、まさかまさかの雷で生き返ったり、(笑)
かと思えば、今度は、愛する桜姫によって本当に刺殺したり、
(状況的に正当防衛ですかね笑)
僧侶だったのに、亡霊になってまで桜姫のストーカーになったり・・・・。
文字だけ見ていたらツッコミどころ満載なのですが、そんな疑問を持たせぬまま、むしろ、その世界観に魅入ってしまう歌舞伎の力を感じました。
歌舞伎に理屈や細かいことは関係ないのです!



桜姫を通して、ひとりの人間としての成長を見る。

今作品が、理屈がなくても魅入ってしまう理由のひとつに、ひとりの人間としての桜姫の成長が描かれているから、と、個人的には思っています。

何も知らない世間知らずの純粋無垢なお姫様・桜姫が、イケメンだけど悪い男性・釣鐘権助に恋をしたものの、あれよあれよと女郎屋に売り飛ばされ、最下級の女郎になる転落を経験。
挙句の果てには、その恋する釣鐘権助が、自分の父と弟を殺した上にお家の宝まで盗んだ張本人と知り、桜姫自ら、その手でかたき討ち。
さらには、お家の敵となる釣鐘権助の血を引くものは生かせてはおけぬと、実の我が子も手にかけるという壮絶な人生です。

前半の桜姫は、本当に無知で、ただただ周りに流されて生きている。というイメージでしたが、世間を知り酸いも甘いも知った桜姫は、芯のとおった強く美しい女性へと成長していました。

私自身が女性だからなのか、歌舞伎を見るときはいつも、女形さんのお役に同情したり共感してしまいます。
今作品ですと桜姫の生き方に共感や納得することはできませんが、ひとりの人間として、キャラクターとして魅力があるし、強烈に引き込まれました

かたき討ちも果たし、無事にお家の宝も取り戻したことで、再び、”姫”へと返り咲いた桜姫はとても美しく、凛とした姿がまぶしく感じるほどでした。

桜姫の波乱万丈な人生を描くに細かいことはいらないし、何よりも、理屈や矛盾抜きで楽しめる歌舞伎の魅力を改めて感じることができました

これからも様々な作品に触れて、歌舞伎の魅力を見つけていきたいなと思います。


さいごに。
新型コロナウイルスがまだまだ猛威を振るう中、六月大歌舞伎も無事に千穐楽まで公演されたことを、いち歌舞伎ファンとして嬉しく思います。
36年ぶりの豪華共演をこの目で見られたことは、一生の宝です。
いまだからこそ見られる舞台を、一人でも多くの方に見てもらい、もっともっと歌舞伎の魅力が、国境関係なく多くの方に伝わればいいなと思います。



渡邉唯でした。

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