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2020年12月 肘折温泉 湯治旅1

(先日、旅に出て参りました。第三波の真っ只中なので、何度か旅の自粛も考えましたが、都が外出自粛を要請した時点で結構な額のキャンセル料がかかり、流石にそこまでして旅を取りやめたくはありませんでした。
 とはいえ、行政に責任転嫁をすることなく、思いつく限りの感染症対策を施した上で旅を楽しんで参りました)

 初日
 36.3度。平熱。少し眠いが体調も良好。野菜ジュースを流し込み、旅へと出かける。まずは大宮駅へと北上し、駅弁と温かなお茶を買い込む。やや悩んだが「栗おこわ弁当」に決める。秋っぽいの食べたいし。

 家で食べていくという選択肢もあったが、新幹線内は7分前後で完全に空気が入れ替わる空調システムとのことなので、安心して窓側の座席に着き流れていく街並みを目に映しながら、朝食を楽しむ(なお、事前にネットで隣が空席であることを確認してました。というか車内はまばらでした)。おこわご飯、冷めてたためか箸で摘まんだらご飯全体がカーペットみたいに持ち上がって驚きました。まぁでも美味し。

 宇都宮、郡山……ときおり広がるくすんだ色合いの田畑に秋の終わりを覚えつつ、北へ。福島駅にて列車を前後に切り離し、自分の乗車した前方車両は一路山形へ。カーブが多くなったためか、速度もわずかに落ち、ことんことんという元から控え目な走行音も心持ち優しく耳に響く。見るからに空の雲は濃く厚くなり、山々の木々は禿げ、ところどころに雪が点じられていて、渓谷を行く川の流れはどこか寒々としていて、寂しい旅情にひたひたと浸っていきます。でも、きっとそれを求めて旅に出ました。人里離れた温泉宿で何をするでもなく、とにかくとにかく休みたいと、そう思ったのが、この旅のきっかけでした。

 と、思っていたら、次第に雲が散じていき、晴れてきました。柔らかな陽射しが大地を照らしています。天気次第では行きたいと思っていた場所もあったので、気持ちも高揚してきます。そうして降りた終着駅は新庄。いやっほうと叫びだしたい旅情が全身に満ちています。雪国めいた寂しい旅情なんて見当たりません。久々の旅行だ! 東北だ! 全然知らない街だ! とはいえ旅の目的地はまだ先です。バスは30分後。
 まずは新庄駅に隣接した「ゆめりあ」という複合施設内の「もがみ物産館」に立ち寄り(自動検温器の前に立ち、36.3℃)、移動先での軽食として焼きドーナツを二つ購入(同じJR東日本エリアだから、suicaで決済)。というか高揚感とともに、遠くの地に来たんだというこのご時世特有の緊張感も顔を覗かせます(基本、何かに触れるときはリュックのボトルホルダーに突っ込んだ除菌ジェルで消毒してました)。

 そんでもって遠くに雪化粧をした峰々をながめつつ、川沿いをてくてくと10分ほど歩いて、やって来ました「金沢」バス停。兼六園。ここから出発するとバスの運賃が安くなるので、時間もあったし足で稼ぎました。乗り込んだバスは目的地でもある大蔵村が運営するこぢんまりとした村営バス。先客は二名。最後方の端に着き、ほんの気持ち窓を開けて、しばし小型バスに揺られます。車内に電光掲示板なんてなく、車掌さんがバス停のたびにアナウンス。街を離れ、田畑を抜けて、山あいの道を行きます。

 そうして誰が降りるのか、特に何もないバス停「日陰」で降車。次のバスは二時間半後。なだらかな坂道の途中。木々の様相はちょっと寂しい。道の向こう、谷を挟んで稜線なんかが見える。なぜこんな場所でわざわざ降りたか。ここから4km──ちょっと行ってみたい棚田がありました。ちょっと試みたいことがありました。というわけで、「日陰」バス停から、四ヶ村(しかむら)の棚田をぐるりと巡って、2個先のバス停までひたすら歩いてきました。約8km。その間、ずっと──動画を撮影しておりました。

(声もなく、字幕もなく、姿もなく、音楽もなく。ただ歩いたままの景色を、動画に収めました。ジンバル搭載──手振れをとことん抑えたカメラなので、まぁ見づらくはないと思います。何度かカットは入れてますが、本気で一時間半、初冬の棚田周辺をただ歩いているだけの動画です。ほとんど自分のために撮影したようなもんです。それでも見てみようと思う方はご覧下さい。一時間半ひたすら歩いてます。作業用には丁度いいかもしれません)

 初冬の棚田。春夏秋のほうがそりゃ映えるかもしれませんが、少なくとも行って良かったです。てくてくと歩きまくって、坂を上りきって振り返り、棚田の全景を一望したときには、動画を意識して声には出しませんでしたが、「すっげーなぁ……」と胸の内で嘆じておりました。

 というわけで、棚田を歩きまくって次のバスが来る十分ほど前にバス停へとやって来ました(割と適当だったけれど、何て完璧なプランなのだろう。しかし雨に降られました)。時刻は三時前。身体も冷えたし、今日はもう宿にチェックインして、しこたま温泉に浸かるだけです。食うだけです。寝るだけです。それを二泊やります。えぇ、長逗留はしませんが、湯治です。観光なんてしません。ただのんびりするばかりです。ほんと、休みたいのです。
(だからまぁ、多分今回の旅日記はいつもより短くなるはずです)

 そうしてたどり着きたるは、肘折温泉郷。ひじおり、です。
 いや、もう、人が多かったり、観光客慣れしている温泉地は嫌なので、どこか鄙びた温泉地はないかなー、と思って見つけ出したのが肘折温泉でした。山形県の山間に位置する出で湯。古くからの湯治場で、開湯1200年以上だとか。訪ねた頃はまだ冬の初めで雪は積もっちゃいませんでしたが、日本有数の豪雪地帯です。入り組んだレトロな街並みに、小規模な温泉旅館が建ち並びます。湯治場……たまりません。

 大友屋旅館さんにチェックイン。大変な時期に受け入れて下さってありがとうございますとご挨拶。肘折に宿、ホテルは様々あれど、なぜこの旅館にしたかと言えば、貸切温泉が無料であることが最大の理由でした。というわけで、お茶菓子を食らい、早速浴衣に着替えて目的である貸切の檜風呂に浸かります。呆けます。くたばります。浴室内も木々で設えられており、障子っぽい窓もあり、目にも穏やかです。お湯はやや緑がかっています。そのうち光すら煩わしく思え、浴室内の明かりを消して薄暗い中、ただぼんやり湯船の中で身体を休めます。

 そうしてやがて──激しくのぼせました。逆上せました。脱衣所で気持ちが悪くなり、指先までじんじんと喚きだしてきたので、冷水を首の裏にぶっかけ、扇風機でひたすら首筋を冷やし、何やってんだかという苦笑すら浮かべられないほど、椅子に座ったままぐったりとしていました。休みたい欲求が過度であることと、無料の貸切温泉に張り切ったという結果がこれです。ほんと、何やってんだか。というかここまで逆上せたのは初めてでした。

 ほどなくして回復し、部屋でのんびりしていると、部屋の電話が鳴ります。夕食の準備ができました、とのこと。大友屋旅館さんに決めたもう一つの理由が、この食事会場でした。個室です。小さな換気扇も常に稼働しています。あとは飯を食らうばかりです。肉に魚に天麩羅に馬刺しまで。利き酒セットとかも頼んじゃいます。どれもこれも美味しかったです。〆は抹茶のシフォンケーキに、山形といえばのラフランスで(初めて食べたかも。弾力のある梨という感じで美味かった)。ごちそうさまでした。

 部屋に戻ると、布団が用意されていたので、ぬくぬくしながら持って来たタブレットでネットやらゲームやらをして過ごします。ここでも呆けます。もう一度、風呂に入ろうかとも思ったけれど、逆上せたのが応えたのか何だか疲れてしまったので、そのまま眠りへと落ちました。
 とにかくのんびりさせるのが、この旅の目的なのです。

続→

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