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2021年10月 信州旅2

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 多分前日の雨でぬかるんでいた遊歩道を抜け、靴先を濡らしてやってきたるは、山田温泉郷。十数軒の温泉旅館が集まった山の中の温泉地です。ちょうど雨もぽつぽつと降ってきました。よくぞ歩いているあいだ、天気がもってくれた。雨予報だったのに、僥倖でしかありません。

 そうして15時前、早々に予約していた宿にチェックイン。平野屋さん。二泊お世話になります。寄り道も含め、駅から多分14kmは歩いてきました(30kmくらいまでなら何とかいけます)。駅からバスも通ってはいるけれど、道中にあるすべてのもの(観光名所やお店だけでなく)があっという間に過ぎてしまうのは、味気ないです。勿体ないです。だから、できることなら、やっぱり歩きたい。旅先の移動手段は、多くのものを見落とさないよう、聞き漏らさないよう、できるだけできるだけスローなほうがいい。極論すれば、家からここまで歩いてきたっていいくらいです。もちろん荷物や、時間の関係からそんなことはできないけれど、或る場所に行って、景色を見て、美味しいご飯を食べて、温泉に浸かって、というだけが旅ではないのです。

 と、やや語りましたが、女将さんに「お車で?」と問われ、「駅から歩いてきました」とやや自慢げに豪語しました。そんな人今まであまりいなかったんだろうなぁ、という反応でした。
 とはいえやっぱり、少しはくたびれています。和室の大きな窓から霧の立ちこめる渓谷を眺め、部屋でほっと一息ついて、温かいお茶もずずずいっと飲んで、無論もちろん温泉へ。貸し切り状態です。ほんのり硫黄の匂いがします。そして頗る熱いです。足を突っ込んで、すぐさま出ました(そういや共同浴場のレビューにも熱いと書かれていた)。
 源泉掛け流しの証拠なんだろうが、こう熱くては入れません。蛇口をひねって、勢いよく水で薄めます。恐る恐る足を入れては出してということを繰り返し、ようやく肩まで浸かります。駅からここまでお疲れさまでした。いいご褒美です。

 で。引き続き懸念しているのは天気です。雨。明日もアクティブに動き回る予定です。そしてまたまた終日雨予報。なんだか日中は雨の勢いは弱そう。これはワンチャンあるだろうか……。というか既に外は大雨です。ざーざー降りです。雨には濡れたくないけれど、浴衣にリュック、下駄姿で、旅館から傘を借りて、山田温泉の『スパ・ワインセンター』という足湯も観光案内所も兼ねた、木造の割と新しい感じの地産品直売所へと足を運びます。下駄なら濡れてもそこまで問題ないし。もちろん買い求めるは「信州たかやまワイナリー」で紹介を受けた「Nacho」です。今晩はタレカツ丼を食べますということで、ワイナリーで「でしたら」とオススメされていた赤のNachoを。750mlの瓶しかなく、飲み切れるかどうか不安はあったけど、まぁ残ったら宿の方にお裾分けしようかと。何かおつまみが欲しかったけれど、何だかそれっぽいものがなく、ワインだけを買って宿へと戻りました。

(というか、こう旅日記を書いていて、今になってしみじみ楽しかったなぁ、と思っています。二泊ということもあって、時間に追われることなく、自由で、のびのびと過ごすことができました)

 日が沈む頃、夕飯が供されます。なんと夕飯はお弁当。山田温泉から山を下った先にある観光地、小布施(おぶせ)の味郷さんよりテイクアウトで、タレカツ丼を取り寄せました。
 こちらの平野屋さん、コロナ以前からこういったスタイルのようで、夕飯は近隣からのテイクアウト(朝は旅館で用意)という、自由度の高い泊食分離をモットーとしているとのこと。これ、一人旅では結構嬉しい人、多いのでは? 何より、近隣から好きなものを取り寄せられるというのがとても良いです(事前にネットでテイクアウト可の美味い店を探しました。加えて、取り寄せ料は特にありませんでした。雨の中でしたが代行してテイクアウトして下さいました。無料ウーバー?)。そして自分はソースカツ丼、タレカツ丼に目がありません。いただきます! うまい、まだ温かい。野菜たっぷりの温かなお汁まで旅館で用意していただき、いやぁ、美味しい嬉しいです。そんでもって高山村のワインがうまいことうまいこと(ドロップ型のグラスを宿からお借りしました)。ワインって、何だかえぐみがあるというか、くどい感じがして、今まで敬遠してきたけれど、このワインはそんなことありませんでした。ぐいぐい飲めます。けれどどのお酒にも言えることだけれど、やっぱご飯には合わないかなぁ。個人的には、つまみと酒というのが、一番酒の味を楽しめる気がします。

 で、温泉郷では見当たらなかったつまみ。道中買いすぎて、リュックの中に入れておいた牛乳パン。ふわふわのパンに、これまたふわふわなクリームを挟んだ菓子パン。これをつまみに、赤ワインを飲みます。うん、悪くない。ふざけた組み合わせと思われるかもしれないけれど、何だかいけるぞ。うまし。半分は明日飲もう。うん、割と酔ってきた。このまま寝ようか。いや、もう一度風呂入ろう。てなわけで再度、硫黄のにおいの中へ。

 やあ、いい心地。どうか明日も、雨雲とぶつかりませんように。


 二日目
 深夜に目が覚めて、何度かスマホで雨雲レーダーを確認していたかと思う。それほど、この二日目を楽しみにしていた。それほど、雨に降られることを心配していた。障子向こうの窓からは水音が終始響いているけれど、これは渓谷を流れる川音。雨や川の音だって結構な音量はあるのに、どうして眠るとき耳障りにはならないのだろう、これが人の話し声なら物音ならそうはならないのに、なんて思いつつ、また眠る。

 そうして起きたら雨、は降っていないけれど、このあと降る予報。しかし雨雲はじきに抜ける。そのあとまた西から一塊、雨雲が流れてくる。これも、10時頃に通過する。それが終われば──。とはいえ、予報が外れることも大いにあるので、あまり気にしないようにしつつ、運ばれてきた朝食をいただく。まろやかな甘みの味噌を塗りたくった、茄子田楽。んまー。何だかほっとするお味でした。
 顔を洗うついでに、という理由で風呂に行き、窓の外は霧がもうもう。多分、雨の真っ只中。あと一時間ちょいすれば……。てなわけで、持って来たタブレットで漫画やらゲームやらをして過ごす(旅に小説は毎回持って行くけれど、大体結局読まない)。というか温泉効果かもしらんが、昨日あんだけ歩いたのに、身体がどこも痛くない。痛くないぞ!

 10時30分。大きな雨雲は過ぎ去った。旅支度を終えて、冬用のジャケットを着込み、外へ。雨はまだちょっとぽつぽつしているけれど、この程度なら問題なし。山田温泉のシンボルとも言える、共同浴場の「大湯」の前を通り、夕べも訪れたスパ・ワインセンター、通称『スパイン』へ。レンタサイクルというか、レンタルeバイクです。坂道も楽々行ける、電動自転車のすげーヤツという感じ。もちろん数週間前から予約済(昨日のうちに「雨がやんだら借りに来ます」とお伝えしていました)。カラーは紅葉を意識してオレンジにしておきました。さぁ山の上へと、出発です。

 まずは山田温泉から奥へ奥へと進む。車道より目線をガードレールの向こうに放れば、霧に煙る山の木々。少しばかり黄に色付いたものもあります。紅葉のシーズンは、まだもうちょい先のようだけれど、まぁ落ち着くことのできる『ずらし旅』にしたいなぁとも思っていたので、問題ありません。
 紅葉。確かにきれいだとは思います。でも、この「きれい」だと感じているのって、普段の木々、その葉っぱが緑色だからじゃないだろうか、ということをペダルを漕ぎながら、思う。もし仮に、年間の大部分が緑葉でなく、紅葉だったら人はどう感じるだろう。今度は緑葉の色味をありがたがるんじゃないだろうか、と。どうやら自分も含めて人は珍しいものに弱いように出来ているのじゃなかろうか、なんてことを思いながら、渓谷向こうの霧に染まった緑葉を見やります。

 さて、まず着いたのは八滝。やたき。向こうの山に見える、八段になって落ちるながーい滝を展望台から眺めるのだけれど、肝心の展望台その二階部分が少しご年配のお喋りに夢中の小グループに占拠されていて、主に一階から眺めておりました。話すだけなら、別のとこ行って欲しいなぁ。まぁでも滝そのものはかなり遠くにあって、滝としてのインパクトは少し弱めでした。

 そして次に向かったのが雷滝。相変わらずあまり上手いと言える撮影ではないですが、こちらは動画でどうぞ(あとから気づけば、手が映ってました。熊鈴鳴らすの忘れてました。そして足場が悪かった箇所で、一旦撮影を中断しました)。

 動画をご覧いただければ伝わるかと思いますが、この雷滝、先程の八滝と打って変わって、すっげぇ迫力です。轟音です。滝のすぐ裏を歩けるって! というか、天井からも割とぴちゃぴちゃ滴が落ちてきます。あんまりゆっくりとしていられるような状況じゃありません。足下も結構ひたひたになっています。近年はマイナスイオンとか呼ばれるようになった水しぶきも沢山です。凄いけれど、長居には不向きです。というわけで、来た道を引き返し、eバイクを駆って濃霧の中、まだまだ山の上を目指します。

続→

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