店員１　　　　あいつアホなんですよ

マネージャー　ほんっとに。まあうちも人んちの子のこと言えませんけど

店員１　　　　やっぱり、大変ですか

マネージャー　まあね

店員１　　　　タレントさん・・・ですか？やっぱりそういうご職業の方はみなさんどこかなんか違うんでしょうねー

マネージャー　役者よ役者、若いけどあれでも役者よ、しっかり役者。役者なんてどっかおかしいのばっかりよね

店員１　　　　へえ～

マネージャー　非日常を演じるなんてキチガイでしょ、芝居なのに当たり前みたいな顔して他人と会話して泣いて笑ってすんのよ？そんなの頭おかしいでしょ、

店員１　　　　え！マネージャーさんがそんなこと言っちゃっていいんですか～？

マネージャー　だって本当なんだから。本当にキチガイだらけさっきの二人もそう、一人は極度の八方美人でしょ、一人はあり得ない不器用でしょ。

店員１　　　　あーなんかわかりますね

マネージャー　八方美人の方はなんでも泣いとけばいいと思ってるでしょ、まだ新人のくせにどこでそういうの覚えてくるのか知らん、まあ、調子いいのよ・不器用の方は信頼関係がどうのとか俺の事信用してくれないならどうとかもーまー嘘ばっかつくくせにちょっとこっちが無視するとこうもうぐわぁ～って絡みついてくるでしょ

店員１　　　　かまってほしいんじゃないですか？

マネージャー　あんたたちの営業や現場や新しい事考えたり頭下げたり金払ったりどんだけしてるか知らないのよ。寝る暇もないのに構ってるヒマないわ

店員１　　　　へえ～。ご苦労多いんですね～

マネージャー　よく役者は親の死に目にも会えない職業だとか言うじゃない、あれ嘘よ

店員１　　　　えそうなんですか？そんなことないんですか？

マネージャー　舞台の本番中とかなら仕方ないわよ、でも親だってそんなタイミングよく死んだりなんかそうそうしないわよ。本当に親の死に目に会えないのはねえ

店員１　　　　会えないのは？

マネージャー　私よ

店員１　　　　え！

マネージャー　マネージャーこそ親の死に目にも会えなきゃ数少ない友達の結婚式にも出れなきゃたまに男が出来てもデートもできなきゃなんもできないわよ。なんならね、風呂もゆっくり入れないわ

店員１　　　　ハハハどういうことですか？

マネージャー　あいつらはねー・・・鬼なのよ。そして子供。いわゆる、「餓鬼」ね。常に自分最優先。こっちが親が死にそうでも腰が痛くて芝居ができない「うわ～」友達の結婚式の前の日の夜に足を怪我した痛い「ぎゃ～」１年ぶりの休みを取って出かけようとした瞬間に演出家が腹立つから降板する「びゃ～」夜中疲れ切って風呂入ってる最中に電話してきてグチグチグチグチグチ・大体ねえ、私が前いた事務所を半分クビみたいに辞めざるを得なくなったのも役者の愚痴に毎日朝まで付き合わされて毎週会議に出るの遅刻するようになったのがきっかけよ！なのに「いいじゃん、じゃあ二人で一緒に楽しい仕事だけ取って一生懸命やっていこうよ」って。じゃあんた私の給料払えんのか！って話よ！

店員１　　　　ハハハハハ、熱いですね～。え、やっぱ、携帯見たんですか？

マネージャー　はい？携帯？何、携帯って、あの子たちの？冗談でしょ！どんなこと書いてあるか想像しただけでぞっとするわ。

店員１　　　　お菓子食べて携帯見てるだけじゃないんですね～

マネージャー　はい？お菓子？甘いものは苦手です、女性だから全員が甘いものが好きとか大間違いよ、だいたい携帯見たってなに、あの子たちがそんなこと話してたの？別にかまいませんけど・でもね、はっきり言うわ、倫理とかね、そんな問題じゃないの、見たくないから見ないのよ、あー怖

店員１　　　　ゆとり時代なんですかねえ

マネージャー　だとしたらそのシステムは悪い子供たちを生んだわね、

店員１　　　　うちのバイト達も似たようなもんですよ

マネージャー　あれもそうとうね

店員１　　　　一人は馬鹿でしょ？一人は根暗。まともなの俺くらいのもんですよ

マネージャー　まさか、あなたまともじゃないわ

店員１　　　　え？俺ですか？俺はもうまあ至ってまともですよ

マネージャー　世の中斜めに見てるわ

店員１　　　　斜め。ですか

マネージャー　そうね、あなたはあれね、「どうせ俺なんか」タイプね

店員１　　　　あら

マネージャー　なんでもまあこんなもんだろうって諦めてるタイプの人ね。役者なら一番性質が悪いタイプの人間だわ

店員１　　　　ハハハ。お客さんはあれですね、「私が我慢します」タイプですね

マネージャー　あら

店員１　　　　何を言われてもどんなきつくても私が我慢してやります、でもそれがたまりすぎたら爆発しますよタイプでしょ。彼らはその爆発点がいつやってくるのかもわからないしその威力がどんなくらいかわからないから調子乗っちゃったりして

マネージャー　あなた、誰かにこっぴどく怒られ続けてきた人ね

店員１　　　　この年になっても色んな人にまだ怒られてます。借金も減らないし家は汚いし税金は払わないししょうもない人間ですよ・ハハハ

マネージャー　ほんとしょうもないわね・笑。私も・・・私も泣きたいわー！あんな風に泣けたら楽だろうなと思うわよ、ふてくされたらその間に誰かが仕事やってくれてたらいいなーと思うわよ。でも私が休んだら全部止まっちゃうのよ

店員１　　　　止めちゃえばいいじゃないですか、たいしたことないですよ

マネージャー　無理、これはもう性分だから

店員１　　　　までも、あいつらかわいいんですよね

マネージャー　馬鹿と根暗が？

店員１　　　　そう。なんでこいつらこんなバカなんだろうな～と思ったらなんかたまにかわいすぎて泣けてきますよ

マネージャー　だけど何も教えてあげないのね

店員１　　　　嫌ですよめんどくさい。俺、教えたりするの一番苦手だし、

マネージャー　怒るのしんどいよね

店員１　　　　でもかわいいから怒っちゃうと

マネージャー　まあ、ね。私は独身だし子供がいたこともないけど、多分あれは自分の子供みたいにかわいいね。かわいくなきゃ金も儲からないのに寝ないで仕事なんかしないわよ、

店員１　　　　ホストクラブ的に？

マネージャー　あれが？冗談じゃない、サービスしてるのは私の方です。彼らにお金もらってホストクラブに行きたいくらいです

店員１　　　　確かに。俺もあいつらに金もらってキャバクラ行きてえ

マネージャー　あなた・・・本当にダメ人間ね・笑

店員１　　　　え、でも儲からないんですか？芸能のお仕事とかってなんか儲かりそうじゃないですか

マネージャー　あなたさっき、税金払ってなくて借金も減らないって言ってたわよね

店員１　　　　え？はい

マネージャー　私もよ

店員１　　　　えええええーーーー！？

マネージャー　この服、会社にいたときに買ったものよ、バッグも、靴も、軽く５年は使ってるわね、美容院は１年に２回行ければいい方よ

店員１　　　　え、あの子たち、仕事ないんですか？

マネージャー　してるわよ、仕事ない時は私が仕事自体を生み出してるから稼働してない期間なんかないわよ

店員１　　　　なのにマネージャーさんお金ないんですか？何％とかもらってるんでしょ？

マネージャー　仕事生むのは金がかかんのよ

店員１　　　　確かに。じゃ、ちょっと不安ですね

マネージャー　はっきり言って彼らの若い不安より私の不安の方が切実よ、この年よ？この年で税金払えないのよ？保険証だって保険料払ってないからもう使えないのよ？病気になれないのよ？少ない貯金はあの子たちのために全部使い果たして将来不安しか残ってないわよ

店員１　　　　ほえ～・・・えーそれ、どうやって精神たもってるんですか？かわいいだけじゃ無理でしょ～

マネージャー　私が選んで始めたことだからね、仕方ないわ。どうにもなんない不安に対してやることちゃーんとやったらあとは・・・

店員１　　　　・・・

マネージャー　あとはなんか自然？社会？流れ？なんか、そんな大きなものに身をゆだねるしかないのよ

店員１　　　　・・・

　　　　ため息ひとつつき、帰り支度を始めるマネージャー

店員１　　　　お帰りですか

マネージャー　あの子ね、さっき一人だけ連れていったでしょ？あっち新人なんだけど、駅前で説教してバラしたのよ。泣き落としも嘘も私には通用しないから今後やったらクビにするって言ってやったわ。私に本気で怒られたの初めてだったからショック受けててね、二人でまた戻ってくるかと思って来てみたけど、もういいわ、私は仕事あるので事務所に戻ります。

店員１　　　　まだ彼らのためにお仕事ですか？優し～

マネージャー　ほんと、怒る側の気持ちもわかってほしいわ、結構しんどいのよ

店員１　　　　しんどいでしょうね～俺嫌だな～

マネージャー　かわいい子たちの面倒見るのが私の仕事ですから

店員１　　　　いらっしゃったらお伝えしておきます

マネージャー　言わなくていい。・・・だいたいもう来ないでしょ

店員１　　　　ありがとうございました

　　　　お会計をして、帰っていくマネージャー。
　　　　レジから百円を出し、人間ジュークボックスに入れる店員１

店員１　　　　さっきの、もう一回歌ってよ

【音楽】　　　「Ｍ６（今／アコver. ）／ナリナリ」