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地獄へと続く道は善意で舗装されている

これは、ヨーロッパで1,000年くらい前に生まれたことわざだ。

人は、誰も望んで地獄のような状況に辿り着いてしまうのではない。それぞれが、目の前のことに良かれと思って誠実に取り組んだ結果が積み重なって、地獄へと至るのだ。

おおよそこんな意味だと理解している。
そして、それは真理だと思う。人の善意ほど危険で恐ろしいものはない。

戦争を含めた、世の中の大抵の「ひどい出来事」は、多くの人が良かれと思って行動した結果だ。

ドラマ「リーガル・ハイ」の主人公、古御門研介もこう言っていた。

本当の悪魔とは、巨大に膨れ上がったときの民意だよ。
自分を善人だと信じて疑わず、うすぎたない野良犬がドブに落ちると一斉に集まって袋叩きにしてしまう。

そんな善良な市民たちだ。

これが起きてしまう構造を明らかにしつつ、それを避けるために僕らに何ができるのか。今回は、そんな話をしたいと思う。


僕は、人の善意が結果的に地獄に続いてしまう主要な原因は、「正確な情報の欠如」だと考えている。

・科学の知識
・「こうやったらこうなる」という力学の理解
・相手の状況や価値観の理解
・自分と他人の価値観は異なるという認識

こういったものが欠如すると、人の善意は邪悪な結果につながってしまう。

『コブラ効果』という言葉がある。

インドを統治していたインド総督府は、デリーにおける多くの毒ヘビ、特にコブラの害を脅威と看做し、コブラの死骸を役所に持ち込めば報酬を与えることにした。 最初のうちは報酬目当てに多くの蛇が捕獲されたので巧くいくと思われていたが、蛇の死骸を多く持ち込めば収入が多くなるのなら蛇を捕獲するよりは蛇を飼って増やせば良いと目端の利く連中がコブラの飼育を始めてしまうことになった。 蛇を減らす目的の筈が、反って蛇を増やすインセンティブになったことを重く見て、この施策は取り止めになった。しかしこの結果報酬目当てに繁殖していたコブラが野に放たれ、コブラの数は施策が行われる以前よりも増加してしまった。一見正しそうな問題解決策は、状況をさらに悪化させた。<Wikipedia より引用>

これは非常にわかりやすい例だ。

他にもいくつか例を挙げておく。
「水素水の効用を信じて、人に勧めてしまう」のは、科学に対する間違った知識が招いた結果だ。
多くの戦争もそうだ。お互いが自分たちの正義を主張し、「自分たちだけが正しい」という間違った前提に立ち、相手には違った正義があることを忘れてしまうために起きる。

これはいったいなぜ起きてしまうのか。
世界が複雑になり、僕らが簡単には理解できないようになってしまったからか。

でも、この種の問題は世界が今よりもずっと単純だった時代でも、今と変わらずに起きてきた。オイルショックではトイレットペーパーが買い占められ、植民地時代に生まれた人種差別は今もなお続いている。

であるのならば、問題は人間の側にあるのだろう。人間は常に不完全で、正確な情報が欠如している。

これを乗り越えるのに有効なことが2つあると考えている。

①「人間の知識や判断は不十分である」と常に自覚すること
知識が不十分であることはすでに説明したが、それに加えて、人間の認知はそもそもかなりゆがんでいる。ありのままを客観的に認識することは不可能で、認知バイアスの影響を必ず受ける。
(認知バイアスとは、脳の構造や、生存本能、文化などによって生まれる人間が普遍的に陥りやすい誤りの総称)。
「自分たちは常に間違っている」とまで徹底せずとも、「より良い適切な知識や判断がありうる」と自覚しておくだけで有効だと思う。


②「間違いは簡単に起きる」ということを前提にし、間違いが発覚した際は速やかに修正すること
「絶対に失敗してはならない」という空気は、悪影響を及ぼすことのほうが多い。「失敗しないように最善の準備をする」という風に働けば良いが、「失敗したときに、それを認めるのが難しくなる」というデメリットが必ず生まれてしまう。
「失敗しても良い」ということではない。
でも、「この1回で成功しなければダメだ」ではなく、ある程度の時間軸の中で「最終的に成功する」ことを目指すのが良い。

このことは、哲学や文化について語るときは圧倒的なキレを見せる、内田樹さんの「ユダヤ人評」に詳細に書かれているので、興味がある方はぜひ。有料記事ですが、初回無料プランもあるし、この記事のためだけに課金しても十分ペイすると思います。そのくらいの価値がある文章だと思う。

ここで改めてタイトルの「地獄へと続く道は善意で舗装されている」という言葉に立ち返ってみると、まず僕らが最初に身に着けるべき姿勢は、「善意からくる行動が、良い結果につながるとは限らない」というものだと思う。

性善説を捨てる必要はない。
「人と世界は善意にあふれている」という感覚は非常に大事だ。

でも、その善意からくる行動の内容に対しては、懐疑的になるのが良いのだと思う。

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