フグのドキュメンタリー映画、はじめました。

「なんでフグ?(笑)」
フグを題材にしたドキュメンタリー映画を作っていると言うと、ほぼ100%こんな反応が返ってくる。最後に(笑)がつくところまで同じだ。その度に僕は複雑な思いを抱くのだが、どうやら多くの人は、フグの面白さを知らないらしい。これは、チャンスでもある。これからフグの面白さを知る者は幸福だ。

ところが、「なんでフグ?」に対してどう答えるか、は意外に難しかった。といっても、答えは到ってシンプル。「フグが最高に面白いから」である。だが、その「面白さ」がかなり説明しづらい。「フグの何が面白いのか」を端的に伝えるにはどうすればいいのか。それが最初に直面した難問だった。

この記事では、なんで僕がフグを題材に決めたのかを説明したいと思う。それは、「フグがなぜ面白いか」を解説することでもある。記事を読んだあとに、「このフグの映画、見てみたいな」と思ってくれる人が一人でも増えることを目指して、全力で解説しようと思う。
謂わばこれは所信表明だ。

製作にあたり、ドキュメンタリーの題材を100個以上吟味した。その上で断言するが、フグは断突に面白い。

■そもそも、なぜフグか

ドキュメンタリーの題材を考えていた時期、一緒に制作している親友から1つのネタが出た。曰く、

「俺のひい爺ちゃんはフグ毒にあたり、竹藪に埋められたらしい。」

なんだそれは?である。調べたところ、実はこの「フグ毒に当たった人を首まで埋める」という治療法は実在したらしい。ちなみに皆さんご存知「水戸黄門」のうっかり八兵衛もフグ毒にあたって海辺の砂浜に埋められたことがある。竹藪に埋められた、というのもあながち嘘ではなさそうだ。なのでこの企画は当初、彼が祖先の過去を探る民間療法ドキュメンタリーの予定だった。つけた仮題は「フグ毒と竹藪」
諸般の事情でその方向は断念したが、フグを調べていくうちに興味深いトピックがどんどん出てきた。その一つ一つがやたらと面白い。
一例を示そう。

●フグは下関では獲れない。
●免許制度がない県が最近まであった。
●大阪ではたった2日で誰でも免許が取れる。
●フグ毒=テトロドトキシンの研究は日本が最先端。
●猛毒部位を糠漬けにした伝統料理が存在する。しかも無毒化の仕組みは未解明のまま。
●今上天皇はフグを食べたことがある。
●フグ業界最大のタブー、猛毒部位=肝を食べさせる「肝特区」構想があった。
●肝食をめぐって、賛成派VS反対派の論争が勃発している。
etc..

これらはネットで検索すればすぐに詳細が出てくるトピックだかりだ。だが、そこに関わる人々の顔はネットでは見えてこない。彼らを追って、思いや仕事を撮れれば絶対に面白いものになるだろうと思った。

これだけ特殊なトピックにあふれた魚、フグ。
その魅力を作り出す要因 ー それは「毒」だ。

■毒魚を喰らう、“奇妙”な日本人

ご存知のように、ふぐは毒魚である。
ふぐの面白さは、すべて「毒」に起因する。

海外では、毒を持つ生き物を食べる習慣はかなり珍しいようで、「フグ食」は相当奇異に映るようだ。カナダの雑誌の記事<世界の奇妙な食べ物TOP10>では、クモの天婦羅や牛の睾丸などを押さえて、日本のフグ料理が堂々の第1位を獲得している。

「Reader’s digest」 -Top 10 Weirdest Foods From Around the World
http://www.readersdigest.ca/travel/world/top-10-weirdest-foods-around-world/view-all/

だが今の日本人でフグを食べることに不安を覚える人は、まずいない。これは先人達が築いた「安心・安全」の礎のおかげである。
フグは食べる魚。そんな「当たり前」は、多くの先人達の犠牲と、血のにじむ努力によって作られたものなのだ。

海外では意外と興味を持たれているフグ。
では何故日本人は「なんでフグ?」と興味なさげなのか。
まずはそこを解き明かそう。

■面白そうかどうか、を決めるもの

ドキュメンタリーが面白いかどうかは見るまでわからない。だが「面白そう」かどうかは下記の3つで決まる。

1つは「珍しさ」

もう1つは「奥深さ」

最後は「真理の暴露」だ。

・<珍しさ>
珍しさは、好奇心をくすぐる最高のスパイスだ。
珍しい人、珍しい場所、珍しいモノ。
ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマンの作品はその代表だ。例えば、精神異常犯罪者の刑務所、大陸間弾道ミサイルの打ち上げ管制センター、オペラ座の裏側、精肉工場などなど。
「気になるけど普段見ることができない世界」を題材にしている。ドキュメンタリー映画の王道スタイルだ。

一方で、人が興味を持つものは「珍しさ」ばかりではない。
身近なものでも、面白そうと思うことがある。それが「奥深さ」だ。

・<奥深さ>
例えば寿司やラーメン、日本酒などは珍しさは全くないが、面白そうと期待を抱ける。(実際、それらのドキュメンタリー映画は存在する。)身近であるがゆえに奥深さを容易に想像できるからだ。種類の豊富さや職人のこだわり、多岐に渡る技術など、「面白そう」と思えるポイントをすぐに想像できることも、この種の題材の強さである。

・<真理の暴露>
「真実」を暴露し、「真理」を白日の元に曝す。生きていて知らないうちに搦めとられている、この世を動かす原理と真理をつまびらかにする。これこそがドキュメンタリー映画の真髄であり醍醐味である。


ではフグはどうか。

先述したとおり、日本人にとってフグは決して珍しいものではない。それでいて、多くの地域の人々にとっては年に1回食べるか食べないかという代物であり、決して身近な食べ物ではない。
多くの日本人にとってフグは、珍しくはないけど身近でもない、という「中途半端」な存在なのである。
これが、「なんでフグ?」という言葉の正体だ。
裏側を見たいと思うほど珍しくはなく、奥深さを想像できるほど身近ではない。これでは「面白そう」と思いようがないのは当たり前である。

だが実際はどうか?
紹介したようにフグは興味深い要素に満ちている。
世界から見れば「珍し」すぎる食文化であり、他分野に渡る「奥深い」題材なのだ。「真理の暴露」についても撮影を通じて触れることができた。今はまだ話す段階ではないが、タイミングが来た時にまた話す機会を設けたいと思う。

最後に、「フグの魅力」の理屈を端的に説明しよう。

■なぜ、フグは面白いのか?

取材を通して、この映画は面白くなるぞ!と思ったポイントがいくつもあった。それらは結局のところ、1つの事実に収斂される。

食べ物の中で免許が必要なのは、フグだけなのだ。

フグの取扱いは、資格を持つ者にしか許されていない。これは実は、医者や弁護士と一緒のくくりだ。法で定められたその資格を「業務独占資格」という。勘のいい物語好きの人なら、これだけでドラマの手触りを感じるだろう。「毒」があることで「禁止令」が生まれ、やがて「免許」が生まれた。「制度」は様々な「立場」を生み、「思惑」「人間関係」が生まれる。

職人の技と誇り。試験に賭ける新人のドラマ。明治維新からつづくパワーバランス。新たな動きと論争。毒魚をめぐるこの業界は、「思惑」と「ドラマ」が凝縮されている。
これぞ映画だ。

このドキュメンタリー映画は、記録でも報道でもない。
僕はこの映画を、完全に娯楽映画として作っている。
フグは持ってこいの題材だ。


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最後まで読んで戴き、ありがとうございました!
2017年2月から足掛け1年半に渡って撮影をしてきました。撮影は「ほぼ」終わり、今は世に出すための準備を粛々としている段階です。
これから公開や情報解禁に向けて、ここで色々と記事を上げていきます。
この映画に興味を持って貰えたら、応援して戴けると嬉しいです!!

フグ、美味しいし、面白いよ!


1129(いいふぐ)の日に。
宇野航/Wataru Uno
twitter:@uno_wa


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宇野航

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