モダンサッカーと将棋AIアルゴリズムの類似性

W杯でサッカーにハマってすぐの頃ふと、ある妄想が頭に浮かんだ。

「いずれAI搭載の自律駆動アンドロイドによるサッカーが出てきたら、ミスは激減し、位置把握も完璧、精確無比なダイレクトのパス回しや人外な強烈シュートで溢れかえり、人知を超えた戦術が山程生まれ、とんでもなくつまらなくなるんだろうな」

正直、激烈に萎えた。
だが、人間によるサッカーの進化が目指している先は究極のところ、このアンドロイドサッカーと同じ方向なんじゃないだろうか。サッカー記事を見ていると、そんな思いが頭をよぎることがある。特に、ドイツの認知トレーニングまわりの記事が顕著だ。例えばコレとか。

https://www.footballista.jp/interview/45323

これに限らず、認知スピードとトレーニングまわりの記事は少なくない。数年前からの潮流なのだろう。これらの記事を読んで思い出したのは、「人工知能=AIの研究」についてだった。とりわけ以前取材で追ったことがある「将棋AI」に通じるものを感じたのだ。「モダンサッカー」と「将棋AI」。普段同列で語られることは滅多にないであろうこの2つの類似性について、を書いていこうと思う。

■コンピュータ将棋について

まずは将棋AIについて簡単に紹介しよう。
私は普段映画畑の人間だが、たまにTV番組の制作にも関わっている。2012年の秋頃にコンピュータ将棋の存在を知り、その面白さに魅了された。コンピュータ将棋が人類に勝利するまでを追って、そこに賭けたプログラマ達の情熱を描くドキュメンタリー番組を作ろうと思った。そのキッカケとなったのは、ネットで見つけたこの挑戦状である。

情報処理学会の会長がわざわざ筆をしたため、日本将棋連盟に挑戦状を叩きつけたのだ。物事は少し大袈裟にした位が面白い。遊び心を熟知した米長邦雄会長(当時)はこの喧嘩を買い、ここに「コンピュータ将棋VSプロ棋士」の闘いの火蓋が切って落とされた。これがやがて電王戦へと続くことになる。

■「電王戦」とは

コンピュータ将棋が初めて現役のプロ棋士と公式に戦う場で、A級含む棋士達が投入された第2回大会は当時大いに話題を呼んだ。(第1回は米長邦雄会長が「非現役棋士」として対戦し敗北している。)私もこの第2回電王戦を数ヶ月前から取材していた。ちなみに自慢だが、その当時プログラマ側に密着して本格的に取材で追っていたのは私だけだった。

* * *
余談だが、当時この企画を持ち込んだすべてのTV局からは「プロ棋士側なら面白いけど、プログラマ側は弱い」と、ことごとく断られた。私が立てた企画は「コンピュータ将棋プログラマの挑戦」という、完全に挑戦者側に立ったドキュメンタリーだった。
当時はまだAIが今程注目を浴びておらず、深夜放送のネタとしても成立するとは思われなかったのだ。私の力不足で結局この企画は成立させられず膨大な取材テープだけが残ったが、この電王戦でコンピュータが人類の牙城である将棋で勝利を納めたことを契機にして、AIは人口に膾炙していくこととなる。

人類初の偉業を成し遂げたポナンザの開発者・山本一成さんが勝利を納めた日、控え室で見守っていた奥様とご自宅まで帰るタクシーに同乗させてもらい、山本さんから勝利直後のコメントを貰えた。彼はその偉業にも決して驕らず終始謙虚だったが、それもその筈、氏はこの記念すべき瞬間を元から通過点としか捉えておらず、人工知能で世界を良くする未来のことだけを考えていたのが印象的だった。ちなみに人類初の偉業を成し遂げた彼に、その当日ここまで密着取材していたのも私だけである(自慢その2)。山本さん、快く取材協力戴いたのに企画成立できなくてごめんなさい。

■将棋素人が起こしたパラダイムシフト

ここからは少し突っ込んで、アルゴリズムの話をしよう。コンピュータ将棋はかつて、評価関数をプログラマが事細かに設定していた。例えば「歩は100点、角は1700点」といった具合に。その結果を元に、プログラムが素っ頓狂な悪手を指さないように駒や局面など様々な点数を微調整していき、人が指す手筋に近づける作業だった。しかし2006年、一人の異端児がパラダイムシフトを引き起こす。理学研究者・保木邦仁氏だ。

保木氏はノートパソコンだけで世界選手権に初出場し、いきなり優勝をかっさらった。しかも将棋の腕は素人同然というのも人々を驚かせたが、そのプログラムの中身はさらに人々を驚愕させた。

保木氏はそれまでの開発者と異なり、将棋についてほとんど知らない初心者だった。なので彼の開発した将棋プログラム・Bonanza(ボナンザ)は、他とは全く異なるアルゴリズムを搭載していたのだ。その後、保木氏はソースコードを惜しげもなくオープンソース化する。これ以降、Bonanzaは将棋プログラムのベースとなった。(山本一成さんの「ポナンザ」も、この「Bonanza」をベースとしている)
※ Bonanzaの登場は、映画や漫画のようなヒーロー感溢れるエピソードが満載でめちゃくちゃ面白いので興味ある方はぜひ。https://ja.wikipedia.org/wiki/Bonanza

「直感」型アルゴリズム

Bonanzaが画期的だった1つは、「評価関数の自動生成」だ。それまでのプログラムは一つ一つプログラマが入力していた。ところが保木氏は将棋の素人なので自分では評価ができない。そこで参照したのが、過去6万局にも及ぶ膨大な棋譜だった。プログラムが過去のプロの指し手を大量に機械学習し、打ち筋を蓄積していったのだ。乱暴に言ってしまうと、「膨大な前例を元に良い傾向にある手を探し出している」という仕組みだ。

コンピュータというと、ルールという原理原則に則って論理的に最適手を導き出しているようなイメージがあったが、当時この話を聞いた時、「コンピュータは論理で考えていない」という事実に私は強い衝撃を受けた。プログラムは、その時々の局面毎に「経験上、この手が良さそう」という答えを出していたのである。プロ棋士の間ではそれを「大局観」と呼ぶ。つまりは「直感」だ。

Bonanzaチルドレンの山本一成氏は、のちにこんなことを発言している。

「人工知能は今のところ論理的思考がほとんどできない。
 むしろ直感を得意としている」

https://togetter.com/li/1226711

「直感」とは、過去の経験からくる瞬時のフィードバックである。Bonanzaは6万局もの棋譜を学習し、「直感」を獲得したのだ。
では、ここで話をサッカーに戻す。
シャビについての記述をもう一度引用してみよう。

シャビは膨大なサンプルと経験から直感に従って適切なプレーを選び出している
経験や論理的思考の蓄積で支えられた直感による、『考えないサッカー』の時代になっていくのでは

まさに同じことが語られているのがわかるだろう。
シャビやイニエスタなど傑出したプレイヤーが持つ「直感」という機能は、まさに人工知能が飛躍的な発展を遂げるアルゴリズムだった。

1秒1秒で状況が変化するサッカーでは、瞬時の判断・行動が決定的な違いを生み出す。経験に基づく「直感」が益々重要視されるのは止められないだろう。

さいごに

冒頭では、「アンドロイドサッカーが出てきたらつまらないだろう」と書いた。だがここまで書き進めて、それは杞憂に終わるかもしれないと思い直した。「アンドロイド同士のサッカー」自体が楽しめるかは、「将棋AI同士の将棋」を楽しめるかどうかと同様レベルに疑問は残る。だが、少なくとも人間同士のサッカーは、プレイする人も見る人も影響を受けて確実に変わるし、その変化を人類は絶対に楽しめる。

将棋の世界ではAIが人類を圧倒しているにも関わらずプロ将棋はなくならないし、それどころか藤井聡太という傑出した怪物が登場した。藤井七段効果で将棋人口は170万人も増加したという。将棋AIが出てきても将棋はつまらなくはならなかったし、使われなくなった雁木戦法が復権したり、ボナンザ囲いという新手が出たりと、益々の広がりを見せている。

中国では、世界最強の囲碁AI「AlphaGo」とペア碁を指したトッププロ棋士たちがこうコメントを残している。

「驚くべき手がなんども繰り出された。」
「AlphaGoとのペア碁はとても興味深く、とにかく楽しい。
 試合中、本当に最高の気分だった」

最後に、変革を齎した山本一成さんの、その後の人類の変化についてのツイートを紹介しておこう。

https://togetter.com/li/1227800


追記。
アンドロイドのサッカー、検索したらもうここまで来てました。
「2050年までにW杯優勝チームに勝つ」が目標だそうです。

<記事>
ロボットサッカー世界大会「ロボカップ」を通して見える「人間とロボットの協働社会」
https://www.mugendai-web.jp/archives/8138

<動画>
「ロボカップ2017名古屋世界大会 ロボカップサッカー」
https://youtu.be/ZOebtgsHVBU

「早い動きとコーナーからのワンタッチシュート」
https://www.youtube.com/watch?v=mKflWij246I

「ベストゴール2017」
https://www.youtube.com/watch?v=bD-UPoLMoXw

「ヒューマノイドサッカー」
https://www.youtube.com/watch?v=csfn4Bx-y20

「シミュレーション」
https://www.youtube.com/watch?v=qlXGFfgCnjU

Profile
宇野航 / Wataru Uno
映画を作ってます。 現在は「フグのドキュメンタリー映画」を製作中。 大阪のフグ免許「大阪府ふぐ処理登録者」を取得済。ただし魚は捌けない。 twitterアカウント@uno_wa


#サッカー, #将棋, #人工知能, #AI, #ロボット


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宇野航

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