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2007年、PASMOが始まった日

私自身、最近バスの本を出し、バスの運行管理者をしていましたというのがメインの内容になっている。
ただ、運行管理者というのは一般的には聞きなじみのない存在だ。
バス会社で働いてましたというと、「運転手ですか?大変ですね」と言われて「いえ、実は違って、運行管理者というものがあって…」みたいな話の流れになるのはいつものことなので特に何とも思わない。
ただ、YouTubeで何度か「運行管理者」について説明する動画を上げたので、これでみんな運行管理者について分かってくれた、と思ったがそうはいかなかった。

この動画では、私が運行管理者をしていて運行管理者とはこういうものだ、という説明をした動画だが、それでもコメント欄を見ると「綿貫さんはバスの運転手をしてたんですね」というコメントもある。なぜか。
それに似た現象が昨年、再び起こった。

こちらの動画では、「科目等履修生」として大学に通っているという風に説明した。さすがにこの動画のコメント欄に卒業まで4年間頑張ってくださいみたいなことは言われなかったものの、これ以降に企業さんとの打ち合わせ等でお会いする人と話した感じだと、「正規の学生として4年間大学に通っている」と思われていることが多かった。これは上記動画を全員がちゃんと見てはいないと思うので、このサムネだけ見たらそう思ってしまうのは仕方ないものの、運行管理者と運転士の勘違いに近いものを感じ、ある結論にたどり着いた。

それは、
「全く知らないものなら理解しようとするが、中途半端に知っているものだと分かったようになってしまう」
ということだ。バスの運転士という存在を知っているからこそ、運行管理者の説明をされても頭に入ってこない。大学生という存在を知っているからこそ、科目等履修生の説明をされても頭に入ってこない。恐らくそういうことではないか。
恐らく私も人の話を聞き流してしまう方なので、自分が分かったようになってしまっている物事も多数あると思う。
前置きが長くなったが、そういった人の性質があるからこそ今になって理解できた物事を紹介する。

約15年前、2007年3月。何があったかというと、この時期に交通系ICカード、PASMOが導入された。私はこのとき高校1年生だが、すでに京急にてアルバイトの駅員として働いていた。
もう今の時代になると、PASMO導入前の駅の仕事を知っている人もだいぶ少ないだろう。ギリギリPASMO導入前、パスネット全盛期に駅での仕事を開始できたのは私の誇りだ。

当時の首都圏での交通系ICカードというと、2001年にJR東日本がSuicaの供用を開始。それから2007年の3月までは、JRではICカードのSuicaを利用できるが、私鉄ではICカードが利用できず、切符を購入するか磁気カードのパスネットを利用するという方式だった。私が中学生の頃もちょうどその時期で、通っていた横浜創英中学は横浜線大口駅が最寄りなので大半の生徒はJR線のみを利用、Suica定期を持っていた。しかし私のような京急線子安駅を使っていた少数派はSuica定期は作れず、磁気定期を利用していた。これがちょっとした劣等感だった。
また、この2001年~2007年の間はJRのみICカード利用可能という状態だったので、ややこしい事態も発生する。京急線の名物駅、八丁畷の存在だ。ここはJR南武支線と京急線が改札を共有している。もちろんJR南武支線に乗る場合はICカード使用可能。なので京急線の駅で唯一、自動改札機にICカードリーダーがついている異質な駅だった。
ただ、そんなことは知らずにICカードで八丁畷に入場して京急線内の駅で降りようとする人も多数いた。もちろん他の駅には処理する機械自体がないので運賃は別途現金かパスネットで収受した。

そんなトラブルがありながら、ついに2007年3月のPASMO導入。正直、JR線のみの利用で普段の生活が完結するという人はなかなか東京や神奈川では少ないので、2007年まではSuicaとパスネットを使い分けるという利用法をしている人が多かっただろう。それが定着しているので、PASMOについて「分かったようになってしまう」状態の人が多かったのではないだろうか。
鉄道会社の従業員にはPASMOについて事前に研修があった。とはいっても全く新しいサービスなので、どんなトラブルが生じるかはやってみないと分からない部分も多く、そんなに詳しい研修ではなかったように記憶している。
ただ、「SuicaとPASMOは相互利用が可能になる」これだけは強調されており、また旅客向けの案内にも強調されていた。
2007年3月18日のサービス開始時にはSuicaとPASMOの双方ともに、「相互利用記念カード」が発売された。

https://www.jreast.co.jp/press/2006_2/20070214.pdf

https://www.pasmo.co.jp/pressrelease/pdf/81-press_070227.pdf

まだプレスリリースが残っているのでリンクを記載した。JRでは10万枚、私鉄では11万枚とかなりの枚数が用意された。大半の会社は主要駅での発売となっているが、なぜか京急線では全線全駅で発売とのこと。そのため、私もアルバイトながら発売の担当に駆り出された。私の担当は普通列車しか停まらない京急新子安駅。全駅での発売なので、こういった小駅には数十枚ほどしか割り当てられていないが、果たしてどのくらい売れるのか。9時が発売時刻だが、数十分前から購入希望者の列が伸びていく。1人当たり3枚まで購入可能とのことなので、並んでいる人に何枚購入するか聞いていくと、8時50分くらいの時点で用意された枚数に達した。あとは並びに来た人にもう買えませんと案内し続ける。ただ、小駅だったこともあってか、例の東京駅100周年Suicaのような混乱は特になかったが、やはり関心は多く発売時刻前に実質売り切れという結果だった。

そういった滑り出しをしたPASMO。もともとSuicaがかなり定着していることもあり、PASMOの利用に関しても大半のお客さんは問題なく使ってくれるだろう、と思っていた。もちろん大半は使ってくれたのかもしれないが、結構こういったトラブルが発生した。
「JRはSuica、私鉄はPASMOでないと使えないと思ってしまう問題」
元々Suicaを持っている人が新たにPASMOを購入。財布に両方を入れて改札機にタッチ!「ピンポーン」エラー!
「複数枚タッチ」のエラーの表示が出る。
それに対して、「1枚だけタッチしてください、Suicaでも私鉄に乗ることもできます」と案内。これをひたすら行った。
今になって思うと、「Suica・PASMO相互利用」の案内自体は確かに多数していたものの、「JRはSuica、私鉄はパスネット」という固定観念が乗客にとっては大きかったので、「パスネットがPASMOになったのね、はいはい分かった」みたいな感じで相互利用が可能になるということはあまり伝わりきってなかったのだろう。
この件の案内でかなり印象的なクレームを覚えている。私鉄線内の磁気定期を持っているがPASMO導入に伴いPASMOに変更したいとのこと。券売機の操作を案内し、無事にPASMO定期の発行完了。いざその乗客が改札を通ろうとすると「エラー、複数枚タッチ」とのこと。定期券ではない通常のSuicaが財布に入っていた。「今後はPASMOでJR線も乗れますので、お手数ですけどSuicaはJRさんで払い戻しされることをおすすめします」と案内するも、「は?なんで通れないんだよ。これじゃあ意味ないよ。元の磁気定期に戻してくれ」とのこと。何か経費精算の都合でSuicaはSuicaで持っている必要があったのかもしれないが、対応した感じだとやはり相互利用をよく分かっていないような印象だった。今は快適にPASMOを使ってくれているといいが。

その6年後の2013年3月、ついにICカードの全国相互利用が開始。2001年~2007年の6年間はSuicaのみの状態、2013年までの6年間はSuica・PASMOが相互利用できるものの、関西などの別のエリアで使うには部分的にしか相互利用が行われていなかった。Suicaは関西のJR西日本では使えるものの、関西の私鉄では使えず、PASMOは関西では一切使えずといった感じで。そんな不完全な状態だったものが今と同じように全国で大半のカードが相互利用できるようになった節目の年だ。もうこの頃には各会社ごとにカードを持たなくてはならないという固定観念はなくなっていた。ただ、逆に今では遠州鉄道のナイスパスのように、「Suicaは使えないのか!」という苦情が発生しているのが現状だが…。果たして2013年以降は大きな変化がない交通系ICカード相互利用に関して今後はどうなっていくのだろうか。

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