『手当たり日記 88』 女々しくて寂しくて何が悪い 2024年2月5日

昨日の日記が3000字を超えそうだったので、途中でストップして一旦投稿した。今日は昨日書ききれなかったことから始めます。

昨日の夜、祖父が僕が作った昔ながらのナポリタンを食べてくれた後だったか、その前だったか、忘れてしまったのだけれど。母が吸い飲みで祖父にお茶をあげているとき、うまく飲み込めず咳き込んでしまった。嚥下力が低下してきていて、体勢によっては飲み込むのが難しい。昨日もむせたり、咳き込んだりしてしまうことがあったのだけれど、今回は少し酷めだった。喉に痰も溜まっていて、より状況が悪かったようだ。すぐに心配になり背中をさすったり、上半身を前傾にさせたり、してみる。僕よりも母が焦っていて、うっかり吸い飲みをベッドの上に置いてしまい、事が落ち着いた時には、祖父の尻の下にお茶がこぼれてしまっていた。僕が祖父を抱えて、ズボンとシーツを変えるのだが、母はその間も落ち着きなくオロオロしていた。

僕は祖父とは、1歳の頃からずっと一緒に住んでいる。一方母は、その両親と延べ50年以上一緒に生活してきたことになる。両親の老いはいずれ来るだろうが、この生活はしばらくは続くのだろうと楽観的に考えていただろう。少なくとも僕はそう考えてしまっていた。母もそうだろうか、想像でしかないが。それが、この1年、半年で祖父が急激に老いて行くのは、母にとってはとてもショックだっただろうと思う。ここ最近は、僕が実家に帰り母と祖父の変化について二人で話している時はいつも、母は目元を赤くして目に涙を溜めている。自分自身が傷ついた時はもちろん苦しいが、自分の大切な人の切実な思いに触れた時にも、心が痛む。むしろ、より辛い時もある。母の慌てようを見ると、胸の下がキュウと痛んだ。

20時半ごろに、母と祖母と、恒例の強めのハグをして実家を出た。家に帰ってから、ひがいけポンドで知り合った友人と電話で1時間半くらい話した。僕が出店したスープのポップアップを手伝ってくれた、心強い友だちだ。先週末、ひがいけ界隈の同世代を集めた新年会に、僕が急遽不参加になってしまい寂しそうにしていたのを気にしてくれたらしく、電話で話さないかと訊いてくれていた。行けなくなったことを、その友人にラインした後に、何の気なしに「急に寂しくなってきた」と送っていた。友人は電話口で、寂しいと思うことはあっても、「寂しい」って言うんだ、と思ったと言っていた。「基本的にいつも寂しいんだよなぁ」と僕が戯けて言うと、友達はスマホの向こうで笑っていた。みんな言わないのかな、寂しい時に、寂しいって。少なくとも、男性が女性の友だちに言うことはあまりないのだろうか。僕はすぐ弱音を吐くもんな。そういえば、大学生のころ付き合っていた人に、何かの話の流れで女々しいと言われ傷ついたことがある。少し経って、女々しいのが悪いのだろうか、と思い始め、今では、女々しくて何が悪い、というところまで行っている。女々しくて、寂しくて、何が悪い。男として女々しかろうが、なんだろうが、僕は寂しい時に寂しいと言っていいと思っている。

そういえば、寂しさといえば。僕の日記をたまに読んでくれいているという、高校の部活の同期が、インスタグラムのストーリーズに、感想を書いたDMをくれた。僕が、読んでくれてありがとうとお礼を返すと、僕の書いている日記は「寂しさよりほっこりする文章」だと言う。この日記を書き始めたときは、もっと軽くて、さらりとした文章を書こう、となんとなく思っていたのだが、今年に入ってからは、なかなかそうも行かない。とくに、ここ最近は祖父祖母や母のことに関してとにかくナイーブになっている。こんな暗くて重い日記を誰が好き好んで読むんだろう、とすら思っていた。が、そんなこともないんだな、と嬉しくなる。

明日早いから、とことわって友人との電話を終わらせた。洗濯物を回している間に、風呂に入った。寒かったので、早く湯船に飛び込みたかった。たっぷりと湯が張られた湯船に首まで浸かると、冷えた足先や手先にじんわり温かいやさしい痛みを伴って、血が集まってくる。肺から目一杯息を吐くと、お湯の中に体が沈む。小さい頃から、冬の夜に入る風呂で味わえる、この感覚が好きだった。寒さという危機から自己防衛しようと閉じこもった体を、熱い湯がこじ開ける。こう感じられるのも、特定の条件下なのだと思った。また。祖父を思い出して、おじいちゃんもあたたかい風呂に入りたいだろうな、とふと思った。あたためたタオルで拭いてやって、看護師さんが週に一回、風呂に入れてあげることしかできない。元気なうちに、十分あたたかい風呂に温泉に入れただろうか。十分、美味しいものを食べて、十分、美しい眺めを見て、十分、大切な人と身を寄せて心を通わせただろうか。きっと、十分なことなんてないし、十分じゃなくてもいい。やっぱり、僕は、祖父がいるだけでいい。湯船でぼーっとしている間に、すっかり遅い時間になっていた。翌日も朝が早いので、急いで寝る支度をして布団に入った。

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