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雑文|どっちか迷ったら笑っといてくださいよ

「どっちか迷ったら笑っといてくださいよ」とは、芸人・濱田祐太郎さんの名言にして金言である。

濱田さんは自分の体験をネタにして喋るタイプの漫談家で、2018年の「R-1グランプリ」(ピン芸人のお笑い大会)では王者に輝いた。ちなみにほとんど目が見えていないそうだ。

R-1の舞台に登場した濱田さんは、付き添いの人に支えられ、白杖片手にマイクの前へ。なんとなく固い雰囲気になる客席。それでもしっかり拍手は響く。

漫談が始まると、濱田さんはネタ冒頭でこう言った。

「ぼく実はですね、生まれつき目が悪くて、今もうほとんど目が見えてないんですよ。でもね、芸人に憧れて。吉本に入ったはいいんですけど、吉本に入ってから目どころか自分の将来も見えなくなりましてね。これ、どっちか迷ったら笑っといてくださいよ」

ドッとウケた。一気に空気が柔らかくなる会場。その後はするするとネタが続いていって、決勝に勝ち進んで、濱田さんは見事2018年の王座を勝ち取ったというわけだ。

私はテレビで大会を観ていて、この「どっちか迷ったら笑っといてくださいよ」というフレーズにいたく心を打たれてしまった。濱田さんかっけー! よく言ってくれた! 何もかもを解決する名フレーズがここに誕生! そう思った。

ここからは自分の話になるけど、私は珍病奇病生活を題材にしたエッセイをよく書いている。題材というか、実生活がそうなのだからそこに触れないのは不可能なのだ。だから病気の話題も書くわけだけど、病気をしているとどうも、どんなにおもしろ話をしようとしても笑ってもらえないことが多い気がする。

シンプルに私が面白くないという可能性も十分にあるし、その場合は本当にすみませんとしか言いようがない。しかし昔からけっこう面白いと言われてきたタイプの人間なので、自分の面白さには自信を持っているし、悲惨な生活からユーモアを抽出、濃縮還元する能力は高めだと思う。

なのにまあ、病気になってからのこのウケなさよ。スベりっぷりよ。私がおもんないのか病気がおもんないのかどっちやねんと意味もなく腹が立ってくるぐらいにウケている実感がない。もはや病気が辛いのではなくて、ウケないのがつらい。ウケなくて悔しい。ただただ笑ってほしいだけなのに。

みんな普通に接してくれよ。
今までみたいに笑ってくれよ。

もしかすると謎病生活に侵されて笑いのレベルが下がっているのかもしれない。その可能性は否定できない。闘病中の人って大体めちゃくちゃ心が弱っているし、闘病ブログとかホントもう涙なくして見られないし、笑いの要素はゼロである。

自分はそうはならないぞ、何があろうと笑ってやるぞ、ついでに人も笑わせちゃうぞ。そうやって強くあろうとしているつもりが、知らず知らずのうちに産まれたての小鹿みたいに両足がプルプルしているのかもしれない。弱い、弱すぎる。そんなのはイヤだー!

さりとて、十カ月間屋外不出のおもしろハプニング実質ゼロ生活から、こんなにも無理矢理ユーモアを捻り出し生み出し絞り出しているというのに。蔵出し生絞りなのに。

これって結構すごいことじゃないのかしら。もうちょっとぐらいウケてもいいんじゃないのかしら。やっぱりムリヤリ捻り出した笑いではダメなのかしら。それとも私に技量が足りないのかしら。さんまさんなら面白くできるのかなぁ。ジミーちゃんならどうなっても面白いんだろうな。私は芸人なのか。性根が芸人なのかもしれない。

だけどです。もしも私の笑いのレベルが下がっていないのだとしたら(そもそも笑いのレベルってなんだ?)。その時は濱田さんの「どっちか迷ったら笑っといてくださいよ」の言葉をお借りしたい。

性根が芸人の人というのは、人に笑ってもらうのが何より好きだ。手を替え品を替え、別にウケたところで何の役にも立たないというのに、試行錯誤して、アホになって、人様に笑ってもらおうと必死なのだ。それなのにウケないって。もう寂しくて寂しくてナイアガラの滝に身を投じたくなる。寂しいよー! ざぶーん!

注意しておきたいのは、本当は一個も面白くないのに気を遣って笑うのは違うということだ。そっちの方が余計と寂しい。憐れみが凄すぎる。生類憐れみの令の対象になったんじゃないかというくらいに憐れまれてる。同情するなら金をくれ? 違う。同情するより笑ってくれー!(正当な審査基準で)

同じ人間なんだから憐れみなんていらんのです。だからもし、その人の境遇がかわいそうだからという理由で、笑うのか笑わないのかどっちか迷っているのだとしたら、その時はもう、なんにも気にせず笑ってほしい。笑って欲しいから笑わせようとしているんだ。君の笑顔が見たいんだ。

笑いに熱すぎて自分でも何を言っているのか、読み手にこの想いが伝わるのか一ミリもわからないけど、そして笑いについて論じた瞬間からその人は面白くなくなるという説も分かっているけど、それでもどうしても伝えたくなった。こうして必死になっている自分も、時間が経ってから傍観すればまた焦りっぷりが面白いのかもしれないな。

さてさてみなさん、どっちか迷ったら笑っといてくださいよ。

HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞