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りんご5個分の重み|もしもキティちゃんが会社を休んだら

身長はりんご5個分。体重はりんご3個分。いつも明るく元気なキティちゃん。

そんな彼女も身体を壊すことだってある。そう、ぎっくり腰になってしまったのだ。おなじみの上体を捻るポーズも、今では満足に取ることができない。長年の無理な体勢で腰に負荷が掛かってしまったのだろうか?

職場(サンリオピューロランド)にはもう一週間も顔を出していない。「キティちゃん」不在のピューロランド…… 想像しただけで自分の不甲斐なさに泣けてくる。家から一歩も出ない毎日が続き、背中とベッドがくっ付いてしまいそうだ。

一人暮らしの心細さも手伝って心身ともに弱り切ってしまったキティちゃん。そんな彼女を一番に気に掛けてくれるのはお母さんだ。横になりながらでも電話は出来る。お母さんの声を聞いただけでホッとして、また涙が出てきてしまいそうだ。

「いけないいけない、しっかりしなくちゃ」

そんな彼女を励まそうと、お母さんは救援物資を送ってくれた。

ピーーンポーーン。
玄関のチャイムが鳴った。

ピーーンポーーン。
早く起き上がらなきゃ。

ピーーンポーーン。
鳴り終わるまでにインターフォンに辿り着けるかな……。

ピーーンポーーン。
やった!間に合った!宅急便屋さん、お願いします!

玄関のチャイムがこんなにも短いだなんて知らなかった。横断歩道の信号が赤に変わるまでの短さも、すぐ近くのコンビニの遠さも知らなかった。ポケットに押し込んだお財布や携帯の重さも、この身体の重さも、本当に何もかもが知らないことばかりだった。

キティちゃんは「知らなかったこと」をたくさん知った。身体が不自由な人は、お年寄りは、いつもこんな世界を生きているんだ。

「人の痛みっていうのは、体験してみないとわからないものなんだなぁ……」

もっと人に優しくありたい、そう決意するキティちゃんだった。


お母さんからのお届け物には、着替えや果物が入っていた。

「あ、りんごもたくさん……」

ビニール袋に入ったりんごを持ち上げると、重みがズシンと腰に響いた。

「りんご5個分、か……」

今の自分が運べるりんごの数。図らずしも新たな個数を発見してしまったキティちゃん。公式のプロフィールに載ることはないりんごの重みは、彼女の価値観を大きく変えることになったのだった。

過去の文章より (2016年11月23日執筆)

HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞