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才能のピークは小学校三年生

私の文才のピークは小学校三年生だった。それからの才能指数折れ線グラフは下降の一途を辿っており、三十歳になった今も、「へ」の字山のふもとから、振り返って頂上を見上げている構図だ。山頂から小石でも転がそうものなら、ゴロゴロと音を立ててこの二〇十九年まで転がってくるだろう。

小学校三年生のある日、家族で団らんしていると「一人一つずつ小説を書こう!」というノリになった。今思うとなかなか小洒落たノリであるが、それ以降同様のノリは発生しなかったためあくまで一過性のものである。

その時私が書き上げたのが、「アジの開きを閉じ、井戸に沈める小説」だった。A4のわら半紙に一枚半ほどの短い物語で、これが家族にたいそうウケた。現物があればいいのだが、思い出の管理が悪いのでどこかに行ってしまったのが口惜しい。物語は四谷怪談みたたいなダークユーモアな雰囲気をまとっていて、「アジの開きを閉じて、井戸に沈めた。」の一文が、衝撃的なほどに笑いをかっさらった。

物語の内容は覚えていないが、「特にこの、アジの開きを閉じて井戸に沈めるところが良いね」と家族に何度も褒められたので、そこだけは繰り返し学習の要領で覚えてしまった。本来の私の記憶力であれば、これが小学校三年生の時の出来事かどうかも危ういのだが、あまりの絶賛っぷりに「私は小学校三年生の時にアジの開きを閉じて井戸に沈める話でひと笑いとった女……」と二十年以上にわたり反芻してきたため、この記憶は99.9%正しいといえよう。

そういえば、私が敬愛する『ちびまる子ちゃん』も小学校三年生の設定だ。六年間ある小学校生活の中からあえて三年生をピックアップするからには何か理由があるに違いない。小学校三年生というのは、まるっきし子供なわけでもなく、かといって大人びてくるにはまだもう少しな、微妙な年齢なのかもしれない。子供の感性でありながらそこそこ知能も発達していて、まだ世界を知りすぎてもいない清らかがある。才能が伸びやすい年齢なのかもしれない。

私はアジの開き文学を褒められたことに気を良くして(なんと今もなお気を良くしている)、小学校高学年になる頃には「将来はさくらさくらももこみたいなエッセイを書いて印税ガッポガッポ生活」という全然かわいくない野暮を抱くようになった(といっても、一番は歌手になりたかったし、物書きも恥ずかしいので、表向きはピアニストということにしていた)。

当時の願いはどれもまだ叶っていないが、いつか才能の「ヘ」の字グラフが盛り上がり、隣り合った山の頂から、もう一度小学校三年生の頃と同じ景色が見られたらいいのになと思う。

HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞