あれは４度目のイギリス旅行から帰る飛行機でのことだった。シートベルトをして離陸するのを待って、さあ３週間の滞在よ、愛しのイギリスよさようなら。なにか映画でも観るか……と、座席前のモニター画面を、スーファミのコントローラーと固定電話の子機のキメラみたいなリモコンでポチポチ操作して見つけたのが、『ブリティッシュベイクオフ』という番組だった。

イギリスＢＢＣの人気料理番組で、アマチュアのベイカー（Baker）たちが焼き菓子やケーキをはじめとするスイーツ、パンなどを作って１位を競う内容で、これがとても面白かった。字幕も付いていなかったので、これまでの英語のおさらいにそのまま観てみよう……と、飛行機にいる間中ずっと真剣に視聴していた。

何度かの食事やら軽食やらドリンクやらの提供を経て眠る時間が来て、機内はまっくら、さてゆっくり眠りますかね、と目を閉じると、まもなくして頭の中に英語の断片のような音声が響き始めた。

...is very good...
...the star baker is...and I think...
...Congratulations...

うわなんだこれ、めっちゃ頭の中で英語聴こえるー！さっき観てたやつに出てた人の声とかがいっぱい聴こえるー！なんじゃこりゃ！という感じで私ははじめての体験にびっくりした。はっきりしっかり起きているのに夢を見ているというか、夢を聴いているというか、そんな感覚で、旅行中からずっと神経と頭を使っていたので脳か情報を処理しきれていないのだろうなと思った。

その日の機内では確かあんまり眠れなくって、ビンビンになった神経のままからだをあっちやこっちや向けて寝よう寝ようと努力していた。

この体験以後も、その日聴いた情報の残音が頭に響くということはぽつぽつあった。私はあんまり社交的な方ではないので、大人数の飲み会なんかに行くとワイワイガヤガヤとした音や会話のひとつひとつの端々がミックスされた音が聴こえたりした。

「音」が再生されるのは、自分が割と耳が良い方だからそういう機能もついてるのかなーくらいに捉えていたのだけど、ここ数日は映像のスライドショーも体験するようになってきたので更にびっくりしている（絵とか奥行きを掴むのとかが苦手なので）。

私は謎の奇病で俗世から離れた生活を送っているため日々本当にやることがないのだけど、６月からはとにかく夢中で『ハンターハンター』のコミックスを読み続けている。特にここ数日は発熱で自律神経がぶっ壊れたのでテレビも見られなくなり、その空いた時間のしわ寄せはすべてハンターハンターの解読に向かっている。

朝起きてご飯を食べてお風呂に入り、ハンターハンターを読み、お昼ごはんを食べてハンターハンターを読み、晩ごはんを食べてハンターハンターを読む、といった具合だ。その流れでそのまま床に就くと、電気を消して目を閉じた瞬間から目蓋の裏にハンターハンターのイラストがババババババババと凄い速さで表示されては消えていくようになった。

これには私も驚いて、眠くはあるけどまだ寝てもないのに、夢でもないのに、これは一体なんなんだ！？と、バッと目を開き、しばらく息を整えてまた目を閉じるのだけど、やはり見えるのは切り貼りされたハンターハンターのイラストのパッチワークで、誰かの首が吹っ飛んだ絵とか、凶悪なオーラをまとったモンスターの瞳とか、そういうグロいシーンばかりが高速でスライドショーされる。

ハンターハンターは内容が面白いから夢中で読んでいるのだけどバトル漫画なので残虐な描写も多く、作品として読む分には楽しいけど、寝る前の映像として見るにはあまりに怖すぎる。えーんなんでこわいよー！と、すみっコぐらしのぬいぐるみに抱きつき、世界観の中和を図ってぬいぐるみの単純でかわいいお顔を眺めながらうつらうつらと自らを入眠に誘う……ということを幾つかの夜繰り返し、今日に至る。

いくら面白くとも寝る前に怖いのはいやなので、１日に読む量と時間を考えようと思った。という話です。

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読んでいただきありがとうございます。
もう少し読みたい方へ、こんな話もあります。

おおきにフラワー🌷