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「腸のふるさとブルガリア」 #ヨーグルトのある食卓

人には「心のふるさと」とか「第2のふるさと」があると思うのだが、あまり「腸のふるさと」については語られることがない。心にはふるさとがあるのに腸にはふるさとがないとはこれいかに。私はつねづね臓器には平等でいたいと思っているので(どういうこと?)、この機会に「腸のふるさと」に想いを馳せてみたいと思う。

さて、ありとあらゆる国の食べものを日々飲み込んでいく腸ではあるが、やはり「何が本当に腸に良いのか」という視点で考えた場合、ヨーグルトの右に出るものはないだろう。続いて「ふるさととはどこあるか」という視点で考えると、それは土地であり国であるので、ヨーグルトといえば「ブルガリアヨーグルト」だから、この考え方でいくと、「私の腸のふるさとはブルガリア」ということになってくる。

一応断っておくが、前述の「ヨーグルトといえば『ブルガリアヨーグルト』」説には一同異論はないだろう。少なくとも私の腸内細菌たちは首を縦に振っている。もちろん、この説にたどり着くまでに私たち(私と腸内細菌)は何度も回り道をしてきた。途中で「カスピ海」なる謎の刺客が流行した時は少しうろたえたし、時には違う牧場に寄り道もしたけど、結局私たちはこのブルガリアの小さな田舎町へと帰ってきたのだ。

そんな紆余曲折を経て不動の地位を築いたブルガリアヨーグルトだが、我が家では昔から「無糖」が愛食されてきた。砂糖は加えずにフルーツやナッツを入れて味にバリエーションを出すのが定番の食べ方で、私たちは飽きもせずに毎日毎日「美味しいねぇ、美味しいねぇ……!」と、一杯のかけ蕎麦ならぬ一杯のかけヨーグルトに感涙している(誇張表現)。

食べ物って不思議なもので、いくら美味しい料理でも急に飽きが来たりするものだが、ヨーグルトにはそれがない。まるでお米のように毎日食べても全然飽きない。白いご飯に白いパンに白いヨーグルト。あれ、ヨーグルトって主食だったのかな……?



さて、「我が腸のふるさと」とまで言っておいて恐縮だが、私はもちろんブルガリアに行ったことなどない。「もちろん」と言うとおかしいかもしれないが、ハワイや台湾と比べればメジャーさが違う。はじめての旅行先、2度目の旅行先と選択するにあたり、あえてのブルガリアが出てくる人はまれであろう。関西地味なまち総選挙で1位を獲得した我が町内を聞いて回っても(そんな選挙はない)、渡航経験のある人は見つかるか見つからないか、五分五分といったところである。

にも関わらずだ。ここまで語れてしまうのが「ブルガリア」なのである。日常生活においてブルガリアに想いを馳せる時間はあまりに長い。はっきり言ってハワイより長い。「あー、ハワイ行きたいなー」と思う時間より、ヨーグルトを食べながら「あーおいしいなー、いつ食べてもこんなにおいしいなんて、美しく青きドナウならぬ美しく青きブルガリアのパッケージだなー」とかなんとか考える時間の方が長いのだ。だからこそブルガリアは「ふるさと」たり得るのである。日常に溶け込み、ふとした瞬間に懐かしめる、その距離感。

スーパーやコンビニ、冷蔵庫の中やテーブルの上。あらゆる場所でヨーグルトを目にするたびに、いつもほんの数秒だけ異国のイメージが浮かぶ。行ったこともなければまるで知りもしないのに、なぜか親しみ深く懐かしい感じがする。「ああ、また帰ってきたよ、ブルガリアにね……」と、テーブルの上の郷土料理(ヨーグルト)をたいらげては想像旅行を繰り返しているうちに、心の中には架空のブルガリア像が出来上がる。

生活や街並みのことなんて「ヨーグルトを食べている」くらいしかわからないから、私の中でのイメージはかなり漠然としていている。その国は真っ白なヨーグルト色をしていて、国土全体を俯瞰で見た地図のような形をしており、隣にはちょこんとカスピ海がくっついている。

もちろん真っ白な国などあるはずもないし、カスピ海の位置関係も間違っているのだろうけど、そうやって「ブルガリアってどんな国なのかな」と考えること自体が楽しいし、小さな頃から大切にしてきた時間でもある。なんでも調べればすぐにわかってしまう今だからこそあえて調べたくはないし、「腸のふるさとブルガリア」のイメージを崩さぬようにしている。

ヨーグルト売り場は異国への小さな出国ゲートだ。インターネットや海外旅行が主流になるよりずっと前から、日本の食卓で小さな国際交流の場を生んでくれた「明治ブルガリアヨーグルト」。もしかすると国としての「ブルガリア」と商品名としての「ブルガリア」には関わりがないのかもしれないが、それでもやっぱり何十年と培われてきた印象は大きい。

楽しい想像の日々をありがとう。
そして健やかな腸内環境をありがとう。

本当の出国ゲートからブルガリアへと旅立つ日が私にもやって来るのだろうか。いつかその時まで「腸のふるさとブルガリア」を想う習慣を大切にしておきたい。

HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞